横紋筋肉腫

横紋筋肉腫 (rhabdomyosarcoma)

本症は小児悪性腫瘍の5-8%を占め、軟部悪性腫瘍としては小児期で最も頻度の高い疾患です。泌尿器生殖器(膀胱、前立腺、精巣、子宮、膣など)、眼窩、鼻咽頭腔、副鼻腔、中耳などを含む頭頸部、四肢などが好発部位ですが、後腹膜腔、体幹などの本来骨格筋のないあらゆる部位から発生します。
本症は、骨格筋分化の最初に発現する骨格筋分化制御遺伝子であるMyoD1がすべての腫瘍細胞に発現しているため、発生母地は、将来骨格筋を形成する、あるいは悪性転化後に骨格筋分化能を発現した胎児の中胚葉または間葉組織に由来する悪性腫瘍と考えられています。1歳から4歳くらいに最も多く、約70%は10歳未満(1歳未満は5%)に診断されます。

臨床症状

発生部位により症状は様々ですが、腫瘍による正常臓器の圧迫や閉塞によって生じます。
鼻咽頭原発例では、鼻閉、口呼吸、鼻出血、嚥下困難や咀嚼困難などの症状が出現し、さらに頭蓋内へ局所浸展すると、脳神経麻痺、失明、頭痛や嘔吐などの頭蓋内圧亢進徴候が併発します。腫瘍が顔面や頬部に発生すると、腫脹、疼痛、開口障害が現れ、さらに侵展すると脳神経麻痺を発症します。頸部原発例では、局所への浸展が起こると領域の神経学的徴候を伴う進行性の腫瘍拡大と腫脹を引き起こします。眼窩原発例では、眼球の突出、眼瞼周囲の浮腫、眼瞼下垂、視力の変化および局所の疼痛を引き起こすので、病初期に診断されることが多いです。中耳原発例では、疼痛、聴力障害、慢性耳漏、あるいは耳道腫瘤が早期徴候として出現します。腫瘍がさらに侵展すると、脳神経麻痺や頭蓋内腫瘤の圧迫徴候が関連領域に生じます。連続性のクループ様咳嗽および進行性の喘鳴は、喉頭発生の横紋筋肉腫の初発症状のことがあるので、注意が必要です。
体幹または四肢の横紋筋肉腫は、有痛性あるいは無痛性の皮下腫瘍を触知して初めて気付かれることが多く、当初は外傷後の血腫と誤診されることもあります。腫脹が改善しないか、または増大するときは、本症も考慮しなければなりません。
泌尿生殖器原発例では、血尿、下部尿路の閉塞、再発性尿路感染症、失禁などの症状を呈します。また、腹部の触診ないしは直腸診で腫瘍を触知出来ることがあります。傍精巣原発例では、通常、陰嚢内で疼痛の無い腫瘍が急速に増大します。腟原発例では、腟開口部に突出するブドウ状の腫瘤(ブドウ状肉腫)を形成し、腟出血や尿路・直腸の閉塞症状を呈することがあります。子宮原発例でも同様の所見を呈することがあります。
診断時には既に肺、骨、骨髄、リンパ節などに遠隔転移(胞巣型に比較的多い)し、呼吸障害、症候性高カルシウム血症、貧血などを呈する場合もあります。骨髄転移例では白血病と診断される場合もあります。

病理組織分類

胎児型、胞巣型、多形型に大きく分けられますが、更に亜型分類されています。
尚、胎児型横紋筋肉腫では、11p15.5周辺のLoss of heterozygosity (LOH)が報告されており、この領域・周辺に存在する癌抑制遺伝子の喪失の関与が推察されています。
一方、胞巣型横紋筋肉腫では、50‐80%に認められる染色体転座t(2;13)(q35;q14)の切断点にはキメラ遺伝子PAX3-FKHRが、また5‐8%に見られるt(1;13)(p36;q14)にはPAX7-FKHRキメラ遺伝子が同定されています。

1) 胎児型は、小児の横紋筋肉腫では最も多く(約60%)、胎児型の46%が5歳未満に発生します。腫瘍細胞は小円形または紡錘形で核の多型性は少なく、細胞質は乏しく好酸性顆粒を有し、横紋のある横紋筋芽細胞がみられることがあり、診断の手掛かりとなります。発生部位は、頭頚部(約47%)、泌尿生殖器(約28%)の順に多い。一般的には、治療に反応しやすく、比較的予後良好と考えられています。

a. ブドウ状亜型 (botryoid variant)

約6%を占め、組織学的には胎児型に属するが、肉眼的にはブドウの房状の外観を呈します。泌尿生殖器、胆道・消化管、鼻咽頭、結膜、外耳道に発生し、乳幼児に多い。中間的予後を示します。

b. 紡錘細胞亜型 (spindle cell variant)

好酸性で細線維状の胞体を持つ長紡錘形の腫瘍細胞が、全体の80%以上を占めます。腫瘍細胞は、平滑筋肉腫に似た束状ないし花むしろ状構造を呈します。進行例は少なく予後良好です。

c. 退形成亜型(anaplastic variant)

クロマチンに富む核を持つ大型のatypical cellがみられます。胎児型と胞巣型の両方に見られる亜型ですが、前者に多い。diffuse anaplasticであると予後は不良です。

2) 胞巣型は、横紋筋肉腫の約20%を占めるとされますが、キメラ遺伝子検索結果の補完などで、その診断頻度は増加傾向にあります。腫瘍が組織構築上、胞巣状に増殖し、腫瘍細胞自体は未分化な小円形細胞で、隔壁に吊るした柿状に付着しているのが特徴です。年少児よりも年長児や若年者に多い(平均9.0歳)です。四肢に比較的多く発生するのが特徴ですが、体幹、頭頚部にも時々みられます。周囲の組織に浸潤性に拡大し、遠隔転移しやすく、予後不良です。胞巣型横紋筋肉腫の50‐80%に認められる染色体転座t(2;13)(q35;q14)の切断点にはキメラ遺伝子PAX3-FKHRが、また5-8%に見られるt(1;13)(p36;q14)にPAX7-FKHRキメラ遺伝子が同定されています。

a. 固形亜型(solid variant)

隔壁を欠き、様々な段階の横紋筋分化をもった円形細胞がシートを形成します。

b. 胎児胞巣混合亜型(mixed embryonal / alveolar)

胎児型と混在し、混合型と診断されることもあります。

c. 退形成亜型(anaplastic variant)

3) 多形型は、大型で異型のある核と好酸性の細胞質をもつ多形性に富む腫瘍細胞からなり、胎児型及び胞巣型の成分がはっきりしないが、免疫組織学的に筋原性マーカーが認められます。 50歳以降の成人の四肢に多く、小児にみられることは稀です。PAX3-FKHR、PAX7-FKHRのいずれかのキメラ遺伝子を持つことが多く、予後は不良です。

診断

腫瘍の原発部位、病期(治療前ステージ分類と手術後グループ分類)、組織型(特に胎児型か胞巣型)の診断が、治療計画、治療効果と予後を知るために重要です。
一般検査に加えて、超音波、CT、MRI、全身骨サーベイランスまたは骨シンチ、骨髄穿刺検査などを行います。腫瘍の組織診断のための生検は必須です。最終診断は腫瘍組織の免疫組織所見(新鮮凍結切片によるMyoD1蛋白抗体染色、myogenin蛋白抗体染色)、遺伝子解析結果を含む病理学的診断によります。胞巣型横紋筋肉腫の診断には、キメラ遺伝子PAX3-FKHRとPAX7-FKHRの発現の有無の解析が有用です。四肢原発腫瘍では、腫瘍の進展程度(病期)を知るために、領域リンパ節の生検が必要です。

分類

■外科切除後グループ分類
グループI:病理組織学的に全摘出された限局性腫瘍(いかなる領域にもリンパ節転移を認めない)
グループII:肉眼的に全摘出された領域内に組織学的に腫瘍残存を認める(原発巣切除団端に顕微鏡的腫瘍残存and/or領域リンパ節に転移を認める)
グループIII:肉眼的に腫瘍が残存(生検のみ、または50%以上の部分切除)
グループIV:遠隔転移を認める

■TNMステージ分類
T1:原発部位に限局 T2:原発部位を越えて進展または周囲組織へ癒着
N0:リンパ節転移無し N1:領域リンパ節に転移あり(画像または理学所見上) Nx:転移の有無が不明
M0:遠隔転移無し M1:遠隔転移あり

■RMSステージ分類
ステージ1:眼窩、頭頚部(傍髄膜を除く)、泌尿生殖器(膀胱、前立腺を除く)
ステージ2:上記を除く全ての部位で、リンパ節転移無し (N0) あるいは転移の有無が不明 (Nx)
ステージ3:上記を除く全ての部位で、腫瘍の大きさが5cm以下でリンパ節転移あり (N1)、あるいは腫瘍の大きさが5cm以上でリンパ節転移あり (N1)または転移の有無が不明 (Nx)
ステージ4:全ての部位で、遠隔転移を伴う

治療

腫瘍の原発部位、病期、組織型によって、治療方針が決定されますが、現在の本症に対する標準的治療は、外科手術、VAC療法(ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミドの3剤併用療法)と放射線治療の組み合わせです。

外科手術

腫瘍が局所に限局したものであっても外科切除後に化学療法が必須であり、多くの場合放射線療法も必要となるため、術中の迅速組織学的診断を行い、切除断端の腫瘍遺残、リンパ節転移の有無の評価は必須です。
また、原発巣によって手術方法が異なり、四肢原発の腫瘍に対しては積極的な領域リンパ節の郭清と広範囲切除の重要性が強調されています。頭頸部や泌尿生殖器原発の腫瘍では化学療法や放射線療法を行った後の二期的腫瘍摘除が推奨されています。傍精巣部では、10歳未満の症例でCT上領域リンパ節の腫大がなく、肉眼的にも組織学的にも完全に摘除できた例は後腹膜リンパ節郭清を必要としないが、CT上リンパ節の腫大を認める場合にはstaging ipsilatertal retroperitoneal lymph node dissection(SIRPLND)を行います。10歳以上の症例では、CTで転移が疑われなくても全例にSIRPLNDを行います。

化学療法

低リスク群ではVAC療法が奏功しますが、中間リスク群ではその効果が低減してきます。高リスク群では効果が少なく、新たな新治療が必要とされています。

放射線療法

放射線治療は、局所再発抑制として重要な役割を持つが、成長発達中の小児には放射線による晩期障害(頭頸部では唾液腺障害、肺では肺腺腫症、子宮では放射線直腸炎&放射線膀胱炎、直腸膣瘻、不妊、腋窩リンパ節ではリンパ浮腫など)を生じるため、その対策も必要です。

予後

予後良好組織型の胎児型(ブドウ肉腫亜型あるいは紡錘細胞亜型を含む)で、治療開始時に遠隔転移がなければ、発生部位にかかわらず、治療開始時に肉眼的腫瘍摘出が可能であれば約90%、可能でなくても75%近い生存率(3年無病)になります。
しかし、初診時すでに遠隔転移があるGroup IV, Stage 4(全体の約14%を占める)例では、生存率は依然30%にとどまっています。
発生部位では、(1)泌尿生殖器(膀胱と前立腺を除く)、(2)眼窩・眼瞼、(3)頭頸部(傍髄膜を除く)は予後良好部位(favorable tumor sites)として他の発生部位と区別されます。予後良好部位に発生した横紋筋肉腫の生存率(3年無病)は、腫瘍の臓器・組織外への浸潤の有無、腫瘍径、領域リンパ節転移の有無のいずれにもかかわらず、遠隔転移さえなければ(Stage1)86%と良好です。 
Stageでは、1, 2, 3と4毎に有意差をもって予後不良となりますが、1と2、3の違いは発生部位が予後良好部位であるか否かであり、2と3の違いは領域リンパ節転移の有無、ないしは腫瘍径が5 cm以上か以下かによります。
組織型では、生存率(3年無病)は、胎児型(ブドウ肉腫亜型、紡錘細胞亜型を含む)、胞巣型、不明型、未分化型で各々、83、66、66、55%と順に不良となります。特に、キメラ遺伝子PAX3-FKHRを発現する胞巣型横紋筋肉腫の予後は極めて不良です。 年齢では、生存率(3年無病)は、1歳未満、1歳から9歳、10歳以上で各々55、83、68%と1歳未満と10歳以上で比較的不良です。

執筆:2012.10

▲PageTop

ページトップに戻る