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血管内皮細胞と一酸化窒素(NO)& NO合成酵素

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血管内皮細胞と一酸化窒素(NO)& NO合成酵素(Nitric Oxide synthase;NOS)

血管内壁は一層の血管内皮細胞で覆われており、血管内皮細胞は様々な生理活性物質の産生・分泌[一酸化窒素(NO)、プロスタサイクリン(PGI2)、内皮由来過分極因子(endothelium-derived hyperpolarizing factor; EDHF)など]をして血管の恒常性維持を行なっている。
とりわけ、血管トーヌス(主に拡張)を調節しているのがNOであり、アミノ酸の一種L-アルギニン(L-Arg)からNO合成酵素(Nitric Oxide synthase;NOS)により合成される。NO は不対電子を有するフリーラジカルでその作用発現時間は短く(半減期は3-6秒程度)、常温において気体の状態で存在し、生体膜を自由に通り抜けて細胞情報伝達因子として機能する。
NOSは常時細胞内に一定量存在する構成型cNOS(神経型のnNOS および血管内皮型のeNOS)と炎症やストレスにより誘導される誘導型iNOSに分類される。特にeNOSは血管でずり応力(shear stress)が長期間働く部位では活性が増強し、NO産生が亢進する。また、ブラジキニン、アセチルコリンなどもeNOSを活性化させる。
NOSはL-ArgからL-シトルリン(L-Cit)とNOを合成する代謝反応に関与する酵素で、NOSの補酵素としてカルモジュリンや還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)が働いている。
因みに、PGI2はguanylate cyclaseを活性化してcAMPを上昇させ、プロテインキナーゼA依存性に血管平滑筋を弛緩させ、EDHFは血管平滑筋細胞を過分極させることにより弛緩させるが、その本体はまだ同定されていない。

NOの機能

下記のように、NOは基本的には抗動脈硬化作用を行い、多種類の生理活性物質と相互反応をしながら適正なNO量で血管の働きを維持している。

1)血管拡張作用(降圧作用):血管内皮細胞より産生されたNOは、血管平滑筋を弛緩させて血管を拡張させるので、血圧が低下する。その機序はNOが細胞内guanylate cyclaseを活性化してcGMPを上昇させ、プロテインキナーゼGを活性化させる。これにより筋肉の収縮に関与するCa2+細胞内流入が抑制されるため、結果として血管平滑筋は弛緩し拡張する。また、NOは、プロスタサイクリン(PGI2)合成酵素を活性化し、PGI2の産生を増加させて細胞内cAMP濃度を上昇させ、NO産生を更に増加させる。
尚、NOの産生経路は亜酸化窒素の分解による経路も存在するため、ニトログリセリン・亜硝酸アミル・一硝酸イソソルビドなどの亜硝酸誘導体がNOに変化して心臓の冠動脈を拡張させて狭心症などの治療に用いられる。発毛剤ミノキシジル(リアップ®)はcGMP 分解を抑制して毛細血管の血流量を増やす。陰茎の勃起にもNOは関与しており、cGMP 分解抑制薬であるシルデナフィル(バイアグラ®)はこのメカニズムを利用したものである。また、この薬で肺動脈の血管平滑筋を弛緩させ、肺高血圧を改善させることができる。
2)血小板凝集抑制作用:血管内皮細胞により産生されたNOは血小板内のcGMPレベルを上昇させることにより血小板凝集を抑制すると考えられている。この作用はアラキドン酸代謝物であるトロンボキサンA2(TXA2)の血小板凝集促進作用と拮抗する。
3)細胞接着因子(VCAM、ICAM、セレクチンなど)の発現を抑制し、白血球やマクロファージなどが血管内皮細胞に接着したり、内皮細胞下組織に浸潤するのを防止する。
4)その他にも、NOは血管平滑筋細胞の増殖抑制作用、血管内皮細胞の血管透過性調節作用、活性酸素産生抑制や不活化作用、活性酸素による脂質酸化抑制作用、炎症性サイトカイン分泌抑制作用、細胞障害作用や殺菌作用、アポトーシス抑制など種々の作用を示す。

血管内皮細胞の老化と動脈硬化

「人は血管と共に老いる」と言われるほど、老化は動脈硬化や高血圧による心血管系疾患の重要な危険因子の一つである。実際、動脈硬化血管では血管内皮細胞の機能低下が進行しており、血管内皮細胞内外に存在する血管収縮や拡張する生理活性物質が減少したり、それら物質に対する反応が減弱している。特にNO産生低下とその主作用である血管拡張反応が減弱し、シクロオキシゲナーゼ(COX)由来血管収縮物質(TXA2、PGH2など)、アンギオテンシンII、エンドセリン-1などの産生増加による血管収縮優位の環境が動脈硬化の元凶とされる。例えば、血管内皮細胞機能が保たれている若い血管ではアセチルコリンに対して弛緩反応を示すが、内皮機能が低下している老化した血管では反応は減弱ないし消失、あるいは逆に収縮する。このような血管内皮細胞の機能低下は更に血管攣縮や血栓形成、マクロファージの血管内侵入、炎症反応促進、プラーク形成を引き起こして動脈硬化を加速する。
更に、加齢に伴い血管構造も変化して動脈では主に血管内膜が肥厚して動脈壁厚が増加し、血管が硬化して弾力性も低下してくる。血管内膜肥厚の原因には、血管細胞外器質の異常[血管平滑筋細胞からのコラーゲン分泌増加と質の低下、エラスターゼ活性の増加によるエラスチン産生の低下、終末糖化産物(AGEs)生成物の産生と沈着増加など]、局所の炎症性反応[炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1b、IL-6、IL-17など)の発現増加、活性酸素種(ROS)の増加、細胞間接着因子の活性増加など]による平滑筋細胞やマクロファージや炎症性細胞の遊走と増殖などが考えられる。
老化と共に血管平滑筋細胞自身の機能も変化しており、細胞増殖や遊走能が亢進して、生理活性物質に対する反応も変化し、Ca2+活性化K+チャンネル密度が減少して、血管収縮因子やK+に対する反応が亢進している。

血管内皮細胞の老化の原因

加齢に伴い、上述のNOの機能が低下して動脈硬化が進展すると共に高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、閉経などの因子も助長するが、最近の研究では、血管細胞自体の老化が動脈硬化発症に関与していることが示唆されている。
1)細胞老化を生じる有力な説は、細胞分裂に伴いテロメアが短縮して、ある一定の長さまで短縮すると細胞は分裂停止状態になるというテロメア短縮/機能不全説である。血管内皮細胞は体細胞であるため細胞分裂回数は有限で、一定期間の増殖を繰り返すと細胞老化と呼ばれる分裂停止状態に至る。この様な細胞ではeNOS発現低下あるいは活性低下、NO産生低下、炎症性分子の発現亢進、ROS産生増加などの機能低下障害が目立ち、また形態学的にも異常を呈することが多くなり、血管内皮細胞の細胞老化が動脈硬化発症に関与していると考えられる。
2)加齢と共にL-arginaseの発現あるいは活性が亢進すると、L-arginineが減少するため、NO産生が低下する。また、eNOSの補因子であるtetrahydrobioproterin(BH4)が減少すると、eNOSの安定性と活性低下を招き、更に酸化ストレスを増強させ、NO産生が低下する。
3)老化により、ミトコンドリア機能不全・superoxide disumutase(SOD)機能低下・NADPHオキシダーゼやキサンチン酸化酵素などで細胞内活性酸素種が増加してくると、NOとO2-が反応して酸化窒素種(RNS)の一つであるONOO-(peroxynitrite)という強力な酸化力や毒性を持つラジカルが生成されて蛋白質をニトロシル化して傷害する。また、この反応のためにNOが消費されるためNO量が減少する。更に、老化と共に酸化ストレスや炎症反応が誘起されやすい環境になると、iNOS活性が亢進してNO 産生が増加してONOO- が大量に産生されて、細胞機能の低下を助長する。
4)加齢に伴い炎症性サイトカイン(TNF-αなど)の発現が増加して、細胞接着因子の発現亢進、白血球などによる血管内皮細胞への接着ならびに内皮細胞下組織への浸潤が亢進して、血管内皮細胞機能が低下する。例えば、TNF-αの発現が亢進すると、ミトコンドリア機能不全やNADPHオキシダーゼ酵素機能を増強させてROS/RNSの産生を増加させ、NOS産生が低下する。また、TNF-αはその他の炎症性サイトカインの発現を促進し、あるいは細胞成長を鈍化させたりアポトーシスを誘導するため、血管内皮細胞機能を低下させる。一方では、ROS産生過剰によるnuclear factor-κB(NF-κB)の発現が亢進し、慢性炎症に関与するサイトカインやケモカイン、細胞接着因子などの遺伝子発現を促進する。
5)加齢と共に酸化LDLが増加してくると、血管内皮細胞の弛緩反応が減弱する。酸化LDLはNOS活性を抑制してNO産生低下させると共にNO分解を促進し、血管内皮細胞機能を低下させる。また、酸化LDLはその他血小板凝集亢進、白血球の遊走・接着促進、平滑筋増殖促進などNOと相反する作用を有し、動脈硬化を促進していると考えられている。
6)klotho蛋白はCa/P代謝の制御のみならず、IGF-1やFGFシグナル伝達経路などを介して抗老化作用を有すると考えられている。血管内皮細胞に対してもNO産生に関与したり、酸化ストレスを抑制したり、アポトーシスと細胞老化を抑制してその機能低下を防止していると考えられるが、その詳細な機序に関しては未だ不明である。