美白剤(トレチノイン、ハイドロキノン)
肝斑、雀卵斑、炎症後色素沈着、光老化(しみ、そばかす、老人性色素斑など)などに有効です。下記に代表的な美白剤を紹介します。
ナノエッグ軟膏(トレチノイン・ナノカプセル製剤)
トレチノインの効果
トレチノインはビタミンA(レチノール)の誘導体で、その生理活性はレチノールの約100- 300倍です。トレチノインは表皮のターンオーバーを促進し角質を剥がれやすくし、角質層を増殖させて表皮を厚くし、皮脂腺の分泌を抑制し、表皮基底層周囲に存在するメラニン顆粒の排出を促進します。また、真皮では線維芽細胞を刺激することにより、コラーゲン線維やムコ多糖(ヒアルロン酸など)を増やして真皮を厚くしますが、その効果の発現には時間を要します。
尚、皮膚刺激症状(ひりひり感、痒み、発赤、腫脹など)が外用開始後2-4週に生じ、遅れて皮膚乾燥や落屑が出現しやすいとされます。また、催奇形性の可能性があるため、外用治療中は避妊して頂き、妊娠中・授乳中の方は使用を控えて下さい。
トレチノインの治療対象
トレチノインは、光老化、にきび、小じわ、色素沈着(しみ・くすみ・にきび跡・そばかす・怪我や火傷や手術後の色素沈着・炎症後色素沈着・肝斑)などの治療に用いられています。
ナノエッグ軟膏の特徴
聖マリアンナ医科大学難治治療センターで開発されたナノエッグは、高温や光で劣化しやすく保存が難しいとされたトレチノインを非常に小さな粒子のナノカプセル(径10-15nm)の中に閉じ込めて、安定化したものです。ナノエッグは、ナノサイズのカプセルから少しずつ有効成分が放出して作用するために、刺激性や炎症などの副作用が低減し、皮膚への浸透性も良好です。そのため、ナノエッグ軟膏は低濃度トレチノインですが、従来の外用剤以上の効果が期待できます。また、本製剤は常温で約1年間保存が可能です。
外用の注意点
- 外用開始2週目に必ず診察にお越し下さい。副作用は従来品よりは非常に少なくなっていますが、個人差がある為に副反応が生じる可能性があります。
- 使用方法は医師の指示を遵守して下さい。赤くなったり、ヒリヒリやチクチクなどの刺激感、痒みなどが強く出現する場合は、使用回数を減らしたり、外用を一時中止して下さい。皮膚刺激症状(ひりひり感、痒み、発赤、腫脹など)が悪化する場合は、速やかに連絡してご来院下さい。
- 洗顔時にポロポロと皮が剥けることがあっても、無理に剥がさないようにして下さい。
- 外用中、日焼けは禁物です。外出時は日焼け止めを必ず塗り、帽子や日傘などで直射日光を避けて下さい。
- 催奇形性の可能性があるため、外用治療中は避妊して頂き、妊娠中・授乳中の方は使用を控えて下さい。
※トレチノイン外用薬は欧米など海外では広く認可されていますが、本邦では厚生労働省では未認可であるため、製品としては販売できません。各病院で自家調合しているのが現状です。
ハイドロキノン
ハイドロキノンはチロシナーゼ活性を阻害してメラニン合成を阻害し、また、メラノサイトの細胞活性を抑制して漂白作用をおこします。欧米で最も汎用されている安全性が高い可逆性の美白剤ですが、我国では未認可です。しかし、現実には2~10%濃度のハイドロキノンが流通しています。副作用としては、刺激性接触皮膚炎、爪変色、炎症後色素沈着、脱色素斑などがありますが、使用中止すると軽快するとされます。長期使用で組織褐色変症を生じることがありますが稀です。
αリポ酸クリーム
αリポ酸(チオクト酸)は、細胞のミトコンドリアに存在して生体のエネルギー産生反応における補酵素として働く含硫化合物です。生体機能に不可欠な成分ですが、体内で合成することができるためビタミンではなく、ビタミン様物質として扱われています。また、αリポ酸は抗酸化作用並びにアンチエイジング作用がありますが、加齢と共にその量が減少してきます。
更に、αリポ酸の皮膚への作用として下記のような効果が確認されています。
- 表皮内でのヒアルロン酸などの粘性物質の分泌を促進し、皮膚の水分保持を高めます
- 真皮でのコラーゲン分泌を促進し、健常なコラーゲンを再生します
- 表皮の新陳代謝を促進して、色素排出の効果があります
上記のような作用により、αリポ酸を直接皮膚へ塗布すると、皮膚老化(クスミ、シミ、シワなど)を防止して、皮膚の弾力や質感を改善することが期待できます。
当院で採用しているαリポ酸クリームは、聖マリアンナ医科大学難病治療研究センターで開発されたナノカプセル化した製剤のため、皮膚浸透性が良好で高濃度のαリポ酸を十分に補給できるようになっています。従って、実年齢以上の皮膚の若返りも期待できます。
ビタミンC誘導体
ビタミンCはドーパキノンをドーパに還元して間接的にチロシナーゼ活性を阻害してメラニン合成を阻害する美白剤です。ビタミンCの安定化ならびに経皮吸収を促進するために、その誘導体が開発されています。ビタミンCは真皮に直接作用してコラーゲンの再生を促し、また、抗酸化作用を持つため、紫外線により生じる活性化酸素を無害化する作用があります。ケミカルピーリング後やイオントフォレーシス時にビタミンCを使用すると、経皮吸収が促進します。
トラネキサム酸(トランサミン)
一般的に、トラネキサム酸はプラスミンの働きを阻止し、また、抗アレルギー・抗炎症・止血作用を有します。
- 抗プラスミン作用
トラネキサム酸は、プラスミンやプラスミノゲンのフィブリンアフィニティー部位であるリジン結合部位(LBS)と強く結合し、プラスミンやプラスミノゲンがフィブリンに結合するのを阻止します。このため、プラスミンによるフィブリン分解は強く抑制されます。更に、α2-マクログロブリン等血漿中アンチプラスミンの存在下では、トラネキサム酸の抗線溶作用は一段と強化されます。 - 止血作用
異常に亢進したプラスミンは、血小板の凝集阻止、凝固因子の分解等を起こしますが、軽度の亢進でも、フィブリン分解がまず特異的に起こります。従って、一般の出血の場合には、トラネキサム酸はフィブリン分解を阻害することによって止血すると考えられます。 - 抗アレルギー・抗炎症作用
トラネキサム酸は、血管透過性の亢進、アレルギーや炎症性病変の原因になっているキニンやその他の活性ペプタイド等のプラスミンによる産生を抑制します。
肝斑に対するトラネキサム酸の有効性
肝斑においては、紫外線や炎症などにより生体内情報伝達物質であるアラキドン酸、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどの産生などが過剰となってメラニン合成亢進に傾くが、トラネキサム酸はこれらの物質の産生を抑制してメラニン合成を減少させて、肝斑を改善すると考えられています。さらに、紫外線照射により、表皮の角化細胞はプラスミンやプラスミノゲンが増加して、様々な経路を介して色素沈着を起こすと考えられており、トラネキサム酸はその抗プラスミン作用で、色素沈着改善に寄与していると想定されます。しかし、未だ肝斑の色素沈着の機序および肝斑に対するトラネキサム酸の作用機序は完全には解明されていないのが現状です。
通常用量は750-1500mg/日を3~4回に分割経口投与し、肝斑では数ヶ月以内に効果が出現します。
副作用はおよそ1%前後で、食欲不振、胸やけ、悪心、嘔吐、下痢、発疹などがあります。
また、血栓のある患者(脳血栓、心筋梗塞、血栓性静脈炎等)及び血栓症があらわれるおそれのある患者、長期臥床や圧迫止血の処置を受けている患者(静脈血栓を生じやすい状態)、腎不全患者には慎重な投与が必要です。
トロンビンとは併用禁忌、ヘモコアグラーゼ、バトロキソビン、凝固因子製剤とは併用注意です。
その他の美白剤
アルブチニン
アルブチニンは主にコケモモの植物に含まれるハイドロキノンのグルコース配合体で、チロシナーゼならびにTRP-1阻害作用を持ち、メラニン生成抑制作用を示します。
エラグ酸
エラグ酸は、マメ科植物タラに含まれるタラタンニンの酸化によって生成される。コウジ酸と同様の機序(チロシナーゼの活性に必須の銅をキレートしてこの酵素を不活化)で、美白効果を示します。
ルシノール
ルシノールは、モミの木に含まれる物質を原料として得られるレゾルシン誘導体の一種です。ルシノールはチロシナーゼを拮抗的に阻害し、TRP-1活性阻害作用も併せ持ちます。また、これら細胞内酵素蛋白質量を減少させる作用もあります。
油溶性甘草エキス
甘草の根から抽出したもので、主成分としてグラブリジン、グラブレンなどが含まれています。ハイドロキノンより強いチロシナーゼ活性阻害作用を持ちます。TRP-2の働きおよびDHIへの自然酸化も抑制します。
アゼライン酸
米国ではにきび治療として認可されており、育毛効果を持つと言われています。ハイドロキノンより強い美白効果を持ちますが、その詳細な機序は不明です。
カモミラET
カモミラETはカミツレからのスクワレン抽出物で、チロシナーゼ活性阻害作用は無く、メラノサイトを刺激するエンドセリン-1の細胞内シグナル伝達系を抑制して美白効果を発揮します。
L-システイン
L-システインはSH基を持つ含硫アミノ酸で、表皮に多量に存在します。L-システインのメラニン生成阻害作用は、の銅との結合ならびに淡黄褐色のフェオメラニン合成の促進によるものとされます。
リノール酸
リノール酸は大豆油脂中に多く含まれるC18必須不飽和脂肪酸です。チロシナーゼ活性阻害作用はありませんが、メラノサイトの細胞内チロシナーゼ蛋白が分解されて、その活性が低下することにより、美白効果を示します。
プラセンタエキス
胎盤抽出液の総称で、成分は多種多様な生物因子を含む混合物です。メラニン生成抑制作用がありますが、この他にも保水性、角質溶解作用、抗炎症作用、血流促進、創傷治癒促進作用などがあり、それらの相乗効果で美白効果を示すと考えられています。
ビタミンEフェルラ酸エステル
メラノサイトに対する細胞毒性は示さずに、チロシナーゼ活性を阻害する作用がある。