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とびひ(伝染性膿痂疹)

品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック > とびひ(伝染性膿痂疹)

接触によってうつって、火事の飛び火のようにあっと言う間に皮膚全体に拡大することから、例えて「とびひ」と呼ばれていますが、正式病名は伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)です。皮膚の細菌感染症の一つの病態で、起因菌の主なものはブドウ球菌、表皮ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌(溶連菌)です。

とびひは概ね2種類の臨床像に分けられ、1つは水疱(みずぶくれ)ができて、びらん(ペロッと皮膚がむける)を生じやすい水疱性膿痂疹で、とびひの多くがこれに相当します。もう1つは炎症が強く、厚く痂皮(かさぶた)が付いた痂皮性膿痂疹です。この他にも特殊な病型がありますが稀です。

1)水疱性膿痂疹

水疱性膿痂疹は黄色ブドウ球菌が原因で、この菌が産生する表皮剥脱毒素(exfoliative toxin)が皮膚(特に表皮顆粒層)を侵すことによって水疱が形成されます。 乳幼児・小児に好発し、特に初夏から真夏に多く発症します。虫刺されやあせも、湿疹、擦り傷の部位をひっかいて、二次感染を起こしてとびひに進展することが多いのです。また、鼻孔の入り口には様々な細菌が常在しているため、幼児・小児で鼻くそをほじくる癖があると、鼻の周囲からとびひが始まったり、その手であせもや虫刺されなどをいじることでとびひになってしまいます。 掻き壊したびらんの周囲に小水疱が出来て、さらにその周囲が赤くなってきます。水疱内は、はじめは透明ですが、次第に膿疱化(みずぶくれの中に膿が入っている)します。水疱や膿疱は容易に破れてびらんを生じ、その水疱内容液や浸出液(びらん面からしみ出て来る液)がさらに周囲へと拡大・増勢していきます。
治療
フシジン酸ナトリウムやテトラサイクリン系抗生物質の軟膏を塗って、時にはその上にリバノール亜鉛華軟膏を貼って全体をガーゼで覆います。1日に1~2回取り替えます。水疱は小さなものは潰さないが、大きな水疱はその内容液が周囲に付着しないように排出させます。広範囲に病変がある場合は抗生物質の内服をする場合もあります。 最近では上記治療でなかなか治らない場合も少なからずあり、この場合は通常の抗生物質に反応しない原因菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌;MRSA)を考慮して適切な治療をする必要があります。出来れば治療開始前に細菌培養して原因菌の検索ならびに抗生物質に対する感受性検査をするのが理想的です。 とびひは痒みが強いので、かきむしって病変が拡大しないように抗ヒスタミン薬の内服をすることも必要な場合もあります。

2)痂皮性膿痂疹

痂皮性膿痂疹の原因菌はA群β溶血性連鎖球菌です。痂皮性膿痂疹はアトピー性皮膚炎などに合併することが多く、かなり急速に発症します。季節にはあまり関係なく、小児より成人に多く見られます。 症状は、赤く腫れた部位に、小さな膿疱・びらんを生じ、さらに厚い痂皮ができます。炎症・腫脹が強く、疼痛を伴います。重症になると、菌が産生する毒素によって猩紅熱のように全身が潮紅する場合があり、発熱・リンパ節腫脹、時に咽頭痛などの全身症状を呈することもあります。溶連菌の重症感染では、腎障害の併発が稀に見られるため、直ってからも数週間は尿中蛋白のチェックが必要です。
治療
溶連菌に感受性のあるペニシリン系またはセフェム系抗生剤の内服を行います。症状が重症の場合は点滴注射で、全身投与をする必要があります。溶連菌はアミノグリコシド系抗生物質にはほとんど感受性がないため、外用はエリスロマイシン軟膏など感受性のある抗生物質を用います。

3)その他の病型

通常の伝染性膿痂疹は限局性の部位のみの症状ですが、時に全身に影響を及ぼす状態があります。ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome;SSSS)、毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome;TSS)、劇症型A群連鎖球菌感染症(toxic shock-like syndrome;TSLS)、溶連菌感染症(猩紅熱)などがあります。

SSSSは、とびひの原因の黄色ブドウ球菌が産生する毒素(exfoliative toxin)によって、表皮が侵され、熱傷のように剥けてしまいます。乳児・小児に好発して、かつては命を脅かす疾患でしたが、早期に発見して治療を開始すれば、有効な抗生物質によって重症にならないですみます。

TSSは、突然高熱・悪心・下痢・筋肉痛・関節痛などで発症し、全身にびまん性に紅斑が出現して多彩な多臓器障害を合併します。黄色ブドウ球菌の産生するTSS toxin-1やエンテロトキシンが原因とされます。

TSLSは、A群連鎖球菌による急激に進行する敗血症性ショック症状を呈する状態です。
急激に発症して発熱・壊死性筋膜炎、腎不全、DIC、ARDS、敗血症などで多臓器不全になり、予後不良です。

溶連菌感染症はかつて猩紅熱と言われた病態で、A群β溶血性連鎖球菌による全身性の感染症です。通常は咽頭に感染した溶連菌の発赤毒によって生じ、咽頭痛と発熱で発症してほぼ同時期に紅色の小皮疹が頚・腋窩・鼠径部などから体幹に拡大し始めます。顔面では両頬に紅斑がみられ口囲は蒼白になり、苺状舌を呈してきます。腎障害やリウマチ熱などの合併が稀ながらあるので、十分な治療が必要になることがあります。

とびひに対するご家庭での対策

特に夏は入浴し、皮膚を清潔にしましょう。とびひを発症させてしまった場合も、発熱などの全身症状がない限り、湯舟に入らず、シャワーを使って入浴させ、泡だたせた石鹸で病変部をそっと丁寧に洗い流します。但し、兄弟姉妹がいる場合は、他の子供達が入浴後、最後に入浴させるほうがよいでしょう。入浴後は、浸出液などが周囲に接触しないように、患部に軟膏の外用、ガーゼなどの保護処置が必要です。

鼻下から発症する膿痂疹をしばしば見ますが、外鼻孔はブドウ球菌などの細菌の温床で、常在菌としてもブドウ球菌が証明されることもあります。小児には鼻孔に指を突っ込まないように指導します。

手洗いの励行、爪を短く切って、掻破したり、皮膚に傷つけたりしないようにさせることも大切です。

社会生活に対する注意点

伝染性膿痂疹は学校伝染病になっています。ほかの園児・学童にうつす可能性があるため、医師にみてもらって登校許可がでるまでは登園・登校できません。治療して、病変部をガーゼや包帯できちんと覆って露出していなければ、概ね登園・登校許可を得られます。病変が広範囲の場合は休ませるほうがよいでしょう。 自分の病変を悪化させたり、他人に移す恐れがありますので、プールや水泳は完全に治るまでは禁止です。

執筆:2009.11