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帯状疱疹

帯状疱疹とは?

水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染では水痘(みずぼうそう)として発症します。この時に、このウイルスが主に皮膚にある発疹から神経を伝わって後根神経節内に潜伏すると考えられています。後根神経節内に潜伏感染していたウイルスが何らかの誘因で、再び活動を開始し、知覚神経を伝わって皮膚表皮に到達してそこで増殖しはじめ、疼痛を伴いながら赤い丘疹や水疱が帯状に出現するのが帯状疱疹です。誘因として過労や悪性腫瘍の合併を含めて宿主の免疫機能の低下(AIDS、白血病、悪性リンパ腫など)や加齢、手術や放射線照射などがあげられます。 水痘(みずぼうそう)に罹患したことがあるヒトであれば、誰でも帯状疱疹になる可能性はありますが、他のヒトから感染して帯状疱疹になるわけではありません。
帯状疱疹の症状経過
一般に、どちらか一方の神経分布領域に一致して(即ち片側で帯状に)、疼痛、知覚異常あるいは痒みが数日から1週間続き、やがて虫刺されのような発赤が皮膚に出現します。この時期に軽度の発熱やリンパ節腫脹、頭痛などの全身症状がみられることもあります。間もなく、発赤上に中央にくぼみのある小水疱(みずぶくれ)が多発しはじめ、やがて黄色い膿疱となり、1-2週間前後で水疱が潰れてびらん(ただれ)または潰瘍になります。このような皮膚発赤と小水疱が新生を繰り返して皮膚病変が拡大します。その後は症状が軽快して、約2-3週間でかさぶたとなり、徐々に脱落して瘢痕治癒します。症状がひどい場合は皮膚潰瘍が深くなり、潰瘍が閉鎖するまで長時間を要することもあります。また、後遺症として帯状疱疹後神経痛が残ることもあります(後述)。
発症年齢
帯状疱疹はVZVに対する特異的免疫が低下すると発症する疾患で、誰でも罹患しうる疾患です。VZV抗体を持ったヒトでもその約20%が罹患すると考えられていますが、通常生涯1度しか発症せず、免疫低下する疾患の患者さんを除くと再発することは稀です。 特に50-70歳代を中心に年輩者も罹患しやすいといえます。90歳以上のヒトではその半分は罹患すると考えられています。しかし、過労やストレスが引き金になり、若いヒトにも発症することは珍しくありません。
発症部位
知覚神経のある体の何処でも発症します。特に片側の体幹(胸・腹・背部)に多くみられますが、顔面・頭頸部も好発部位といえます。稀に離れた部位の2ヵ所以上に生じたり、両側性にみられることもありますが、この場合は内臓悪性腫瘍と合併していることがあるので注意が必要です。
特殊な帯状疱疹(運動神経麻痺を伴う)
頬部、下顎、耳介から肩にかけて(三叉神経第3枝から第3頚髄神経領域)の帯状疱疹の場合、同側の顔面神経麻痺、唾液分泌低下、味覚障害、内耳障害(耳鳴り、難聴、眩暈)などを伴うことがあります(Ramsay Hunt syndrome;ラムゼイ-ハント症候群)。早期に入院し、副腎皮質ステロイドと抗ウイルス薬の全身投与が必要です。また、外鼻近傍に皮疹がある場合は、高頻度に眼合併症が認められるので、眼科受診が必要です。

腹部の帯状疱疹では腹筋の麻痺により同側の腹部が膨隆することがあり、また、腹部の帯状疱疹では、便秘を伴うことがあります。

仙骨部や外陰部領域の帯状疱疹では膀胱直腸障害がみられ、排尿・排泄障害が起こることがあります。この場合も、入院して充分な抗ウイルス薬の投与と尿閉が改善するまでは膀胱内にカテーテルを留置します。この他にも、稀に眼瞼下垂症状や四肢筋の麻痺を伴うこともあるので、注意が必要です。

顔面・頭部に帯状疱疹に高度の頭痛・悪心・嘔吐などの中枢神経症状を伴う場合は、ヘルペス脳炎などの可能性もありうるので、高次病院での専門医に受診する必要があります。

検査

一般には臨床症状で判断できますが、時に単純ヘルペスなどと鑑別を要することがあります。単純ヘルペスとの鑑別は、抗VZVモノクローナル抗体によるウイルス抗原の検出を行なったり、血清抗体価の上昇(IgG抗体ペア測定)が診断の一助となります。

治療

帯状疱疹は抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル)の全身投与を出来るだけ早期に内服開始すると、治療効果が高く症状期間を短縮でき、後遺症である帯状疱疹後神経痛のリスクを軽減できます。内服開始から数日して効果が現れてきますので、適切な治療により1週間程度で病変部位が枯れてかさぶたになり治癒します。いずれの薬剤も腎排泄性なので、腎機能低下症例(腎不全や高齢者など)には減量投与が必要です。同時に安静にして無理をせずに体力を回復することも重要です。局所病変には、初期では非ステロイド抗炎症薬、水疱期以降では二次細菌感染を防ぐために抗菌剤含有外用薬、皮膚潰瘍を形成したものでは潰瘍治療薬を塗布して対処します。

重症例(病変が広範な場合、複数の神経分布領域(即ち複数の帯状病変)に病変がある場合、全身に水疱瘡様の発疹がみられる場合、あるいは激烈な疼痛や帯状疱疹の合併症がみられた場合など)では、入院して抗ウイルス薬(アシクロビル、ビダラビン)の点滴静注が必要です。

帯状疱疹後神経痛

大部分は皮疹の治癒とともに疼痛も消失しますが、一部の症例では皮疹治癒後にも疼痛が3ヶ月以上にわたって継続する場合があり、これを帯状疱疹後神経痛と呼びます。これは急性期の炎症で神経に強い損傷(末梢神経の脱髄変性)が生じたために起こります。

帯状疱疹後神経痛の発生率は約3%で、初期重症(皮膚症状が重症、眠れないほどの強い疼痛があるなど)患者や60歳以上の高齢者に多くみられます。従って、重症化する前に出来るだけ早期からの抗ウイルス薬内服が肝要です。
帯状疱疹後神経痛が残る場合は、ペインクリニックでの専門的な治療が長期間必要になる場合があります。

帯状疱疹の出現している時の急性期疼痛に対しては、アセトアミノフェン、リン酸コデインなどが使用されています。また、副腎皮質ステロイドの全身投与も急性期の疼痛を除去する作用があります。

帯状疱疹後神経痛には、抗うつ薬(アミトリプチリンなど)、抗けいれん薬(テグレトール、ガバペンチン)、メキシレチン塩酸塩、漢方薬(抑肝散)、ノイロトロピンRなどを組み合わせて治療します。
局所療法には、外用薬(カプサイシン、アスピリン、硝酸イソソルビドなど)、イオントフォレーシス、低出力レーザーなどが行われます。
また、激烈な疼痛の場合は、神経ブロックを行います。

帯状疱疹の予防

米国での臨床研究では、50歳以上の者に水痘ワクチンを接種して帯状疱疹の発症を半分に、痛みを残す人を3分の1に減らすことができたことから、帯状疱疹の予防効果があることが確認されています。免疫力が落ちてくる50代以上のヒトで、帯状疱疹をしたことがないヒトには、帯状疱疹後神経痛を回避するためにも水痘ワクチンの積極的接種が期待されます。しかし、2009年時点では本邦での保険適応はなく自費での接種にとどまっています。

日常生活の注意点

帯状疱疹はストレスや疲労などにより免疫力低下がしたときに発症しやすいので、慢性的な不規則な生活習慣、過度の疲労、心労を要する作業を続ける事は控えましょう。規則正しい生活と、十分な栄養の摂取、心身の安静、十分な睡眠を心掛けることが肝要です。 急性期に生じる水疱はできるだけ潰さないように注意して、細菌による二次感染を防止しましょう。

水痘症(水ぼうそう)にかかったことのない乳幼児には水痘症を発症させる可能性があるので、病状が改善するまでは接触は控えましょう。

妊娠初期や出産直前に水痘になると胎児に影響することがあり、また、帯状疱疹も稀に胎児に感染することがあるので、妊婦との接触も極力控えましょう。

執筆:2009.11