特発性血小板減少性紫斑病

特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)


本疾患は血小板膜蛋白に対する自己抗体が発現し、血小板に結合する結果、主に脾における網内系細胞での血小板の破壊が亢進し、血小板減少をきたす自己免疫性疾患です。このため、種々の出血症状を呈します。通常、赤血球、白血球系に異常を認めず、骨髄での巨核球産生能のは正常あるいは亢進していることが多い。自己抗体の発現機序は明らかでなく、血小板減少をもたらす基礎疾患(膠原病、再生不良性貧血等)がなく、薬剤の関与がないことから特発性と呼ばれている。

分類

小児に多い急性型(多くは6ヶ月以内に自然軽快)と成人に多い慢性型に分けられる。日本ではヘリコバクター・ピロリ(H.pylori、ピロリ菌)との関連も示唆されています。
急性特発性血小板減少性紫斑病
多くの原因として、麻疹、風疹、水痘ウイルス感染による。ウイルスと抗ウイルス抗体が免疫複合体を形成し、血小板膜のFc受容体に付着して感作血小板が生じ、これが脾臓で破壊されることで本症を発症するものと推測されます。
慢性特発性血小板減少性紫斑病
ITPが慢性化したもの、あるいは慢性に進行するITPです。ITPは多くの場合小児に発症し、急性の経過を辿って半年程度で治癒します。しかし、一割程度の割合で、慢性の経過を辿る場合があります。また、成人がITPを発症した場合は慢性化することが多いです。ITPが6ヶ月以上遷延化した場合、慢性特発性血小板減少性紫斑病の診断が下されます(小児にあっては、ウイルス感染が先行し発症が急激ならば、急性ITPと考えて良い)。急性のITPと異なり、大出血を起こすことは比較的少ないが、若年女性に多いため、月経、妊娠、出産において問題になります。

疫学

急性型の発生数は891名、推計慢性型の発生数は1395名です(平成18年)。急性型は5歳以下と70歳以降に発症のピークがあり、性別では男児が女児の1.7倍、高齢者でも男性が女性に比し1.5倍以上多い。慢性型は女性では26~45歳、と56~90歳に2つのピークを認め、男性では56~90歳に単一のピークを認めます。65歳までは女性が男性の約2~3倍多いが、76歳以降では男女差は認められなくなる。推計更新症例は16873名(男4966名、女11897名)で、殆どが慢性型で男女とも51歳以降に多く、女性では36~40歳にもやや多い傾向があり、全般に女性が男性の2.5倍以上多い。人口10万人当たりの患者発生数は急性、慢性合わせて1.88、また人口10万人当たりの患者数は14.09となっています。

病因

病因不明であり、抗体産生機序は明らかにされていません。

症状

臨床症状は出血症状であり、主として皮下出血(点状出血又は紫斑)を認めます。歯肉出血、鼻出血、下血、血尿なども起こり得るが、関節内での出血は少ないです。血小板数が3000/μlをきるような症例では、頭蓋内出血の危険があり、早急に治療が必要です。 これらの出血症状は何ら誘因がなく起こることが多く、軽微な外力によって出血し易いです。出血症状に気づかず検診時の血液検査で、偶然に血小板減少を指摘されることもあります。

検査

出血、血小板減少をきたすその他の疾患の除外が必要です。鑑別されるべき疾患の例としては、白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、播種性血管内凝固、血球貪食症候群、偽性血小板減少症などが挙げられます。近年、網状血小板率(感度・特異性とも80%以上)antigen capture ELISA(感度は低いが、特異性が非常によい)が注目されています。
1)血液
白血球数正常で、貧血も通常伴わない(慢性に多量に出血している場合には伴う)。白血球分画にも異常はみられない。
2)血液凝固系
プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)などの血液凝固系に異常はみられない。既に出血症状が著しいときには、フィブリノーゲンの異常(増加も減少もあり)やFDPの上昇を来すことがある。毛細血管抵抗試験(ルンペル・レーデ現象)陽性。
3)骨髄検査
ITPの診断に骨髄穿刺は必須ではない。ただし、ステロイドは白血病に対しても有効であるため、ステロイド投与を行う際には骨髄穿刺を行って白血病を確実に否定する必要がある。
骨髄所見は、骨髄球系、赤芽球系は正常に存在し、巨核球系は正常ないしやや増加している。
4)その他
血小板結合IgG(Platelet Associated-IgG; PA-IgG)の増加はITPに特異的ではないが、PA-IgGが正常の場合はITPを除外するのに役立つ。

治療

本症でヘリコバクター・ピロリ菌陽性の患者の場合は、血小板数にかかわらず除菌療法を施行します。除菌効果が認められない症例やピロリ菌陰性症例に対しては、昭和63年度に厚生省研究班で作成された治療指針に従って治療がなされています。副腎皮質ステロイドが第1選択薬であり、通常プレドニン1mg/kgを1ヶ月投与し、血小板数の正常化にとらわれることなく、出血症状を見ながら減量し必要であれば維持量(10mg/day以下)を継続します。副腎皮質ステロイドが無効あるいは副作用が強く投与継続が困難でかつ出血症状が強い場合は脾臓摘出術を行います。脾摘も無効の場合は、アザチオプリンやシクロホスファミド、シクロスポリンなどの免疫抑制剤やダナゾールが試みられ、有効なことが少なくないです。ビタミンC大量療法もあるが、効果は一定ではありません。
ごく最近、難治性ITPに対して、巨核球造血因子のトロンボポエチンの受容体を刺激して血小板を増やす新薬(ロミプレート、レボレード)が登場し、約8割の患者に有効とされ、注目を集めている。
γ-グロブリン大量静注療法は一過性ではあるが高率に血小板数の増加が期待され、外科的手術時、分娩時、重篤な出血時など緊急に血小板増加が必要時には有用です。重篤な出血が疑われる場合には血小板輸血も考慮されます。
血小板数が50,000/㎜3以上ある場合や血小板数が30,000~50,000/㎜3でも出血症状がほとんどない場合は無治療で経過を観察したり、治療例では治療を中止ないし中断します。

予後

急性型の多くは自然寛解し、慢性型に移行するのは10%程度です。慢性型は副腎皮質ステロイドで約20%が寛解します。ステロイド不応症例では脾摘が積極的に行われるが、それにより60~70%の症例が寛解します。種々の治療に抵抗性のいわゆる難治例は約5~20%にみられ、出血症状に対する厳重な管理が必要です。致死的な出血症状は数パーセントにみられます。

執筆:2011.4

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