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虫刺症(虫刺され)

チャドクガ

ドクガ類(ドクガ、チャドクガ、モンシロドクガ)は幼虫、成虫共に毒針毛を持ち、成熟成虫では毒針毛の数は60万本以上になる。幼虫は10回以上脱皮するが、脱皮殻や卵にも毒針毛がある。接触すると毒針毛(約0.1mm)は容易に皮膚に刺入して、この毒成分がアレルギー反応を生じて皮膚炎が誘発されます。

被害の多いのは本州以南に生息するチャドクガで、椿、山茶花、茶などを食草とし、4-6月と7-9月の年2回孵化するので、この時期に皮膚炎の被害が多いです。

臨床症状は、毒針毛に刺された部位にまもなくチクチクした痛みや痒みを感じることが多く、時に数分後に膨隆を認めることもあります。接触数時間後には掻痒を伴う紅色丘疹が目立ち始め、丘疹は一部集簇して、周辺に散布しているのが特徴です。その後、衣類に付着している毒針毛が接触により範囲が拡大したり、掻破などで毒針毛が折れて、折れた毒針毛がさらに周囲に拡散して症状範囲を拡大することが多いです。夏季では幼虫に触れる機会が多い四肢や頚などの露出部位に出現しやすいが、幼虫の見られない季節でも庭木に固着している脱皮殻や卵に触れた場合や、灯火に飛来した成虫に触れた場合にも皮膚炎を生じることがあるので注意が必要です。

治療は、チャドクガに接触後1日以内であれば患部の毒針毛を粘着テープで出きるだけ除去します。症状に気付かず病変が進行してきたときはステロイド外用を行いますが、数日間は症状が悪化したり改善に乏しいこともあるので、多少の我慢も必要になります。その後は徐々に症状は軽快してきますが、掻痒が強いときは抗アレルギー剤内服して症状が改善することが多いです。

イラガ

柿の木やバラ科の木に多いイラガ、街路樹や庭木にいるヒロヘリアオイラガなどの幼虫が皮膚に接触すると、毒棘からヒスタミンやある種の酵素などの発痛物質が皮膚に注入されて蜂に刺されたような疼痛を生じ、発赤・膨疹が出現しますが、数時間で症状は消腿します。稀に翌日以降に掻痒を伴う紅斑・腫脹が再燃することもありますが、遅延型アレルギー反応と考えられています。尚、イラガの成虫は無毒ですが、ヒロヘリアオイラガに限っては繭にも毒があるので、注意が必要です。

イラガに刺された場合、患部を流水で洗浄後、粘着テープで毒棘を除去します。数日後も症状が強い場合はステロイド外用などで炎症を抑制します。

マイマイガマイマイガはドクガ科の一種で、北半球に広く分布する森林害虫で、日本でも北海道や東北や新潟などで時に大発生しています。マイマイガの1齢幼虫は毒毛針を持つため、皮膚炎の原因になります。マイマイガは1年1世代のサイクルで繁殖しており、成虫は7-8月にみられ、雌雄で大きさや模様が著しく異なっているため、一見他種類のように見えます。産卵後、幼虫は卵殻の中で越冬し、4-5月頃に卵殻を破った1齢幼虫は最高気温が18℃を超えるような暖かい日に口から糸を吐いてぶら下がり、風に乗って分散します。その後も脱皮を繰り返して6月頃に蛹となり、その後羽化します。従って、1齢幼虫が風に乗って分散する5月初旬の気温が高くなる時期に戸外で活動していると、頭頸部や上肢などの露出部位に皮疹が出現しやすく、数日間は症状が増悪することも多いです。また、洗濯物にも幼虫が付着する可能性があるので、この時期は屋外で干さないよう注意しましょう。

ネコノミ

ノミは成虫が吸血します。ノミは宿主特異性が低いので、最近はネコノミが猫以外に犬やヒトにも寄生することが多いです。ネコノミは卵をネコや犬などの体表に産みつけるが、卵は容易にはずれて地上に落ちます。卵から孵った幼虫は、猫・犬の寝床、猫・犬の生活場所、畳の裏や隙間などで、ゴミの中の成虫の糞やフケなどの有機物を食べて成長して蛹となり、宿主の振動刺激で羽化します。成虫は20-30cmくらいジャンプできるので、主に下腿の露出部が吸血されます。ただし、ネコノミが室内に生息すると、仰向けや坐っているときに下腿以外の露出部も刺咬されます。臨床症状は、刺咬数時間後から刺咬部位に掻痒を伴う紅斑が生じ、2-3日で丘疹や水疱や血疱となり、その後も比較的長く掻痒が続くことが多いです。

患者にはペットに寄生したノミを駆除し、ノミの卵や幼虫、蛹などがいる場所(畳と畳の隙間や畳の下、床の隙間、家具類の隙間、押入、犬・猫などの寝床など)を清掃して殺虫剤を散布します。尚、卵には殺虫剤の効果は期待できないので、日時をあけて再度清掃を繰り返します。絨毯にノミの温床がある場合、上記処置だけでは難しいことが多く、保健所に相談することも考慮します。

尚、ネコノミは猫引っ掻き病を媒介することがあるので、注意が必要です。

成虫雌が卵巣の発育のために吸血します。ヒトスジシマカ、トウゴウヤブカ、ヤマトヤブカ、オオクロヤブカ、アカイエカ、チカイエカ、コガタアカイエカ、シナハマダラカなどが全国的に生息します。近年ではチカイエカという寒冷に強い蚊の数が増えています。ヤブカ属は昼間でも吸血しますが、イエカ属では夜間吸血することが多いです。好発部位は露出部で、刺咬反応は即時型反応と遅延型反応の組み合わせがあります。遅延型反応は乳幼児ほど強く、年齢と共に弱くなります。異なる種の蚊に刺咬されると、刺咬反応も異なることが多いです。特異な反応として、刺咬されても自覚症状がなく、白暈を伴う粟粒大の紅斑が生じる点状紅斑があります。

尚、蚊が媒介する感染症(日本脳炎、マラリア、デング熱、西ナイルウイルス)が発生している地域がありますので、海外に出かける場合はその国や地域の情報を入手してからお出かけください。

蚊アレルギー(蚊刺過敏症)

蚊やブユの刺咬に異常反応を起こす疾患です。刺咬部位が腫脹・発赤して水疱を形成し、やがて潰瘍、壊死、瘢痕治癒と経過する局所症状を認め、同時に発熱、リンパ節腫脹、肝機能異常などの全身症状が出現します。この疾患は元々慢性活動性Epstein-Barr(EB)ウィルス感染症があり、EBウィルスがNatural Killer(NK)細胞に感染してNK細胞増多症となり、蚊アレルギーを生じると考えられています。このためNK細胞リンパ腫や血球貪食症候群を発症することもあります。

*蚊によって水疱や硬結を生じる過敏性の局所反応患者も多いですが、これが全て蚊アレルギーとは限りません。蚊に刺された後に引き続く発熱やリンパ節腫脹や肝脾腫があったり、予防接種でも同様の症状が出現したりするとこの疾患を疑い、精査(フローサイトメトリーによるCD56 &94の増多、EBV-VCA-IgGなど)を行います。

ヌカカ

「糠粒のように小さな蚊」という意味からヌカカと命名されました。成虫は褐色で体長1-2mmと小さく、海岸や汚泥や池、森林、湿原などで大量発生して吸血に来ます。露出部が好発部位ですが、小さいので露出部位外にも頭髪の中や衣類の隙間から入って吸血され、蚊と異なり、刺咬された直後は刺された感触もなくほとんど痒みはないですが、翌日以降に腫れと痒みが起こり、小水疱や多数の浮腫性紅斑ができることもあります。完治まで1週間以上かかることもあり、掻痒が長期化して慢性痒疹になることがあります。

ブユ(ブヨ)

水質のきれいな渓流や川で発生します。早朝や夕方に野外で吸血することが多く、家屋には侵入しません。露出している下腿が好発部位です。ブユは口器で皮膚を切り裂いて吸血するので、吸血直後は刺咬部に出血とわずかな痛みを認めるだけで殆ど自覚症状はありません。しかし、吸血時に毒素を注入するため、数時間後~翌日より強い掻痒を伴う膨疹や水疱やリンパ管炎が生じ、時に発熱、頭痛なども伴うことがあります。難治化して慢性痒疹となることがあります。

アブ

大型の吸血昆虫で、牧場の周辺やキャンプ場などで刺されることが多いです。鋭い口器で皮膚を切り裂くので刺咬時に激痛があり、出血を認めます。やがて刺咬部位は発赤、腫脹し掻痒が生じ、掻破により細菌感染を生じることも多いです。

トコジラミ(ナンキンムシ)

シラミ目ではなく、カメムシ目の昆虫で、成虫は5-8mm程度の大きさになり、赤褐色を呈し肉眼視できます。トコジラミは広く温帯に分布し、熱帯、亜熱帯地域、国内では南西諸島には熱帯トコジラミが生息します。トコジラミは不完全変態で、孵化直後の幼虫から成虫まで吸血します。幼虫は5回脱皮し、1~3カ月で羽化します。成虫の寿命は10ヶ月~1年、年間3回以上の発生を繰り返します。雌成虫は、毎日2~5粒ずつ、生涯には約200個の卵を産みます。飢餓や低温に対する耐性は大きく、成虫では13℃では1年間吸血せずに生存した報告があります。最近、トコジラミにとって、ボルバキアという共生細菌が存在しないと正常な発育や繁殖ができないことが発見された。

昼間は家具類の隙間、壁や柱や床などの隙間、ベッドとその周り、畳と畳の隙間、絨毯の裏、本や書棚の隙間、ダンボール、カーテン、絵画などの額縁裏などに潜んで、幼虫、成虫共に夜間吸血します。旅行中にスーツケースに入ったり、引越しの荷物に紛れたりして家屋に侵入して繁殖するので、最近増加傾向にあります。また、薬剤耐性のトコジラミが出現してきたことも一因です。

露出部を夜間に刺咬されます。刺咬後数時間して吸血部位に掻痒を伴う紅斑、丘疹が生じます。初めて刺咬されると、約1週間後より症状が発現することが多いです。トコジラミの唾液に感作される期間と推定されます。

家屋内に生息しているときは、吸引力の強い掃除機で隅々まで丁寧に吸引し、生息場所(濃褐色の血糞を探すとよい)や通り道に殺虫剤を散布します。また、絨毯や畳の裏にはスミスリンを散布するのも有効です。駆除1週間以降に、再度同様の処置を行い、以後は定期観察して必要があれば追加処置します。

旅行中の旅行鞄に防虫剤(パラジクロロベンゼンなど)を入れておくとトコジラミの侵入を防止できます。

ケジラミ

保有者との性行為による感染(性行為感染症)とされるが、実際には集団で入浴するなどの場合にも稀に感染する例があります。感染後1-2ヶ月経過してから陰毛部に激しい掻痒が生じます。陰毛以外に腋毛や胸毛、大腿や腹部の剛毛にも寄生し、小児では睫毛に寄生することがあります。成虫の大きさは1mm~2mmで陰毛の毛根にフック状の鈎爪で身体を固定して皮膚から吸血します。卵は陰毛に粘着しています。

治療は、剃毛(陰毛を全部剃る)してケジラミが生育できない環境にすれば根治できます。この処置が出来ない時には、スミスリンパウダーを3日に1回陰毛部に散布して成虫を死滅させ、2週間(4-5回)処置を続けます。 あるいは、目の細かい櫛でブラッシングして成虫を除去します。卵は除く事ができないので、まめにブラッシングを繰り返します。

コロモジラミ

衣類に生息し、衣類の縫い目の繊維に産卵します。成虫は2-4mmで衣類がヒトと接する腹部や頚部などから吸血し、同時に掻痒が生じます。コロモジラミは一時絶滅したかにみえたが、近年特にホームレスの人々で衣類を洗濯しない方やできない方に流行しています。

風呂に入り、着ている衣類を新しい衣類と全部取り替えれば駆除できます。着用していた衣類は55℃以上のお湯で10分以上つければ、卵を含め全て殺虫できます。予防は普段どおりに下着を毎日取り替え、衣類を洗濯していれば大丈夫です。

尚、コロモジラミが媒介する感染症(発疹チフス、塹壕熱、回帰熱)が発生している地域がありますので、海外に出かける場合はその国や地域の情報を入手してからお出かけ下さい。

ハチ

ハチ刺症の多くはスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチなどの社会性のハチによるもので、自己防御のために毒針で刺します。ハチの種類にもよりますが、刺された時の毒の量は1回に約0.05mgと微量です。

刺されると、毒に含有される発痛ペプチドやヒスタミン、セロトニンなどの作用で疼痛と発赤腫脹が生じますが、数時間で消失することが多いです。

スズメバチとアシナガバチの毒には、ホスホリパーゼA2、ヒアルロニダーゼ、アンチゲン5などの共通抗原が含有され、ミツバチ毒にはホスホリパーゼA2、ヒアルロニダーゼ、メリチンなどの抗原があります。同種のハチに2度目以降に刺された場合、直後から30分以内に蕁麻疹、しびれ、腹痛、下痢、嘔吐、喘鳴などのアナフィラキシーショックが生じることがあり、意識喪失、チアノーゼ、血圧低下などで死亡することもあります。年間40-50人がハチ刺症で死亡しています。ハチ毒を使用した減感作療法が有効ですが、保険適応されません。刺症部位の発赤、腫脹、疼痛、掻痒が遷延して2-3日後に増強して1週間程度続く反応が生じることがあり、遅延型反応とされています。

家ダニ

家ダニは、主にネズミに寄生するダニの一種で、吸血性です。成虫の体長は0.6~0.7mmの長卵形で、未吸血には乳白色ですが吸血するとは暗赤色~黒褐色になります。

屋内で家ネズミ(クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミなど)が死亡したり、ネズミが大量発生した場合などに、ネズミから離れて人の居住空間に侵入してヒトから吸血するようになります。しかし、人に寄生しても長くは生きられず3~4日で死亡すると言われています。

根本的な家ダニの駆除はネズミの駆除をすることです。古い家屋の屋根裏でネズミが走り回っていたりすれば、家ダニもいることは間違いないと考えて良いでしょう。また、都会のビル内ではネズミが生息しやすい環境であるため、ビル内に家ダニがばらまかれて衣服などに付着して家屋に持ち込まれるケースもあるようです。ネズミの駆除は素人では難しいので、専門業者に依頼したり、最寄りの保健所に相談するのも良いでしょう。

イエダニを一時的に駆除したい場合は、市販の殺虫剤(有機リン系、ピレスロイド系、カーバメイト系)でも効果は確認されています。散布するときは床面のみならず、天井、壁やその隙間にもまく必要があります。

ムカデ刺症

わが国には,トビズムカデ,アオズムカデ,タイワンオオムカデ Scolopendra morsitans の3亜種が生息していますが,ヒトを咬むのはトビズムカデとアカズムカデのみで,沖縄以北の日本中に広く棲息します。一般にムカデは肉食性であり,昆虫その他の小動物を食しているが,人に対しては偶然の機会に触れられた際に防御のために咬みます。その毒成分としてはハチ毒に似ており,溶血毒,サッカラーゼ,ヒスタミン,ヒアルロニダーゼ,セロトニン,p-ベンゾキノン誘導体,蛋白分解酵素などが知られています。

ムカデ咬傷としての特異的な症状は無く,受傷部の激痛,しびれ感のほか,局所症状として、受傷部位の2個の小血点や皮膚の紅斑,浮腫,腫脹,水疱形成といった症状がみられます。一般的には疼痛は早期に軽減して比較的軽症ですが,重症の場合は,潰瘍化したり壊死を起こしたり、発熱,頭痛,嘔吐を伴うことがあります。反復受傷により症状が次第に重症化した症例やハチ刺症でショックを起こしたことのある患者がムカデ咬傷でもアナフィラキシーショックを起こしたという報告もありますが、死亡することは稀です。

特異的な治療法は無く対症療法を行います。疼痛に対して局所麻酔薬の局注や局所麻酔外用剤の塗布などが有効とされます。また,二次感染予防のために局所の消毒、抗生物質外用剤の塗布、ステロイド外用剤の塗布,抗炎症薬の内服を行います。その他,中毒治療薬の静注や内服、抗アレルギー剤内服などの有効性が唆されています。

また、咬傷後、すぐに局所的に43-46℃の温水のシャワーで患部を温め、石鹸やシャンプーで洗浄する処置も有効と言われています。

執筆:2011.1