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神経線維腫症1型

神経線維腫症1型(neurofibromatosis type1;NF1)(別名:レックリングハウゼン病von Recklinghausen disease)

本症は、カフェ・オ・レ斑(cafe au-lait spot)と神経線維腫を主徴とし、皮膚・神経系・眼・骨などに多種病変が年齢の変化とともに出現し、多彩な症候を呈する全身性母斑症であり、常染色体優性の遺伝性疾患です。神経線維腫症1型と両側性の前庭神経鞘腫を生じる神経線維腫症2型は全く別の疾患です。

皮膚に生じる病変としてはカフェ・オ・レ斑、神経線維腫、雀卵斑様色素斑(小レックリングハウゼン斑)、大型の褐色斑、有毛性褐青色斑、若年性黄色肉芽腫などがあります。その他、神経系には視神経膠腫、脳脊髄腫瘍、骨病変としては脊椎の変形、四肢骨の変形、顔面骨・頭蓋骨の骨欠損、眼には虹彩小結節などを生じます。本邦における神経線維腫症1型に合併する症候は多彩ですが、個々の患者に全ての症候がみられるわけではなく、症候によって出現する時期も異なるため、注意が必要です。

本症は出生約3000人に1人の割合で生じ、罹患率に人種による差はありません。神経線維腫症1型は常染色体優性の遺伝性疾患ですが、患者の半数以上は弧発例であり、突然変異により生じます。

原因遺伝子は17番染色体長腕(17q11.2)に位置し、ゲノムDNAは350kbにおよぶ巨大な遺伝子で計60のエクソンを持ちます。mRNAは約11~13kbで2,818個のアミノ酸からなる蛋白はneurofibromin(ニューロフィブロミン)と呼ばれ、その分子量は約250kDaです。ニューロフィブロミンはRas蛋白の機能を制御し癌抑制作用を有すると考えられており、その異常により多種の病変を生じると推測されていますが、詳しい機構については不明な点も多いです。

診断

通常臨床症状により診断を行います。下記に診断基準を示す。

カフェ・オ・レ斑、神経線維腫があれば診断は容易であるが、乳児期ではカフェ・オ・レ斑のみの場合がほとんどでまたその大きさも成人と比較してやや小さいため、家族歴がなければ診断に迷うことがあるかもしれないので、疑い例として経過観察も重要です。責任遺伝子は既に明らかにされており遺伝子診断は可能ですが、変異のホットスポットがなく巨大な遺伝子の全領域を検索する必要性や変異の検出率の問題、倫理的な面からも慎重な配慮が必要となるため、本邦においては(特別な場合を除いて)原則として行いません。

神経線維腫の病理所見は、Schwann細胞および神経内の線維芽細胞から形成されており、その間に細く波状にうねった膠原線維が走行する。Schwann細胞はS-100蛋白抗体に陽性反応を示す。

神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の診断基準

(診断基準)

1.6個以上のカフェ・オ・レ斑*1

2.2個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫など)またはびまん性神経線維腫*2

3.腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)

4.視神経膠腫(optic glioma)

5.2個以上の虹彩小結節(Lisch nodule)

6.特徴的な骨病変の存在(脊柱・胸郭の変形,四肢骨変形,頭蓋骨・顔面骨の骨欠損)

7.家系内に同症

7項目中2項目以上で神経線維腫症1型と診断する.

<その他の参考所見>

1.大型の褐色斑

2.有毛性褐青色斑

3.若年性黄色肉芽腫

4.貧血母斑

5.脳脊髄腫瘍

6.褐色細胞腫

7.悪性末梢神経鞘腫瘍

(診断のポイント)

*1:多くは出生時からみられる扁平で盛り上がりのない長円形の斑であり、色は淡いミルクコーヒー色~濃い褐色に至るまで様々で色素斑内に色の濃淡はみられない。通常大きさは1~5cm程度で、丸みを帯びた滑らかな輪郭を呈する(小児では大きさが0.5cm以上あればよい)。

*2:皮膚の神経線維腫は常色あるいは淡紅色の弾性軟の大小さまざまな腫瘍であり、思春期頃より全身に多発する。圧痛・放散痛を伴う末梢神経内に紡錘形の神経線維腫や、弁状もしくは懸垂状に垂れ下がるびまん性蔓状神経線維腫がみられることもある。このような腫瘤が、児童期から思春期にかけて出現して以後進行性に増大・増加する。妊娠や分娩を契機に急激に増加する場合もある。

(診断する上での注意点)

1.患者の半数以上は弧発例で、両親ともに健常のことも多い。

2.幼少時期にはカフェ・オ・レ斑以外の症候はみられないことも多いため、疑い例では時期をおいて再度診断基準を満たしているかどうかの確認が必要である。

3.個々の患者にすべての症候がみられるわけではなく、症候によって出現する時期も異なるため、本邦での神経線維腫症1型患者にみられる症候のおおよその合併率と初発時期を参考にして診断を行う。

4.重症度(DNB)分類は神経皮膚症候群研究班(厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患克服研究事業)が作成したものを用いる。Stage4またはstage5と診断されたものについては、特定疾患治療研究事業における医療費の補助・給付の対象となる。

重症度

神経皮膚症候群研究班が作成した重症度分類(DNB分類)を用いる(下記に示す)。

皮膚症状(D)、神経症状(N)、骨症状(B)を組み合わせて重症度を決定するが、stage4またはstage 5と診断されれば、医療費公費補助・給付の対象となる。(公費補助が認められても1年に1回の更新手続きが必要である。)

重症度分類(DNB分類)

Stage1:D1であってN0かつB0又はB1であるもの

Stage2:D1又はD2であってN2及びB3を含まないもの

Stage3:D3であってN0かつB0であるもの

Stage4:D3であってN1又はB1,B2のいずれかを含むもの(ただしStage5に含まれるものを除く)

Stage5:D4,N2,B3のいずれかを含むもの

皮膚症状(D)

D1:色素斑と少数の神経線維腫が存在する

D2:色素斑と比較的多数の神経線維腫が存在する

D3:顔面を含めて極めて多数の神経線維腫が存在する

D4:びまん性神経線維腫などによる機能障害や著しい身体的苦痛または悪性末梢神経鞘腫瘍の併発あり

神経症状(N)

N0:神経症状なし

N1:麻痺・痛み等の神経症状や神経系に異常所見がある

N2:高度あるいは進行性の神経症状や異常所見あり

骨症状(B)

B0:骨症状なし

B1:軽度の脊柱変形ないし四肢骨変形あり

B2:中程度のnon-dystrophic typeの脊柱変形あり

B3:高度の骨病変あり<四肢骨変形、骨折、偽関節、dystrophic typeの脊柱変形(側彎あるいは後彎)、頭蓋骨欠損または顔面骨欠損>

検査

合併する症候により発症時期が異なるため、定期的な経過観察(診察)を行うことが最も重要です。

一つの目安としては小児期には半年~1年に1回程度、成人においては1~数年に1回程度の経過観察を行うことが望ましいです。具体的には、小児期ではびまん性神経線維腫の出現や四肢骨・脊椎の変形などの骨病変の有無に留意します。成人においては悪性末梢神経鞘腫瘍の発生、しびれや麻痺などの神経系の異常の有無、高血圧がみられれば腎動脈の狭窄や褐色細胞腫の合併に注意が必要です。もし、診察時に何らかの異常所見が見られれば精査(CT,MRI,X線撮影など)を行い、必要に応じて各専門分野の医師に早期に相談を行います。症候が全くないにもかかわらず闇雲にスクリーニングのために検査を行うべきではありません。症候が出現した後に精査・治療を行った場合とスクリーニングで異常を発見した後に治療を行った場合ではその治療成績において両者に差はないとの報告もあるほどです。

治療

現在のところ根治的治療法はないため、必要に応じて各種対症療法を行います(下記の治療ガイドライン参照)。年齢により出現する症候が異なるため、注意を要します。皮膚のみならず神経系、骨、眼などに多種病変が出現するため、症状に応じて各領域の専門医へ紹介し、協力して治療を行うことが重要です。生命予後の観点からは腫瘍の悪性化あるいは中枢神経系での増殖が、機能的には骨病変、びまん性の神経線維腫が問題となりますが、他の多くは整容的治療が中心となります。

進行性疾患であるため、中年期以降に全身に無数の神経線維腫の発生することがありますが、一般的に生命予後はよいです。中枢病変や神経線維腫が悪性化〔悪性末梢神経鞘腫(malignant peripheral nerve sheath tumor)〕する場合もありますが、頻度は少ないです。

治療ガイドライン

1.皮膚病変

・色素斑(カフェ・オ・レ斑、雀卵斑様色素斑、有毛性褐青色斑、大型の褐色斑):希望に応じてレーザー治療(再発しやすい)、外科的切除、カバーファンデーションの使用など

・神経線維腫

①皮膚の神経線維腫:希望に応じて外科的切除(局麻あるいは全麻)

②神経の神経線維腫:希望に応じて外科的切除

③びまん性神経線維腫:増大する前に外科的切除(術前の画像検査、十分な出血対策)

④悪性末梢神経鞘腫瘍:広範囲外科的切除、放射線療法、化学療法

・その他の皮膚病変

①若年性黄色肉芽腫:通常治療は必要としない

②グロームス腫瘍:外科的切除

2.神経系の病変

・脳腫瘍:脳神経外科専門医へ紹介し、主に外科的切除を考慮

・脳神経、脊髄神経の神経線維腫:痺れ、麻痺などの症状があれば脳神経外科もしくは整形外科専門医へ紹介し、外科的切除を考慮

・UBO(unidentified bright object):通常治療は必要としない

3.骨病変

・脊椎変形:変形が著しくなる前に整形外科専門医へ紹介し、早期の脊椎固定

・四肢骨変形(先天性脛骨偽関節症):整形外科専門医へ紹介し、外科的治療を考慮(血管柄付き骨移植、イリザロフ法)

・頭蓋骨・顔面骨の骨欠損:脳神経外科専門医へ紹介し、外科的治療を考慮(治療が極めて困難な場合がある)

4.眼病変

・虹彩小結節:通常治療は必要としない

・視神経膠腫:眼科もしくは脳神経外科専門医へ紹介する。多くは無症状で経過し、治療を必要とすることは少ない

5.その他の病変

・褐色細胞腫:泌尿器科専門医へ紹介し、外科的切除を考慮

・Gastrointestinal stromal tumor:消化器外科専門医へ紹介し、主に外科的切除を考慮

執筆:2011.1