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性器ヘルペス

性器ヘルペスは(Genital Herpes; GH)と言われます。
GHは単純ヘルペスウィルス(HSV-1&2)が原因で生じる性感染症です。

皮膚や粘膜の小さな傷から体内に入ったHSVは、初感染後、知覚神経節の神経細胞の核内に遺伝子の形態で潜伏していますが、何らかの刺激があると再び暴れだし、神経を伝って皮膚や粘膜に出て病変を作って再発します。初感染の場合は症状が重く、再発の場合は軽症ですむのが一般的です。

HSV-2は主として性行為で感染して性器を中心とした下半身に再発を繰り返します。性の乱れや経口避妊薬の使用でコンドームを使用しなくなったことなどから、成人の初感染が増加しています。HSV-1による性器ヘルペスもありますが、初感染後に再発をきたすことは稀です。また、HSV-1に罹患していてもHSV-2に感染しますが、この場合無症状のことが多く、発症したとしても軽症ですむことが多いです。

男性より女性の患者が多く、発症のピークは男性で30-40歳代、女性では20-30歳代で、女性では10歳代後半から見られることも特徴です。


GHの感染経路

GHは接触感染でうつります。主に性行為により、相手の性器に出来ていたヘルペス(主にHSV-2)が原因となることが多く、オーラルセックスなどでは相手の口唇に出来ているヘルペス(主にHSV-1)が原因になることもあります。また、ヘルペスの症状が出ていないパートナーから感染することも多く、その割合は60-70%といわれています。症状の出現していない場合ウィルスは通常体内に潜んでいますが、唾液や膣分泌物中、尿道や子宮頚管などの皮膚・粘膜面に存在する場合(無症候性ウィルス排泄)もあるため、相手の抵抗力が落ちていたりすると感染することがあります。

症状

初感染の特徴
初感染の場合は比較的強い症状が出現します。セックスなどで感染してから3-7日の潜伏期間をおいて、急激に性器(女性では外陰部と膣の入り口にみられ、患部が子宮頚部に及ぶこともあります;男性では亀頭、包皮、陰茎体部に多く出現します)、肛門周囲、臀部や大腿部に不快感(灼熱感、ひりひり感、痛み)やむずがゆさが出現し、軽い刺激感を伴って赤くなります。小さな水疱が群がって出来、やがてつぶれて有痛性の潰瘍になり、患部近傍のリンパ節も腫脹します。頭痛や発熱(38℃以上)を伴うこともあります。一般に、男性より女性の方が症状が強く出ることが多く、疼痛のために排尿困難になることもあります。一方では初感染しても症状が全くでない人もいます。
再発の兆候
初感染後、再発の症状は比較的軽度になる傾向がありますが、時に症状がひどくなることもあり、頭痛や腰痛などを伴う場合もあります。また、再発の前には前兆症状(灼熱感、ひりひり感、痛みやむずがゆさ)を約85%の患者が感じています。
再発のきっかけ
疲労、アルコール多飲、紫外線、感冒、外傷、長期のストレス、不安、月経、セックスによる皮膚の摩擦や損傷、免疫低下状態などが挙げられます。また、再発を繰り返す頻度が多いと、そのためにストレスや不安が増悪して悪循環になる場合があります。

治療

原則的には、抗ヘルペスウィルス薬の全身投与が基本ですが、現在発売されている抗ウィルス薬はウィルスの増殖を抑制するだけで、神経の中に潜伏しているウィルスDNAには効果がありません。 重症例や全身症状を伴う場合は、入院して抗ヘルペス薬(アシクロビル、ビダラビン)の点滴静注や内服を行います。細菌の二次感染を伴う場合は、抗生物質の全身投与または外用を行うこともあります。 初感染や軽・中等症の場合には、抗ヘルペス薬(アシクロビル、バラシクロビル)の内服を行います。
再発抑制療法
おおむね年6回以上再発を繰り返す患者が対象になります。抗ヘルペス薬を毎日内服することによって、GHの再発を抑える治療方法で、バラシクロビル1日1回500mgを毎日内服して約1年間継続します。投薬中断後、再発が2回観察された場合はさらに継続するかを検討します。抑制療法中に再発した場合、通常の治療法の1回500mgを1日2回5日間内服し、その後1日1回に戻します。抑制療法を行っても再発頻度が減少しない場合には1回250mgを1日2回または1回1000mgを1日1回にします。これでも再発をする場合、内服の飲み忘れが多いのではないか、診断の再確認、またはバラシクロビル耐性ウィルスの可能性について検討をし直します。

この治療方法により、GHの再発を少なくする効果ならびに次の再発までの間隔も延長できます。しかし、この治療方法でもウィルスを全滅させることは出来ないため、内服を中止すると再燃しますが、一般的にはその回数は時間と共に減少します。

また、パートナーへのGH感染率を下げることが可能です。特に、GHの自覚症状が無いときでもパートナーに感染させてしまう可能性があるので、内服している時はこのようなリスクを低減することが出来ます。だからといって、感染リスクがゼロになるわけではないので、コンドームを併用することが、より確実なパートナーへの感染抑制法と考えられます。

妊娠や出産への影響に関して

妊娠中にGHに感染しても奇形児が生まれることはほとんどありませんが、出産時に胎児が産道にいるヘルペスウィルスに感染すると、新生児ヘルペスになってしまいます。 これは稀な病気ではありますが、抵抗力の無い新生児がヘルペスに感染すると、重症化して生命を脅かすことがあるので注意が必要です。
母体の感染時期と胎児への影響
1) 妊娠前に感染したことがある場合 母親の免疫系が抗体を作り、胎盤を通して胎児に移行するため、分娩時にHSVから赤ちゃんを守ってくれます。それ故、新生児ヘルペスの感染リスクは非常に低くなります。(母親がGHを持つ場合を参照)

2) 妊娠~29週間までに感染した場合
新生児ヘルペスの感染リスクは低く、大多数の女性が健康な赤ちゃんを産むことができます(母親がGHを持たない場合を参照)。

3)30-40週の間に感染した場合
この時期の初感染のGHでは、ウィルスがたくさん放出されていて、産道にも多数のウィルスが存在するため、分娩時に赤ちゃんが産道を通過する際に感染する可能性が高まります。この場合は帝王切開で出産することも考慮しなくてはなりません(母親がGHを持たない場合を参照)。

母親がGHを持つ場合
自分がGHを持っていることを主治医に伝え、管理方法に関して話し合うことが必要です。 GHから赤ちゃんを守るように努めましょう。

陣痛時に、性器周囲に前兆症状(むずかゆさやひりひり感)がないかどうか、自分でチェックしましょう。必要であれば医師が検査してくれます。

分娩の際にGHが発症した場合の管理方法について、妊娠初期から産科の主治医と十分に話し合っておきましょう。選択肢には経膣分娩と帝王切開がありますが、それぞれのリスクを比較検討することが必要です。

出世後、約4週間は赤ちゃんを慎重に観察してください。新生児ヘルペスの症状には、皮膚の表面の水ぶくれ、発熱、不機嫌、哺乳力低下などがあります。これらの症状は初めのうちは軽いこともありますが、良くなるかも知れないとそのまま様子を見たりせずに、すぐに赤ちゃんを医師へ連れて行ってください。(実際、あなたの赤ちゃんが健康である確率は非常に高いのです)

母親がGHを持たない場合
パートナーがGHを持っていることがわかっている場合は、医師に伝えておきましょう。パートナーとの妊娠中のセックスには十分気をつけ、症状が出ている時にはセックスを控えてください。コンドームの使用、口唇ヘルペスを持っているパートナーとのオーラルセックスの禁止などにも配慮しましょう。 「もしかして」と思ったら、すぐに血液検査してもらいましょう。

パートナーへの配慮

パートナーからあなたにGHを持っていると告白されたら、良く話し合いましょう。相手がGHと診断されたからといって、あなたに不誠実ではありません。場合によってはあなたからうつされてしまった可能性もありえるのです。あるいは相手は自身が感染していることに気づかない場合もあるのです。 あなたのパートナーに症状が出ている時には、感染のリスクが高いので性交渉は控えて下さい。また、器物を介して感染することもあるので、食器やタオルの共用などは避けるようにしましょう。 あなた自身も感染が気になるようであれば、受診して血液抗体検査で感染しているかどうかを調べることが出来ます。

執筆:2009.11