先天性無痛無汗症

先天性無痛無汗症(Congenital Insensitivity to Pain with Anhidrosis; CIPA)

本症は、疼痛・温覚などの神経障害と無汗症状を呈する、先天的遺伝的要因により生じる極めて稀な疾患群です。日本では300例を超える報告がされていますが、米国では84例しか報告されていません。また、本症は遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチー(hereditary sensory and autonomic neuropathies, HSAN)の疾患のIV型に分類されています。

原因

疼痛・温覚などの信号を脳に伝達する神経細胞に何らかの形成異常が生じており、本症はneurotrophic tyrosine kinase receptor (NTRK1 gene)の遺伝子変異が原因と考えられています。

症状

生下時から温覚・痛覚が無いか極度に低下しているために、外的刺激に対する防御反応がなく、生後に経験を通じて環境に適応する反応・行動などを習得できず、あるいは併発する知的障害も加わって、容易に自傷行為を繰り返します。
さらに、発汗性が無いため体温調節ができず、直ぐに体温が上昇してしまい、常に注意する必要があります。健常者並みの基礎的な運動能力はあっても体温上昇をきたすため、水泳のような体温の上昇を伴わない運動以外はほとんどできません。幼少時から成長につれて様々な障害がみられます。特に成長期の関節破壊の問題が大きく、運動機能を障害します。加えて、眼瞼を擦り過ぎて眼症状を呈することもあります。

成長期の症状

1歳未満:生後数ヵ月頃には原因不明の発熱や痛みに反応しないことや無汗、精神発達遅滞などから、本症を疑われて診断されます。熱性けいれんも約半数にみられます。歯が萌出するとそれが気になり、舌や指で歯を動かしたりこすったりするため、舌や指先を傷つけたり歯が抜けたりすることもあります。

2~9歳頃:1歳半から2歳頃には歩行・走行・跳躍などの運動能力が高まるにつれて、転倒や飛び降りなどで外傷を生じやすくなります。重症になると捻挫・靱帯損傷・骨折・脱臼、あるいは関節障害を生じる場合もあります。疼痛が無いため、そのまま走り回ったり飛び跳ねたりして、症状をさらに悪化させます。骨折-治癒-骨折の悪循環を繰り返して、運動機能が急速に低下してしまうこともあります。

10歳以降:多動が減り小さな外傷は減る傾向にありますが、シャルコー関節などにより歩行困難となり、座位姿勢をとる時間が長くなります。体幹が柔らかく不良姿勢をとりやすいため、時に脊柱に関節障害(いわゆるシャルコースパイン)が生じて、脊髄を圧迫し、下肢の麻痺や膀胱直腸障害を起こすことがあります。

鑑別診断

皮膚感覚の無いハンセン病では、著しい手足の外傷が本症と似ているために、ハンセン病療養所に誤診で入所した例があります。

治療

根本的な治療方法は現在のところ無く、対症療法が主体になります。(NPO 無痛無汗症の会「トゥモロウ」)のHPの対処法を改変と抜粋)

1.体温調節

室温、湿度をエアコンなどで調節し、十分な水分摂取を行います。一般に夏季は高温多湿のため外での活動が制限されることが多くなり、冬季は、衣類で調節し、低温やけどに注意しながらカイロや湯たんぽを使用します。高体温に注意が向けられがちですが、低体温になっていないかも重要なので、口腔温度、鼓膜温度、直腸温(肛門)などの深部体温を計測して、低ければ暖房の調節や体調の確認などをします。

2.自傷行為の予防

自宅内の壁や床に外傷を避けるような緩衝材を配置します。また、歯にプロテクターを付けて舌や口腔内を傷つけないようにして、手袋などで手指を保護することも重要です。ストレスを貯めないような環境に努めることも必要です。

3.運動などの注意事項

プールなど水中の運動を主体にして、身体に障害が生じないような運動をするよう配慮します。足保護のために丈夫で衝撃を吸収しやすい靴を使用し、サポーターなどで肘や膝関節を保護します。必要に応じてヘルメットで頭部保護を行います。
高所から飛び降りたり、落ちたりしないように注意して下さい。
熱さが分からないので、ストーブや熱湯の取り扱いに注意して下さい。
冷たさも分からないので、凍傷にも注意して下さい。
砂遊びのあとは、手洗いをきちんとさせて下さい。
靴のなかに砂が残っていると傷の原因になるので気を付けて下さい。
危険なこと・物などについて、本人に教えていくようにして下さい。
本人が危険を自覚できないような場合は、目を離さないようにして下さい。

4.皮膚の保湿や保護、虫歯予防

クリームなどを使用して、皮膚の乾燥やひび割れを予防して下さい。
傷の治りが悪いので、小さな傷でも消毒をして下さい。
歯磨きは本人がやるときは強く磨きすぎないように気をつけて、必ず大人が仕上げ磨きをして下さい。嫌がる場合は楽しくやれる工夫をして下さい。

5.感染・骨折・脱臼の早期発見

顔色(唇の色)や機嫌がふだんと違うときは注意し、保護者に連絡して下さい。
必要により熱(体温)を測って下さい。
腫れ・赤味・熱が出たり、手足を動かさない場合などには、骨折や脱臼を疑い、すぐに保護者に連絡して下さい。場合によっては、整形外科を受診してレントゲン検査をうけるようにさせて下さい。応急処置として、湿布などで熱を取り、本人に自覚をもたせ安静にさせて下さい。

6.その他の注意事項

食事のとき、中身が熱くなりやすい餃子や揚げ物などは、中の熱を逃がすように注意して下さい。
歯がなかったり、入歯を使用している場合には、硬いものは細かくきざむなどを加えて下さい。 車椅子を使用している場合は、手を挟んだり、急ブレーキをかけて手首やひじを痛めたり、足でブレーキをかけたりしないよう気をつけて下さい。坂やじゃり道などでの運転は控えた方が良いでしょう。

予後

3歳以前に患児の半数以上が高体温により死に至ります。
本症は難病ではあるものの、厚生労働省の指定する特定疾患には未だに含まれていません。但し、東京都などでは遺伝性運動感覚(知覚)性ニューロパチー(hereditary motor and sensory neuropathies, HMSN)と共にHSANも遺伝性(本態性)ニューロパチーの疾病として難病医療費等助成(公費負担医療)の対象とされています。

執筆:2011.11

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