先天性魚鱗癬様紅皮症

先天性魚鱗癬様紅皮症 (congenital ichthyosiform erythroderma)

本症は、全身皮膚にさまざまな厚さの鱗屑、魚鱗癬症状を生じ、さまざまな程度に紅皮症を伴う遺伝性角化異常症です。 表皮角化細胞の細胞骨格、角化細胞の細胞膜とその内側の裏打ち構造あるいは角層細胞間脂質構造に関与している、多くの蛋白質の遺伝子変異により生じます。
下記のように臨床的に4分類されています。

1)水疱を伴う群(水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症:Bullous congenital ichthyosiform erythroderma; BCIE)

臨床症状:紅皮症、鱗屑、機械的刺激を受ける部位の弛緩性水疱あり。症状がより軽症なSiemens型もあります。

2)水疱を伴わない群(非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症:Nonbullous congenital ichthyosiform erythroderma; NBCIE)

臨床症状:紅皮症、鱗屑。水疱形成なし。

3)紅斑が無く大型の鱗屑を生じる群(葉状魚鱗癬:Lamellar ichthyosis; LI)

臨床症状:全身の潮紅は明らかでなく、粗大・暗褐色・板状の鱗屑を伴う。

4)鎧状の非常に硬い皮膚をもつ群(道化師様魚鱗癬::Harlequin ichthyosis; HI)

臨床症状:出生時には全身が厚い板状の角質に覆われ、眼瞼外反、口唇突出開口、耳介変形が見られる。

5)皮膚以外の症状を持つ群(魚鱗癬を伴う症候群:Genetic syndrome with ichthyosis; GI)

臨床症状:魚鱗癬に加え、皮膚以外の症状を持つ。

*BCIEは常染色体優性遺伝、その他は常染色体劣性遺伝のものが多いです。

本疾患分類の鑑別点

a) 全身の鱗屑、魚鱗癬(全型)
b) 生下時より生じる全身性びまん性潮紅(BCIE, NBCIE)
c) 機械的刺激を受ける部位の弛緩性水疱と浅いびらん(BCIE)
d) 生後まもなく皮膚は乾燥し、眼瞼外反・口運動障害などを生じる(NBCIE, LI, HI)
e) 全身の潮紅は明らかでなく、粗大・暗褐色・板状の鱗屑を伴う(LI)
f) 出生時には全身が厚い板状の角質に覆われ、眼瞼外反、口唇突出開口、耳介変形が見られる(HI)
g) 皮膚以外の症状を持つ(GI)
h) 組織学的には、著明な過角化と表皮肥厚、顆粒変性(有棘層上層から顆粒層にかけて表皮細胞の核周囲の空胞と粗大なケラトヒアリン顆粒がみられ、細胞内浮腫が顕著)がみられる(BCIE)
i) 組織学的には、光顕では著明な過角化と表皮肥厚、不全角化などがみられる(BCIEを除く全て)

原因遺伝子

1)BCIEでは下記の遺伝子変異が原因です。
keratin-1 gene (KRT1)、keratin-10 gene (KRT10)、keratin-2 gene (KRT2)
2)NBCIE、LI、HIでは、下記の遺伝子変異が主な原因ですが、まだ確定していない遺伝子異常があると考えられています。(*は遺伝子変異に起因する割合)
transglutaminase 1 (TGM1)                *38-55%(LIでは~90%)
arachidonate 12-lipoxygenase, 12R type (ALOX12B)     *6.8-12%
arachidonate lipoxygenase 3 (ALOXE3)           *4-6.8%
ATP-binding cassette, sub-family A, member 12 (ABCA12)  *5%(HIでは93%以上)
NIPA-like domain containing 4 (NIPAL4)          *2-3%
Cytochrome P450, family 4, subfamily F, polypeptide 22 (CYP4F22)  *8%
Patatin-like phospholipase domain containing 1 (PNPLA1)   *稀

重症先天性魚鱗癬を伴う症候群(GI)一覧

1)Netherton症候群

稀な常染色体劣性遺伝で、serine protease inhibitor Kazal-type 5 (SPINK5)の遺伝子変異が原因です。
a) 曲折線状魚鱗癬または魚鱗癬様紅皮症様の皮疹 b) 結節性裂毛 c) アトピー素因 d) その他(成長障害、精神発達遅滞、てんかん発作、再発性感染、アミノ酸尿など) を認めます。
*詳細は別項にもありますので、参照して下さい。

2)Sjoegren-Larsson症候群

稀な常染色体劣性遺伝で、長鎖脂肪族アルデヒドを脂肪酸に酸化する際に働くfatty aldehyde dehydrogenase (FALDH) の遺伝子変異による活性低下が原因です。
a) 先天性魚鱗癬 b) 痙性四肢麻痺 c) 高度精神発達遅滞d) その他(眼底網膜の光輝性小斑点や色素変性、側湾症、大脳委縮など)を認めます。

3)Rud症候群

稀な症候群で遺伝形式は不明で、孤発性の症例が多いです。ステロイドスルファターゼ活性に異常を呈するものもあるが、原因不明です。
a) 先天性魚鱗癬 b) てんかん c) 精神遅滞 d) 性腺機能低下 e) その他(低身長、内分泌学的異常、眼症状など)を認めます。

4)Refsum症候群

稀な常染色体劣性遺伝で、phytanoyl-CoA 2-hydroxylase (PHYH) をコードする遺伝子変異により、フィタン酸が脂肪組織、腎臓、肝臓、ミエリン鞘などの全身組織に沈着することが主原因(約90%)と考えられていますが、これ以外にもperoxisomal biogenesis factor 7 (PEX7) をコードする遺伝子変異でも生じることがわかってきました。従って、本症候群は遺伝的にheterogeneousな疾患と考えられています。
a) 魚鱗癬 b) 色素性網膜炎 c) 末梢神経炎 d) 小脳失調 e) その他(脳脊髄液中の蛋白質増加、腎不全、夜盲、視力障害、無嗅覚症、筋委縮、心筋障害、内示性難聴など) を認めます。

5)KID症候群

稀な常染色体優性遺伝性で、connexin 26(細胞間チャンネルであるギャップ結合の構成成分の一つ)をコードする遺伝子gap junction protein, beta 2 (GJB2)の遺伝子変異が原因です。
a) 乳頭腫状過角化(顔面、頭部、掌蹠、肘膝)と脱毛(頭髪、眉毛、睫毛) b) 聴覚障害(感音性難聴) c) 角膜炎を認めます。

6)Dorfman-Chanarin症候群

稀な常染色体劣性遺伝で、esterase/lipase/thioesterase subfamilyに属する蛋白をコードする遺伝子abhydrolase domain containing 5 (ABHD5)の遺伝子変異が原因です。肝、筋肉、眼、耳、中枢神経などにneutral lipidが沈着して症状が出現します。
a) 魚鱗癬 b) 肝障害、小耳症、難聴、精神発達遅滞、成長障害、白内障、斜視、眼振、筋力低下、運動失調などを認めます。

7)Gaucher disease (type2)

稀な常染色体劣性遺伝で、Glucocerebrosidase (GBA)の遺伝子変異が原因で生じ、グルコセレブロシドが体中の細網内皮系や脳などに蓄積して様々な臨床症状を呈し、1-3型に分類されています。
2型(急性神経型)では、肝脾腫、肺病変以外にけいれん、後弓反張などの著明な神経症状を伴います。 乳児期までに発症し神経症状が急速に進行して、ほとんどの症例が2~3歳までに死亡します。また、 新生児期に発症する症例では、胎児水腫や魚鱗癬を呈します。

8)CHILD症候群

稀なX染色体優性遺伝で、圧倒的に女性に出現し、NAD(P) dependent steroid dehydrogenase-like (NSDHL)をコードする遺伝子変異が原因です。
生下時から、半身(特に右側)の成長不全を認め、患側皮膚に魚鱗癬様紅皮症を認めます。時に患側四肢の短縮や指趾の欠損、患側の毛髪消失、患側内蔵の欠損や発達障害を生じることがあります。

9)Conradi-Hunermann症候群

稀なX染色体優性遺伝で、大多数は女性に出現するが、稀に男性も罹患することがあります。Emopamil binding protein (EBP)をコードする遺伝子変異が原因です。点状軟骨異形成症を呈する骨格異常(長幹骨の短縮、低身長、成長遅延、脊柱側弯や亀背)、白内障、脱毛症、魚鱗癬などを認めます。

10)IBIDS症候群 (Tay症候群)

稀な常染色体劣性遺伝ですが、現在のところ原因遺伝子は特定されていません。
魚鱗癬、硫黄欠乏性毛髪発育異常症(毛髪が疎らで脆くなり、成長発達障害や精神発達遅滞がみられる)、光線過敏、爪甲発育異常、性腺発育不全、白内障、骨硬化なども認めます。

11)Ichthyosis follicularis, alopecia, and photophobia (IFAP) 症候群

稀なX染色体連鎖遺伝で、Membrane-bound transcription factor peptidase, site 2 (MBTPS2)をコードする遺伝子変異が原因です。本症では、コレステロールの恒常性や小胞体ストレスが減弱していることが知られています。
生下時から毛包性魚鱗癬、脱毛症、羞明の三徴候があります。数年以内に、低身長、知的障害、痙攣が出現します。

12)Ichthyosis、spasitic quadriplegia、mental retardation

稀な常染色体劣性遺伝で、elongation of very long chain fatty acids protein 4 (ELOVL4) をコードする遺伝子変異が原因です。魚鱗癬、重篤な精神運動発達障害、四肢麻痺、癲癇を生じ、Sjoegren-Larsson症候群に類似しています。

13) Ichthyosis prematurity症候群

稀な常染色体劣性遺伝で、Fatty acid binding protein 4 (FATP4) をコードする遺伝子変異が原因です。妊娠中期に羊水過多のため未熟児で生まれ、頭部や眉毛に厚い乾酪性角質を伴う紅皮症と呼吸器合併症をきたします。数日で角質肥厚は軽快し、その後に掻痒を伴う全身の魚鱗癬、毛孔性角化、アトピー性皮膚炎、喘息、好酸球増多を生じます。

14)Ichthyosis、hypotrichosis、sclerosing cholangitis症候群

稀な常染色体劣性遺伝で、claudin 1 (CLDN1) をコードする遺伝子変異が原因です。軽度の魚鱗癬、黄疸、肝腫大、乏毛を認めます。

15) Ichthyosis hypotrichosis症候群

稀な常染色体劣性遺伝で、suppressor of tumorigenicity 14 protein (ST14) をコードする遺伝子変異が原因です。葉状魚鱗癬、乏毛症、睫毛・眉毛欠損を認め、各層ではコルネオデスモゾームの消失遅延がみられます。

16) CEDNIK症候群 (cerebral dysgenesis, neuropathy, ichthyosis, palmoplantar keratoderma syndorome)

稀な常染色体劣性遺伝で、synaptosomal-associated protein 29 (SNAP29) をコードする遺伝子変異が原因です。成長障害、異状顔貌、眼科的異常、体幹の筋緊張低下、深部腱反射消失、精神運動発達遅延、魚鱗癬、掌蹠角化症を認めます。

17) MEDNIK症候群 (mental retardation, enteropathy, deafness, neuropathy, ichthyosis and keratoderma syndrome)

稀な常染色体劣性遺伝で、synaptosomal-associated protein 29 (AP1S1) をコードする遺伝子変異が原因です。紅斑角皮症様の病変、難聴、末梢神経障害、精神運動発達遅延、下痢を認めます。

18)ARC症候群 (arthrogryposis, renal dysfunction and cholestasis syndrome)

稀な常染色体劣性遺伝で、vacuolar protein sorting 33 homolog B (VPS33B)あるいはVPS33B interacting protein, apical basolateral polarity regulator (VIPAR) をコードする遺伝子変異が原因です。関節拘縮、腎尿細管機能異常、胆汁鬱滞性黄疸、魚鱗癬をきたします。魚鱗癬の角質内には分泌されなかった層板顆粒が残存します。

鑑別疾患

尋常性魚鱗癬、伴性遺伝性魚鱗癬、紅斑角皮症、表皮水疱症、掌蹠角化症、後天性魚鱗癬(ホジキン病・菌状息肉症・悪性リンパ腫、ビタミン欠乏症、透析患者、甲状腺機能低下、糖尿病など)、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群など

治療

特効的治療法はなく、対症療法が行われています。保湿剤やビタミンD3軟膏の外用、ビタミンA誘導体(レチノイド)内服が行われることがありますが、各々特有の副作用に注意が必要です。また、合併する症候群の場合には、罹患する様々な症状に対する治療も必要になります。

執筆:2014.3

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