麻疹(はしか)

麻疹(ましん、はしか、measles)


本症は麻疹ウイルスによる感染症で、伝染力が非常に強く感染者の90%以上が発症します。感染経路は空気感染・飛沫感染・接触感染と多彩です。2004年の全世界の患者数は約40万人で、東南アジア、中近東、アフリカで多く発生しています。
流行には季節性があり、初春から初夏にかけて患者発生が多いです。日本での患者数は推計で年間20万人程度とされ、患者報告数を年齢別に比較すると、2歳以下が約半数を占め1歳代が最も多いです。次に6~11か月、2歳の順となります。小児以外の患者数は地域によるバラツキがあり、ワクチンによる抗体価の低下した10歳代から20歳代前半が最も多く、次いで、20歳代後半の順です。
ウイルスは世界保健機関(WHO)の分類により現在AからHの8群、22遺伝子型に分類されています。ワクチン接種により症状が軽く済みますが、流行株の変異によって、ワクチンで獲得した抗体での抑制効果が低くなることが懸念されています。また、ワクチンによる獲得免疫の有効期間は約10年とされますが、ブースター効果による追加免疫が得られず、抗体価の低下(減衰)により再感染することもあります。
また、母体からの免疫移行があり、生後9カ月頃までは移行免疫により発症が抑えられますが、抗体価が低下している女性が妊娠すると、胎児が十分な抗体を持たず生まれ、生後5カ月以内で免疫が切れてしまうケースが報告されています。

症状

麻疹には、症状の出現する順序や症状の続く期間に個人差が少ないという特徴があります。但し、免疫のある程度有する患者では、非典型的で軽症な経過をとることがあります(修飾麻疹)。
潜伏期
麻疹ウイルスへの曝露から、発症まで7~14日間程度かかります。
カタル期
カタル期は3~5日間続き、他者への感染力はカタル期に最も強いです。38℃前後の風邪症候群様(発熱、倦怠感、上気道炎症状、咳嗽、鼻汁)の症状や結膜炎症状(眼結膜充血、眼脂、羞明)が2~4日続き、いったん解熱します。カタル期の後半、発疹出現の1~2日前に、口腔粘膜の奥歯付近に、直径1mm程度の少し膨らんだ灰白色小斑点(コプリック斑)を生じるのが特徴的です。
発疹期
カタル期の後にいったん解熱するが、半日ほどで再び39~40℃の高熱が出現し(二峰性発熱)、発疹が4~5日間出現します。発疹は顔面・耳後部から目立ち始め、次第に体幹・四肢の末梢にまで及びます。発疹は鮮紅色で、やや隆起します。特に体幹では癒合して体全体を覆うようになるが、一部には健常皮膚を残します。
発熱・発疹のほか、咳・鼻汁も一層強くなり、下痢を伴うことも多いです。口腔粘膜が荒れて痛みを伴います。これらの症状と高熱に伴う全身倦怠感のため、経口摂取は不良となり、特に乳幼児では脱水になりやすいので、注意が必要です。
発疹期は発疹出現後72時間程度持続します。これ以上長い発熱が続く場合には、細菌による二次感染の疑いがあります。
回復期
解熱後も咳は強く残るが徐々に改善してきます。発疹は退色して色素沈着を残すものの、5~6日程で皮が剥けるように取れるます。回復期2日目ごろまでは感染力が残っているため、解熱後3日を経過するまでを出席停止とします(学校保健安全法施行規則19条2号)。

合併症

麻疹に伴って様々な合併症がみられ、程度の差はあれ30%程度の合併症を併発し、約40%が入院を必要とします。その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、特にこの二つの合併症は麻疹による二大死因となり、注意が必要です。また、発熱時に不適切に解熱剤などを投与した場合、細菌による二次感染の危険性が高まる。
(1)肺炎
麻疹の肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。
ウイルス性肺炎:ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎です。病初期に認められ、胸部X 線上、両肺野の過膨張、び漫性の浸潤影が認められます。また、片側性の大葉性肺炎の像を呈する場合もあります。
細菌性肺炎:細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬により治療されます。
巨細胞性肺炎:成人の一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎です。肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いものです。発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。胸部レントゲン像では、肺門部から末梢へ広がる線状陰影がみられます。本症では麻疹抗体は産生されにくく、長期間にわたってウイルスが排泄されます。
(2)中耳炎
細菌の二次感染により生じ、麻疹患者の約5 ~15%にみられる最も多い合併症の一つです。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。乳様突起炎を合併することがあります。
(3)クループ症候群
クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は小児(特に乳幼児)の麻疹の合併症として多くみられるものの一つです。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理を要します。
(4)心筋炎
心筋炎、心外膜炎をときに合併することがあります。麻疹の経過中半数以上に、一過性の非特異的な心電図異常が見られるとされますが、重大な結果になることは稀です。
(5)脳炎
麻疹を発症した1,000例に0.5~1例の割合で脳炎を合併します。発生頻度は中耳炎や肺炎のようには高くはありませんが、肺炎とともに死亡の原因となり、注意を要します。発疹出現後2~6日頃に発症することが多く、髄液所見としては、単核球優位の中等度細胞増多を認め、蛋白レベルの中等度上昇、糖レベルは正常かやや増加します。麻疹そのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20~40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。
(6)亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis :SSPE)
麻疹に罹患後、7~10年してから発症する予後不良の脳炎です。知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示します。発症から平均6~9カ月で死の転帰をとる。麻疹ウイルスの中枢神経細胞における持続感染により生ずるとされますが、本態は未だ不明です。発生頻度は、麻疹罹患者10万例に1人とされています。
(7)その他
ワクチン未接種の女性が妊娠中に麻疹にかかると子宮収縮による流産を起こすことがある。妊娠初期での感染では31%が流産し、妊娠中期以降でも9%が流産または死産、24%は早産との報告がある。

診断

カタル期や発疹期に現れる特有の臨床症状のみで診断することが多く行われていますが、現在では加えて「IgM抗体検査」或いは「遺伝子PCR検査」が推奨されます。但し、IgM抗体検査では伝染性紅斑の罹患に伴って血清中の麻疹ウイルスIgM抗体が陽転化する事が報告されていることから、可能な限り遺伝子検査を行うよう厚生労働省は通知を行っています。

治療

特異的治療法はなく、解熱剤、鎮咳去痰薬、輸液や酸素投与などの対症療法を行います。細菌性二次感染は少なからず見られるものの、抗菌薬の予防投薬は二次感染を予防するという根拠がなく、必ずしも推奨されません。
免疫賦活薬イノシンプラノベクスは抗ウイルス作用を示します。麻疹患者に接触後72時間以内の免疫グロブリン製剤の投与が、麻疹発症を予防するか、あるいは症状を軽減させることが認められています。しかし、血液製剤であるため、適応は原則としてワクチン未接種の乳幼児や免疫不全患者などのハイリスク患者に限定されます。

予防

予防策として唯一の方法は、幼児期のワクチン予防接種です。罹患したことのある人、ワクチン接種を行った人は終生免疫を獲得するとされていましたが、ワクチン接種を行っていても十分な抗体価を得られない場合や、野生株の麻疹ウイルスの曝露がないまま長時間を経過することによって抗体価が低下した場合、麻疹を発症することがある。このような場合は典型的な麻疹の経過をとらず、種々の症状が軽度であったり、経過が短かったりすることが多いです(修飾麻疹)。
ワクチン接種後の抗体価の低下を防ぐため、全世界113ヶ国(2004年現在)では年長幼児~学童期に2回目のワクチン接種を行い、抗体価の再上昇(ブースター効果)を図っています。 日本でも、2006年4月から、麻疹・風疹混合ワクチンの2回接種(1歳児、5-7歳未満)に改められました。
アメリカでは1970年代後期より麻疹ワクチンの徹底した導入により2000年に麻しんが排除され、2002年以降の患者数は100人未満となりその多くは輸入症例となっています。


修飾麻疹

本症は、過去のワクチン接種や母体からの移行抗体(乳児の場合)などにより、麻疹ウイルスに対する防御抗体を不十分ながらも有するヒトが、麻疹ウイルスに感染することによって罹患する感染症です。症状がごく軽症で非典型的な症状をとることもあるため、臨床的に麻疹と診断することが困難な場合があります。その感染力は弱いものの周囲の人への感染源になるので注意が必要です。

原因

直接の原因は、通常の麻疹と同様、麻疹ウイルスに感染することです。
麻疹ワクチン接種後、長期間麻疹ウイルスの暴露なしに経過したヒトでは、ブースター効果(免疫増強効果)が得られないまま、麻疹ウイルスに対する抗体価が減衰してきます。このため、ワクチン既接種者で免疫をいったんは獲得したものであっても、再びウイルスに対して感受性となってしまい(Secondary vaccine failure)、麻疹に罹患してしまうことになります。しかし、このようなヒトはある程度の抗体を有していることや、T細胞に抗原情報が記憶されているために抗体産生が速やかに起こることなどから、麻疹に罹患しても軽症の経過をとることが多いです。
上記の他にも、抗体を十分に有する母体から生まれてまだ期間が経っていない乳児、血液製剤の投与を受けているために抗体価を有しているワクチン未接種者などでも修飾麻疹の経過となることがあります。

症状

麻疹の症状は総て見られる可能性がありますが、その症状が軽症であったり、症状の一部を欠いたりすることも多く、全体として軽症の経過をとることが多いです。例えば、潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出現しない、発疹が手足だけで全身には出ない、発疹は急速に出現するけれども融合しないなどです。 カタル期:発熱(38~39℃)、咳、鼻汁、眼脂など上気道の症状が出現します。通常の麻疹では2~3日目からKoplik斑が出現するが、修飾麻疹ではしばしばKoplik斑を欠きます。また、修飾麻疹ではカタル期自体が欠けることも多いです。
発疹期:半日ほどの解熱期間の後、全身の発疹の出現とともに再び発熱(39~40℃)し、72時間前後継続します。発疹は特に体幹では癒合傾向を示し、後に色素沈着を残します。気道症状は上気道から下気道に及び、犬吠様咳嗽や湿性咳嗽が出現し、しばしば肺炎(細菌性二次感染によるもの、ウイルス自体による間質性肺炎いずれもありうる)を合併します。下痢も伴うことが多く、特に乳幼児では経口摂取が低下するために脱水を来たすことも多いです。乳幼児では気道症状と脱水による衰弱、成人では肺炎による呼吸困難のために入院加療を要することも多いです。但し、修飾麻疹では発熱の程度、期間ともに軽症となることも多く、下気道症状や下痢の合併は少ないです。発疹も、体幹より末梢で強いことが多く、色素沈着を残さないこともしばしばあります。
二次感染・・・成人例では細菌性肺炎が見られることがあります。乳幼児では肺炎もしばしば見られるが、中耳炎の合併が極めて多いです。

診断

麻疹に典型的な症状が見られる場合は診断が容易ですが、修飾麻疹ではしばしば典型的ではない症状や経過をとるため、診断が難しくなります。
鑑別すべき疾患としては、風疹、EBウイルス、エンテロウイルス属など他のウイルス感染症、マイコプラズマなどの非定型細菌感染症のほか、薬疹でもしばしば麻疹に類似した発疹を見るので、注意が必要です。
修飾麻疹は臨床症状からの診断が困難であるため、診断のためには臨床検査を必要です。感度・特異度ともに高いのは血清抗体価測定である。血清抗体価の測定法には数種あるが、EIA法は感度が高く、信頼性が高いです。
血清抗体価のうち、抗麻疹ウイルスIgG抗体は過去の感染歴(またはウイルス接種歴)、IgM抗体は現在の感染を示唆します。IgG、IgMの組み合わせにより、概ね以下のように判定されます。
IgG陽性、IgM陰性・・・過去の感染あるいはワクチン接種により、麻疹ウイルスに対する免疫を有する。
IgG陰性、IgM陽性・・・典型麻疹の急性期。
IgG陰性、IgM陰性・・・麻疹感受性者(既往歴もワクチン接種歴もないもの)。
IgG陽性、IgM陽性・・・既に免疫のあるものの急性感染(修飾麻疹)、または麻疹の回復期。

治療

ウイルス自体を駆除する治療法は存在しません。解熱剤、鎮咳去痰薬、輸液などによる対症療法を行います。修飾麻疹では少ないが、間質性肺炎による呼吸困難のある場合には酸素投与や、ステロイドパルス療法などが必要となる場合もあります。
特に修飾麻疹では、細菌性二次感染の予防のために抗菌薬を予防投与することは推奨されないが、二次感染が見られた場合には抗菌薬により治療します。

予防

ワクチンを遠隔期に2回接種することで、抗体価の上昇(ブースター効果)を得て修飾麻疹を予防することができる。
特に医療従事者や教諭など、麻疹接触機会が多くなる可能性のあるものでは、就職時に麻疹抗体価を測定し、抗体価が不十分な場合生ワクチン接種を受けることが勧められます。但し、抗体価を有しているものにワクチン接種を行っても副反応が強くなることはないため、抗体価測定を行わずに、就職時に一律にワクチン接種を行う方法もあります。

執筆:2011.3

▲PageTop

ページトップに戻る