マルファン症候群

マルファン症候群 (Marfan syndrome)

本症は、常染色体優性遺伝の形式をとる細胞外基質を構成する蛋白質の一つであるフィブリリン1 (fibrillin-1、 FBN1)の変異による全身性の結合組織病です。細胞外基質の異常から、結合組織が脆弱となり組織の弾力性が減少して大動脈や網膜、硬膜、骨の形成等に多発性奇形異常をもたらします。
一般的には、本症の最も一般的な眼症状は近視であり、約60%の患者に見られる水晶体偏位が特徴的所見です。また、本症では網膜剥離、緑内障、早期白内障の発症リスクが高いです。骨格系の症状は長管骨の長軸方向の過形成と関節の弛緩が特徴です。四肢は体幹に対して不均衡に長くなり(クモ状肢)、肋骨の過形成は胸骨を押し込んだり(漏斗胸)、押し出したりします(鳩胸)。脊柱側彎症は一般的な症状であり、軽症から重度で進行性の場合もあります。本症の早期死亡の主要病因は循環器系に関係したもので、バルサルバ洞を含む上行大動脈拡張、大動脈断裂や破裂、血液の逆流を伴う事もある僧帽弁逸脱、三尖弁逸脱、近位の肺動脈拡張などが特徴です。適切な治療により、本症の患者の平均余命は一般人の平均余命に近いものになっています。この他にも特異な顔貌(狭くて長い顔があり、深く陥没した眼球、下方に傾く眼瞼裂、平たい頬骨、小さくて後退した下顎などを伴う。口蓋はアーチ状で狭くなり、歯の密生と関連している)を呈します。

原因:15番染色体長腕にあるFBN1の先天性遺伝子異常(15q21)によって生じます。FBN1は、弾性線維の生合成と維持を含む細胞外基質の適切な組成に必須な蛋白です。また、細胞外基質は結合組織の構造を保持するだけでなく、様々な成長因子を貯蔵する役割もあります。特にTransforming growth factor beta (TGFβ) は本症で重要な役割を果たしていると考えられ、正常ではFBN1は間接的にTGFβと結合してその活性を発現させないようにしています。しかし、本症では正常に機能しないFBN1によりTGFβの発現が高くなっており、弾性線維や細胞外基質を分解するプロテアーゼの亢進により炎症反応が生じていることが知られています。
尚、本症の一部の患者にTRFBR2遺伝子変異があることを報告しているが、本症とは異なるとの見解もあります。(鑑別疾患の項目参照)

疫学

本症は出生時にも発見されますが、一般には青春期または青年期まで診断される可能性の方が高いです。30歳前後に突然の大動脈解離によって自覚することもしばしばあります。発生頻度は全ての人種と男女にかかわらず5000人あたり1人前後で、日本では40000人の患者がいると推定されます。概ね75%が親からの常染色体優性遺伝で25%は新たな突然変異によるものと推定されています。原因遺伝子が新たに発見される可能性もあるため、今後患者数も増加しうると類推されます。

症状

結合組織は全身に存在するため、様々な症状を呈します。症状の度合いはそれぞれの患者によって異なり、生下時から重篤な症状もあれば中高年になるまで症状が出ることがない、あるいは部分的な症状が重症などと程度が様々です。
7つの主な症状(心臓・血管、骨格・筋肉、目、肺、皮膚、脊柱硬膜、家族歴)を診断基準にして診断しますが、全ての徴候と症状が同時に出現するとは限らず、時間の経過と共に徐々に症状が増えて診断基準を満たすこともあるので、ある時点で診断基準を満たさなくてもマルファン症候群ではないと確定することは出来ません。マルファン症候群の疑いとして注意深い経過観察と定期健診が必要です。
また、マルファン症候群と診断された場合、あるいはマルファン症候群の疑いがあると診断された場合は、重篤な症状に至らないようにするためにも、定期的な検査による診断が生涯に渡り必要です。
診断のためには事前に以下のような検査やヒアリングが必要になります。
1. マルファン症候群の家族歴/遺伝歴
(家族で若くして心臓血管系の原因で亡くなった人はいないかなども考慮)
2. 骨格系症状の検査(身体検査、エックス線写真、etc)
3. 心血管系の検査(心エコー、CT、MR etc)
4. 眼の検査(細隙灯を使用する眼検査etc)
5. 硬膜の検査(CT、MR)
6. 肺の検査(X線写真、etc)
7. 皮膚の検査(ストレッチマークの有無など診察)
これらの検査、診察などから基準表に照らし合わせて診断します。
診断基準には、一般の人にはまず現れないマルファン症候群に非常に特有の「大症状基準」と、一般の人にもしばしば見られる「少症状基準」があります。

Marfan症候群診断基準表

器官系診断基準
主症状副症状
骨格系少なくとも以下のうち4つの症状が現れていること。
1. 手術が必要な鳩胸もしくは漏斗胸
2. 下節(床から恥骨上縁までの長さ)と上節(恥骨上縁から頭頂部までの長さ)の比が<0。85に低下しているか、翼幅(両手を張り、広げたときの長さ)と身長の比が>1。05に増大している
3. 手首や母指にWalker-Murdoch徴候(手首を握った際に親指が小指の第一関節を超える)やSteinberg母指徴候(親指を中にして手を握った際に小指の側から親指の爪が全て出る)がある
4. 20度以上の側彎か脊椎すべり症がある
5. ひじの伸展制限(170度以下)
6. 偏平足に伴う内踵の内側偏位
7. 寛骨臼突出症(磨耗を伴った異常に深い寛骨臼)
2つの器官系の主症状か、1つの主症状と少なくとも次のうちの2つである
1. 手術を要しない中程度の漏斗胸
2. 関節の過剰運動性
3. 歯の密生を伴った過度にアーチ状の口蓋
4. 容貌(長頭、頬骨の発育不全、眼球陥入、顎後退、眼瞼裂)
水晶体偏位少なくとも以下のうち2つがあること
1. 異常に平らな角膜(角膜曲率測定器により測定)
2. 眼球の視軸長の増加(超音波で測定)
3. 瞳孔収縮の減少を起こす虹彩の発育不全もしくは毛様体の発育不全
循環器系少なくとも次のうち2つがあること
1. バルサルバ洞を含む上行大動脈の拡大
2. 上行大動脈の解離
少なくとも次のうちの1つがあること 1. 逆流を伴うこともある僧帽弁逸脱
2. 40歳以前の、明確な原因のない肺動脈の拡大
3. 40歳以前の僧帽弁輪の石灰化
4. 50歳以前の胸部大動脈もしくは腹部大動脈の拡大、解離
 少なくとも次のうちの1つがあること
1. 突発性の単純気胸
2. 肺尖嚢胞
皮膚 少なくとも次のうちの1つがあること
1. 明確な原因のない線状皮膚萎縮症
2. 再発性もしくは切開創ヘルニア
硬膜腰仙椎部の硬膜拡張症(CTかMRIによって確認する) 
家族歴
遺伝歴
少なくとも次のうちの1つがあること
1. マルファン症候群と診断された両親や子、同胞がいる
2. マルファン症候群を発症させるFBN1遺伝子の変異があること
3. マルファン症候群の家系内で明らかにされた罹患FBN1遺伝子ハプロタイプを持っている場合
 

発端者:
家族歴・遺伝歴に該当項目のない場合、少なくとも2器官で大基準を満たし、もう一つの器官の罹患がある場合
Marfan症候群を来す変異が家系内で検出されており、1器官での大基準を満たし、もう一つの器官の罹患がある場合
発端者の親族:
家族歴・遺伝歴の項目での大基準項目が1個存在し、1器官での大基準を満たし、もう一つの器官の罹患がある場合

遺伝子検査
本症に関与している唯一の遺伝子であるFBN1の分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能で、70-93%の患者で変異が同定されます。
リスクのある親族の検査
マルファン症候群患者の親族は本症の所見がないか検査をうけるべきです。親族にマルファン症候群を疑わせる所見がある場合には、心エコーを用いた評価が行われます。発端者における所見がごく軽度の場合には、無症状の親族に対しても検査を行うべきです。乳幼児の場合には、鎮静剤を使わずに検査が行えるようになるまでは施行を延期するのが妥当です。ただし弁膜症やうっ血性心不全の徴候が見られている場合はその限りでではありません。

治療

本症の根本的治療法はありません。本症患者の約90%は心臓血管になんらかの異常があり、死因の多くは大動脈弁や僧房弁の閉鎖不全による心不全、動脈破裂、急性大動脈解離などの心臓血管の疾患によるものです。なかでも大動脈解離による突然死が最も頻度が高いので、若年者で激烈な胸痛や背部痛、強烈でなくても広範囲に広がる背部痛を突然感じた場合は、速やかに医療機関へ受診することが肝要です。深刻な事態を避けるためにも、定期的な診察と検査を受け、適切な時期に最適な治療を受けることが重要です。
また、本症の治療に当たっては、循環器内科、眼科、整形外科、胸部外科、心臓・血管外科、小児科、遺伝医学などの専門科によるチームアプローチが重要です。
1)眼症状
本症の多くの視力低下は、眼鏡によって矯正ができます。水晶体脱臼・偏位の場合は、成長が完了していれば人工水晶体の植え込み術を行います。弱視の危険がある幼児に対しては、注意深く積極的な視力矯正が必要です。網膜剥離、緑内障や白内障を合併することがあるので、注意が必要です。
2)骨格系
骨の過成長、靭帯の弛緩、進行性の脊柱側彎症などは、深刻な問題を引き起こすことがあり、治療の対象になることがあります。
漏斗胸は重症で外科的治療が行われることがありますが、稀です。
進行性の側彎症に対しては脊柱の外科的固定が必要となります。
寛骨臼突出症は、疼痛や機能的な制限を伴うことがありますが、外科的治療が必要となることは稀です。
矯正具やアーチサポートは偏平足による下肢疲労や筋痙攣を改善します。
3)心臓・血管症状
心臓や大動脈壁へのストレス負荷を軽減するために、βブロッカー、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などの降圧剤を内服することが推奨されます。最近ロサルタンの一種であるロサルタンが、動物実験で本症の大動脈瘤と肺の問題を予防することが確認されています。
(1)成人や年長小児で大動脈最大径が5cmを超える
(2)大動脈径拡張の速度が年1cmを超える
(3)進行性の大動脈弁逆流がある。
若年での大動脈解離の家族歴がある場合には、大動脈解離、大動脈瘤、大動脈基部拡張症などによる破裂を予防するために、待機的人工血管置換術を行います。緊急血行再建術の場合は術後の早期死亡率が高いです。
大動脈弁や僧房弁の閉鎖不全による難治性の心不全を防止するために、人工弁置換術や弁修復術を行うことがあります。多くの患者は弁膜を保存する術式が選択され、長期の抗凝固療法を避けることができます。人工血管や人工弁置換術後は抗凝固剤内服を長期継続します。
歯科治療やその他血液中に細菌が混入する可能性がある医療行為を行う際は、亜急性細菌性心内膜炎の予防を行う必要があります。
4)肺症状
気胸も再発しやすく問題となります。治療としては化学的もしくは外科的胸膜癒着術や嚢胞切除術が必要となります。尚、タバコは肺を傷害する恐れがあるため、禁煙して下さい。
また、うっ血性心不全が高度になると、近位肺動脈の拡大が生じます。
5)硬膜拡張
腰仙部の硬膜拡張は最も確率が高く現れる症状の一つです。成人の場合で95%以上が症状を有しています。硬膜拡張は通常無症状なので、既に存在している硬膜拡張に対して特に治療は必要ありません。しかし、時に硬膜拡張が骨を侵食したり、神経を障害したりすることがあり、症状としては腰部痛、下肢近位部痛、膝関節上下の筋力低下やしびれ、生殖器や肛門の痛みが生じます。硬膜嚢からの脳脊髄液の漏出は起立性低血圧や頭痛の原因となります。
6)歯症状
顎が狭少のため、歯並びが悪くなることがあります。歯並びの歯列矯正治療を行います。歯科治療においても、人工血管や弁置換術をしている場合には、亜急性細菌性心内膜炎の予防を行うことが必要です。
7)皮膚症状
骨格の急速な成長に起因する皮膚のストレッチマーク(皮膚割れ線、皮膚萎縮線、妊娠線)が生じます。予防はできません。
8)その他
罹患者は身体接触を伴う競技や競争、アイソメトリックな運動を避け、中等度の有酸素運動にとどめるべきです。また、関節の外傷や疼痛を引き起こすような活動を控えるべきです。充血除去剤を含む心血管系を刺激する薬剤、あるいはカフェインは不整脈を発生させやすくするので、これらを回避します。再発性気胸の危険がある場合には気道抵抗に対抗するような呼吸や陽圧呼吸(管楽器吹奏やスキューバダイビングなど)も避けるべきです。
レーザーによる近視手術は禁忌です。
9)本症患者の妊娠について
妊娠は本症に精通した遺伝専門医や循環器専門医、遺伝カウンセラー、あるいは高リスク妊娠に詳しい産科医による適切なカウンセリング後に考慮されます。妊娠中や分娩直後により急速な大動脈拡張や大動脈解離がおこることがあり、妊娠成立時に大動脈最大径が4 cmを超えている場合は特に注意が必要です。

鑑別疾患

FBN1遺伝子の変異によって起こる遺伝的に関連する疾患
1)家族性水晶体脱臼
家族性水晶体脱臼は常染色体優性遺伝性疾患でマルファン症候群に類似した水晶体脱臼とさまざまな骨格系所見を伴う。FBN1の変異が原因である。この疾患に罹患している人が将来的に進行性の大動脈拡張をきたすかどうかは不明である。定期的な心血管系の画像検査を継続すべきである。
2)Weill-Marchesani症候群
Weill-Marchesani症候群は低身長、眼異常(近視、小球形の水晶体偏位、緑内障、短指趾、関節拘縮を特徴とします。時に心臓異常や不整脈を生じます。頻度は1人/100000人程度と稀です。ADAMTS10 と FBN1の遺伝子変異で生じると考えられており、ADAMTS10変異では常染色体劣性遺伝で、FBN1変異では常染色体優性遺伝形式である。しかし、本疾患にこの遺伝子異常が生じていない症例もあるため、異なる遺伝子異常で生じている可能性もある。
3)Shprintzen-Goldberg症候群
Shprintzen-Goldberg症候群は遺伝形式が明らかでなく、マルファン症候群に見られる臨床所見(クモ状肢、クモ状指、胸郭変形、側彎症、大動脈基部拡張、高口蓋)や他の特徴的な所見(頭蓋早期癒合、発達遅滞、Chiari奇形、眼角解離、眼球突出、肋骨奇形、内反尖足)を伴う疾患である。FBN1の変異が同定された3例が報告されているが、その臨床像は非典型的であった(水晶体脱臼を伴っていた)。大多数の症例ではFBN1の変異と無関係である。
4)MASS症候群
MASS症候群はFBN1のヘテロ変異によって生じる病態である。MASSという略語はマルファン症候群でも認められる所見である僧帽弁逸脱(Mitral valve prolapse)、近視(myopia)、境界型もしくは非進行性の大動脈拡張(Aortic enlargement)、非特異的な皮膚骨格所見(Skin and Skeletal findings)の頭文字を並べたものである。この診断は家系内で複数世代に同じ症状が認められた場合に最も確実である。しかし、こうした家系の家族の中でより重症の弁膜症が生じてくるかどうかは明らかではないので、定期的な心血管系の画像検査は継続すべきである。散発例、特に小児例ではMASS表現型と早期のマルファン症候群を鑑別するのは難しい。

他の結合組織疾患

1)Loeys-Dietz症候群
Loeys-Dietz症候群は常染色体優性遺伝性疾患でマルファン症候群と共通の多くの所見(長い顔、眼瞼裂の下方への傾斜、高口蓋、頬骨低形成、小顎症、下顎後退症、胸郭変形、側彎症、クモ状指、関節の弛緩、硬膜拡張、大動脈瘤と解離)を伴う。マルファン症候群でみられるいくつかの所見はより低頻度か軽度(クモ状肢)もしくは欠如(水晶体脱臼)している。特徴的な所見としては眼角解離、幅広もしくは二分口蓋垂、口蓋裂、学習障害、水頭症、Chiari I型奇形、青色強膜、外斜視、頭蓋早期癒合、内転尖足、柔らかくビロード状で透過性の皮膚、あざができやすいこと、全身性の動脈捻転と動脈瘤、大動脈全体の解離などがある。大動脈瘤の臨床経過はマルファン症候群のそれとは大きく異なり、小さいうちに、また小児のうちに解離や破裂をきたす。外科的修復は血管型エーラス・ダンロス症候群でみられるような組織脆弱性によって困難を生じることはない。この病態はTGFBR1 もしくはTGFBR2 遺伝子の変異によっておこる。
2)先天性拘縮性クモ状指症
先天性拘縮性クモ状指症はマルファン症候群様容貌と長く細い手足の指を特徴とする常染色体優性遺伝性の疾患である。フィブリリン-2をコードするFBN2遺伝子のヘテロ変異が原因となる。患者の多くでは上耳輪が折れ皺がよっており、出生時から膝関節や足関節の拘縮がみられるがこれは次第に改善する。近位指節関節も屈曲拘縮(屈指)をきたしており、足指も同様である。股関節拘縮や内転母指、内反足を伴うこともある。亀背や側彎は約半数に見られ、早い例では乳児期に出現して次第に進行する。患者の大多数は筋低形成を伴っている。古典的な先天性拘縮性クモ状指症では重症の眼症状や心血管障害は伴わない。
3)家族性胸部大動脈瘤・大動脈解離
家族性胸部大動脈瘤・大動脈解離は常染色体優性遺伝性の心血管病変であり、他の病変は伴わない。大動脈病変はマルファン症候群で見られるものと類似しており、大動脈拡張やバルサルバ洞や上行大動脈レベルでの大動脈解離が見られる。TGFb II型受容体をコードするTGFBR2遺伝子や、FAAおよびTAAD1とよばれる遺伝子座が本症に関連している。遺伝的異質性が明らかである。
4)Ehlers-Danlos症候群(EDS)
EDSは関節の過動を共通所見とする疾患群である。 古典型EDSは常染色体優性遺伝性で、皮膚の過伸展や創傷治癒の異常、滑らかでビロード様の皮膚が特徴である。古典型EDS患者の約50%でCOL5A1またはCOL5A2の変異が同定される。
後側彎型EDS(EDS VI型)は常染色体劣性遺伝性疾患で、後側彎、関節過伸展、筋低緊張、そして一部の患者では眼科的症状が特徴である。患者は中等サイズの動脈の破裂のリスクがあり、後側彎が高度な場合には呼吸機能にも障害をきたす。後側彎型EDSはprocollagen-lysine、2-oxoglutarate 5-dioxygenase 1(PLOD1: lysyl hydroxylase 1)の機能欠失が原因である。後側彎型EDSの診断はHPLCで測定した尿中deoxypyridinoline /pyridinoline比の上昇の証明による特異性が高い。皮膚線維芽細胞のLysyl hydroxylase酵素活性の測定も可能である。Lysyl hydroxylase 1をコードするPLOD遺伝子の分子遺伝学的検査も研究室ベースで利用できる。 血管型EDS(EDS IV型)は常染色体優性遺伝性疾患で関節過伸展(しばしば小関節に限局する)、容易に静脈が透見できる皮膚、皮下出血ができやすい、広範で崩れやすい瘢痕、特徴的な顔貌(明瞭な眼ととがった印象の顔貌)、脾、腸管、子宮の臓器破裂、全身の筋性中・大動脈の動脈瘤や解離が特徴である。マルファン症候群と異なり、大動脈弓が特に冒されるわけではないが、大動脈弓が冒されないということでもない。組織はきわめてもろく、外科手術の際にしばしば悲惨な状況を招く。COL3A1の変異が原因である。診断は培養皮膚線維芽細胞における異常III型コラーゲンの産生を確認することによって確定する。
5)ホモシスチン尿症
ホモシスチン尿症は常染色体劣性遺伝性疾患でCBS遺伝子変異によるcystathionine- synthase欠損が原因である。この疾患はさまざまな程度の精神発達遅滞、水晶体脱臼と重度の近視、骨格系の異常(身長や四肢長が長いことも含む)、血管内血栓と血栓塞栓症の発症を特徴とする。マルファン症候群との類似点は多く、長く細い身体、足の変形、側彎症、僧帽弁逸脱症、高口蓋、ヘルニア、水晶体脱臼などがみられる。血栓塞栓症は生命にかかわる。患者の約半数は薬理学的用量のビタミンB6&B12に反応することから本症の正しい診断の必要性が強調される。
6)Stickler症候群
Stickler症候群は常染色体優性遺伝性の結合組織疾患で、近視、白内障、網膜剥離、伝音性および感音性の難聴、顔面正中低形成、口蓋裂(単独の場合もRobinシークエンスの部分症の場合もある)、軽度の脊椎骨端異形成症や早期の関節炎をきたす。本症の診断は臨床的になされる。本症には3種類の遺伝子(COL2A1、COL11A1、COL11A2)が関与している。
7)脆弱X症候群
脆弱X症候群はX連鎖性疾患で罹患男性では中等度の、罹患女性では軽度の精神発達遅滞をきたす。男性ではマルファン症候群を思わせる特徴的な容貌(大頭、長い顔、前頭と顎の突出、目立つ耳)や結合組織の所見(関節弛緩)を示す。本症では精巣が大きい。時に自閉症様の行動異常は高頻度にみられる。本症の99%以上の患者ではメチル化異常を伴うFMR1遺伝子のCGGトリプレットの延長(>200)がみられる。

執筆:2011.4

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