結節性硬化症

結節性硬化症(tuberous sclerosis, Bourneville - Pringle's phacomatosis)


結節性硬化症は全身の過誤腫を特徴とする疾患で、責任遺伝子は第9染色体(9q34)上にTSC1遺伝子が、第16染色体(16p13.3)上にTSC2遺伝子が同定されています。この2つの遺伝子の異常により、皮膚のみならず、脳神経系・腎臓・肝臓・肺・消化管・骨などほぼ全身に過誤腫や白斑を生じると同時に、精神発達遅滞や行動異常などの症状を呈します。
本症の症状には軽症から重症までありますが、それらの差が何に由来するかは不明です。TSC1遺伝子とTSC2遺伝子は全く異なった遺伝子ですが、現在のところ、臨床的にTSC1とTSC2を区別はできません。
本症は出生約10000人に1人の割合で生じ、常染色体優性遺伝疾患ですが、患者の60%近くが突然変異による弧発例で生じます。

原因

TSC1遺伝子とTSC2遺伝子は、各々130Kbの蛋白質hamartinと198kDaの蛋白質tuberinを作ります。hamartinは腫瘍抑制遺伝子の一種であり、細胞接着など種々の作用に関与します。一方、tuberinもhamartinと同様、腫瘍抑制遺伝子の一種であり、Rap1あるいはRab5のGTPase-activating protein(GAP)の触媒部位と相同性を有することが知られています。その他、細胞分裂、神経の分化やエンドサイトーシスなど多岐において重要な役割を担っています。さらに、hamartin、tuberinは前述した各々の作用の他に、tuberin-hamartin複合体がPI3 kinase/S6K1 signaling pathwayを介して、細胞増殖や細胞の大きさの調節に関与することが解明されてきた。[即ち、tuberin-hamartin複合体は、Rheb(Ras homolog enriched in brain)のGTPase acrivating protein(GAP)として作用し、Rheb-GTPを不活性化し、mammalian target of rapamycin(mTOR)を抑制することにより、その下流のS6K1、ribosomal protein S6 や4E-BP1 に作用し、結果的に細胞増殖や細胞の大きさの制御が行われている。一方tuberin-hamartin複合体はPI3K/Akt signaling pathway及びPKC/MAPK signaling pathwayによって制御されている。]
このように、TSC1遺伝子とTSC2遺伝子は共同で作用するために、臨床的にTSC1とTSC2とを区別するのは困難です。これらのTSC1&TSC2の作用で、TSCの腫瘍形成の機序は説明できますが、白斑などの腫瘍病変以外の機序は未だ解明されていません。

症状

結節性硬化症は全身の過誤腫を特徴とするため、その症状も脳神経系・皮膚・腎・心・肺・骨等ほぼ全身に及びます。これらのうち、心臓の横紋筋腫(Cardiac rhabdomyomas)は胎生期に出現して出生時に最も著明になります。Subependymal giant cell astrocytoma(SEGA)や痙攀発作などの脳神経症状、皮膚の白斑やforehead plaquesは生下時あるいは出生後比較的早期(時に胎生期)に出現しますが、その他の症状は乳児期や幼小児期には認めらず、加齢と共に徐々に多様な症状が発現してくることが多いです。
皮膚症状
本症の皮膚病変としては、①顔面の血管線維腫(angiofibroma)、②シャグリンパッチ(shagreen patches)、③葉状白斑(white leaf-shaped macules)、④爪囲下線維腫(Koenen腫瘍;ungual fibromas)などが認められる。
①顔面の血管線維腫
鼻唇溝・頬部・外鼻周辺に、常色~淡紅色で直径2~10 mmまでの硬い丘疹が多発し、対称的な蝶形に出現するのが特徴です。5歳以上の結節性硬化症患者の80%以上に認められ、特異性の高い症状の一つです。生下時には認められず、乳幼児期初期にはvascular spider様の病変として認められ、5歳頃になって血管線維腫らしい形状を完成し、年齢と共に増加します。成長と共に皮疹が融合し、腫瘤状や局面状の病変を呈します。 ②葉状白斑
生下時から生後数ヶ月以内に出現する不明瞭な長楕円形の白斑で、躯幹、殿部、四肢に非対称性に出現し、頭部に出現すると白毛を呈します。5歳以下の患者の25%に、5歳以上の患者では50%の頻度で認められます。本症以外でも認められることが多く、これのみでは本症の診断には至らない。幼少時期では慎重に観察しなければ見逃されることが多いので、Wood灯を照射すると確認しやすいです。
③粒起革様皮膚
背部、特に腰仙部、腹部に非対称性に好発し、数mm~10cm以上の正常皮膚色、時に黄色からピンク色がかった扁平隆起性局面で、表面は碁石状で、豚皮あるいはミカン皮のような様相を呈する。5歳以下の患者では、大きなものは稀で、1cmまでの疣様小結節として躯幹四肢に単発あるいは散在する事が多い。5歳以下の患者の25%に、5歳以上の患者では50%の頻度で認められますが、通常は思春期以降に出現します。
④爪囲線維腫
爪囲(爪甲縁ないし爪甲上)に血管線維腫が出現したもので、直径2~10 mmまでの淡紅~褐色の紡錘形小結節で軟骨様の硬さの腫瘤です。通常、思春期以降に出現して徐々に増大し、手の爪より足の爪に目立つことが多いです。
精神神経学的症状
本症状としては、痙攀発作、精神発達遅滞、自閉症などがあります。
特に、痙攀発作は結節性硬化症患者の84%にみられ、本症患者の92%の初発症状です。生後4~6ヶ月頃に気づかれることが多く、多彩な発作を生じ、治療抵抗性のことも多いです。中でもinfantile spasmsは結節性硬化症の患者の65%以上に認められ、EEGでしばしばhypsarrhythmiaを示し、大部分が精神発達遅滞を伴います(West syndrome)。一般に、4歳以下で高頻度にgeneralizedな痙攀発作を認めた場合、治療に抵抗性の場合には精神発達遅滞を伴う確率が極めて高いです。
また、本症では側脳室壁に好発するSubependimal Giant Cell Astrocytoma(SEGA)が特徴的で、結節性硬化症患者の6%以上がSEGA を持っており、小児期から思春期にかけて急速に増大する事が多いです。腫瘍自体は良性ですが、腫瘍の増大に伴い、頭痛・嘔吐・両側性の乳頭浮腫などの脳圧亢進症状やモンロー孔の閉塞による水頭症の症状をみることがあります。
心症状
心横紋筋腫は胎生期に出現し出生時に最も著明になります。結節性硬化症患者の50%に認められ、多発性で、左心室に多く、大部分は無症状です。腫瘍が心腔内に突出して血液の流れを閉塞する場合、心筋内の腫瘍が心筋の収縮を障害する場合、腫瘍が刺激伝導系を障害する場合に、心筋肥大、欝血性心不全、不整脈、Wolff-Parkinson-White syndromeなどの症状を呈し、新生児期、乳幼児期における結節性硬化症の重要な死因の一つとなりますが、大部分は無症状で、加齢と共に縮小・消退します。
腎症状
本症の患者の80%以上が何らかの腎病変を持っており、嚢腫(cyst)、血管筋脂肪腫(Angiomyolipoma;AML)および腎癌(renal cell carcinoma)が本症に特徴的な病変です。腎嚢腫は小児期に発症することが多く、臨床的には、腎機能障害および高血圧の原因となります。血管筋脂肪腫は小児期以降に出現することが多く、両側性に多発します。臨床的には、無症状のことが多く、腫瘍が相当大きくなっても一般の血液検査や尿検査では異常が認められないことが多く、腎機能障害が出現することも少ない。血管の豊富な腫瘍では、腫瘍径が4cmを越える時には、腫瘍サイズが増大しやすく、自然破裂の確率が高くなり、10代の腎腫瘍では急速に増大することが多く、突然後腹膜への大量出血を起こして、ショック症状に陥ることもあります。腎癌と結節性硬化症との関係は未だ明確な見解はありません。その他、extrapulmonary lymphangioleiomyomatosis として、Lymphangiomatous cysts を認めることもある。通常自覚症状はいが、悪性リンパ腫との鑑別が問題となることがあります。
呼吸器症状
本症に特徴的なのはmultifocal micronodular type 2 pneumocyte hyperplasia (MMPH) と pulmonary Lymphangiomyomatosis (LAM) である。MMPH は2型肺胞上皮細胞の過形成が肺内に瀰慢性に生じた状態で、粟粒結核や転移性腫瘍と間違えられることもあるが、特に治療は要しません。一方LAM は、LAM cell と呼ばれるAtypical smooth muscle cells の増殖と、壁の薄い多発性嚢腫の形成による、嚢胞性肺疾患です。通常、LAMの発症年齢は30~35歳頃で、繰り返す気胸と徐々に進行する呼吸困難が特徴的な症状で、肺病変と呼吸機能は進行性で経年的に悪化し、40歳以上の結節性硬化症患者の主な死因の一つであり、予後が悪い。
眼症状
網膜の多発性結節性過誤腫(multiple retinal nodular hamartomas)が約50%の患者に認められます。大部分は石灰化しますが、稀に増大して網膜剥離や硝子体出血の原因になります。通常は無症状のことが多いですが、過誤腫が黄班部にかかった場合は視力障害を生じることもあります。視力障害が生じた場合は、脳腫瘍のために乳頭浮腫や視神経の萎縮を起こした可能性が高く、速やかに眼科や脳外科の専門医を受診すべきです。網膜の白斑や虹彩脱色素斑を認めることもあります。
血管症状
大動脈などの大血管に動脈瘤が認められることがあり、腎動脈や肺動脈、肝動脈などの中型の動脈血管の血管壁の中膜が肥厚し、弾性板が欠如し、硝子化をおこして内腔の狭窄をひきおこすことがあります。
骨病変
本症の骨病変は高頻度に出現し(45~66%)、頭蓋骨・脊椎・骨盤にはしばしば骨硬化像が認めます。手・足の中手骨や中足骨では、自覚症状のない周囲に骨の新生を伴った嚢腫様の病変が認められます。経過観察のみで治療は要しない事が多い。
肝症状
血管筋脂肪腫や血管腫が多く、その他、肝腺腫などを認めます。いずれも自覚症状は認めません。
消化器症状
頬粘膜、歯肉、舌底面、口蓋にも線維腫などの腫瘍が認められます。歯にenamel defect (enamel pit) と呼ばれる小さなエナメル質の欠損を高頻度に認めます。大腸の壁の一部が肥厚し、内腔の狭窄をおこすこともあります。直腸の線維腫性ポリープが認められます。症状が悪化する場合は外科的治療の対象となる。

診断

結節性硬化症の責任遺伝子が明らかになった現在では、遺伝子診断がもっとも確実な診断方法ですが、実際には、検出率が患者の約60~80%と低く、遺伝子型と表現型とは必ずしも相関しない為、診断は臨床症状によってなされているのが現状です。また、本症は先天異常ではあるが、全ての症状が生下時より出現するわけではなく、症状にもばらつきが多く、さらに、個々の症状は必ずしも本症に特異的なものばかりではありません。従って、本症の診断はいくつかの症状を組み合わせる事によってなされます。最近、結節性硬化症のモザイクの報告もあり、遺伝子検査や遺伝的な説明に際しては生殖細胞モザイクの存在も頭に置いておく必要があります。
大症状
  1. 顔面の血管線維腫または前額部、頭部の結合織よりなる局面
  2. 非外傷性多発性爪囲線維腫
  3. 3つ以上の白斑(hypomelanotic macules,three or more)
  4. シャグリンパッチ(shagreen patch/connective tissue nevus)
  5. 多発性の網膜の過誤腫(multiple retinal nodular hamartomas)
  6. 大脳皮質結節(cortical tuber)*1
  7. 脳室上衣下結節(subependymal nodule)
  8. 脳室上衣下巨大細胞性星状細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma)
  9. 心の横紋筋腫(cardiac rhabdomyoma)
  10. 肺リンパ管筋腫症(lymphangiomyomatosis)*2
  11. 腎血管筋脂肪腫(renal angiomyolipoma)*2
小症状
  1. 歯エナメル質の多発性小腔(multiple,randomly distributed dental enamel pits)
  2. 過誤腫性直腸ポリープ(hamartomatous rectal polyp)*3
  3. 骨嚢腫(bone cyst)*4
  4. 放射状大脳白質神経細胞移動線(cerebral white matter radial migration lines)*1,4,5
  5. 歯肉の線維腫(gingival fibromas)
  6. 腎以外の過誤腫(nonrenal hamartoma)*3
  7. 網膜無色素斑(retinal achromic patch)
  8. 散在性小白斑(confetti skin lesions)
  9. 多発性腎嚢腫(multiple renal cyst)*3

DefinitiveTSC:大症状2つ、または大症状1つと小症状2つ
ProbableTSC:大症状1つと小症状1つ
PossibleTSC:大症状1つ、または小症状2つ以上

*1 cortical tuberと cerebral white matter radial migration linesの両症状を同時に認める場合は1つと考える。
*2 lymphangiomyomatosisと renal angiomyolipomaの両症状がある場合はDefinitiveTSCと診断するには他の症状を認める必要がある。
*3 組織診断があることが好ましい。
*4 レントゲン所見で充分である。
*5 3つ以上の radial migration linesは大症状に入れるべきだという意見もある。

生殖細胞モザイク(Germline Mosaicism)の診断基準
1.二人以上の子供が結節性硬化症に罹患している
2.両親のいずれも結節性硬化症の症状がない
以上の2項目を満足する場合

検査及び治療

本症は、遺伝子産物の解析により、ここ10年で急速に病態が解明されてきました。しかし、未だに根治的治療は可能にはなっておらず、治療法のほとんどが対症療法です。年齢により、出現する症状が異なり、皮膚のみならず全身に多岐にわたる症状が出現し、程度も様々であるため、時期により必要な検査や治療が異なります。特に治療においては、本症患者の主治医が定期的に経過観察や検査を行って、患者の症状程度に応じて専門医に協力してもらい治療を行う必要があります。

死因

本症の死因は、腎不全等の腎病変、脳腫瘍等の中枢神経系病変、次いで心不全が多いです。しかし、本疾患の死因は年齢によって異なり、10歳以上では腎病変が主な死因ですが、10歳未満では心血管系の異常(心臓の横紋筋腫による心不全)が主な死因です。また、10代の主な死因としては、脳腫瘍(SEGA)が特徴的です。さらに、40歳以上の死因では特に女性において、腎病変と並んで肺病変(LAM)が増加します。また、痙攀発作が関与する死因は40歳未満がほとんどです。

執筆:2011.1

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