疥癬

疥癬はヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var hominis)が皮膚(角質層)に寄生することによって起こる、掻痒の強い皮膚感染症です。雌成虫の体長は0.4mmと小さなダニで、雌は雄と交尾後、皮膚角質層内にトンネル(疥癬トンネル)を掘り進みながら卵を1日に2-3個トンネル内に生みつけ、約1ヶ月産卵を繰り返します。卵は3-4日で孵化して幼虫、若虫を経て成虫となり、産卵から成虫になるまで約10-14日の生活環を辿ります。この間、終始皮膚に生存して皮膚病変を作ります。
疥癬には通常疥癬と重症型の角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の2つの病型があります。前者では感染力は弱いですが、長時間同室で寝起きを共にする(雑魚寝、家族間、当直室、保育園、合宿、性行為など)ことや、布団や寝具やシーツや衣類などを介して間接的にも感染します。後者は何らかの免疫力が低下している状態(老衰、重症感染症、悪性腫瘍、ステロイドや免疫抑制剤投与中など)で発症しやすく、1人の患者に100-500万匹寄生しているために感染力が非常に強いのですが、この角化型疥癬は稀です。

なお、ヒゼンダニはヒトの体温より低い温度では動きにくくなり、ヒトから離れて床などに落ちると弱って死んでしまうので、通常疥癬であれば殺虫剤の室内散布は必要なく、洗濯も通常の方法で行って問題ありません。従って通常の社会生活で感染することは殆どありません。

症状

疥癬は感染後約1-2ヶ月の無症状期間を経て発症し、掻痒が強く夜間に増悪して熟睡できなくなることもあります。

通常疥癬の症状は、紅斑性小丘疹(赤く痒いブツブツ)が胸腹部、大腿内側、上肢屈側、腋窩などに出現してきます。また、皮表よりわずかに隆起した細く曲がりくねった5mm程度の線状の皮疹(疥癬トンネル)は本症に特異的で、このトンネル内で雌成虫が潜み産卵しています。この症状は手関節から抹消(手掌、指間、指側面、手関節尺側など)や腋窩、臀部に好発しますが、寝たきりの高齢者や幼児では足や趾にも出現します。また、小豆大の赤褐色の小結節が外陰部、腋窩、肘頭などに出現することもあります。通常疥癬では幼児を除き、上記の皮疹は頭頚部には発症しません。

角化型疥癬の症状は、手足や四肢の関節部位、体幹の骨の突出部位や摩擦を受けやすい部位に、角質増殖の目立つ厚い灰色から黄白色の汚い鱗屑が蛎殻のように付着しているように見えます。この角化型の皮疹は頭頚部にも出現し、自覚症状は不定で掻痒を欠く場合もあります。

診断

診断は虫体、卵、糞などを鏡検して確定します。また、ダーモスコピーも虫体を褐色点として捉えることも出来るので有用です。実際の臨床現場では、鏡検やダーモスコピーをしてもなかなか虫体などを見つけることが出来ず、治療が遅れてしまうこともありますので、常に本症の疑いを忘れないことが肝要です。

治療

内服薬と外用薬の治療法があり、両者を併用することもあります。何れの治療でも、ダニが死滅する際に掻痒が一時的に悪化したり、発疹が増悪する場合がありますが、ダニの死による宿主側のアレルギー反応と考えられています。

1)イベルメクチン(ストロメクトールR)
イベルメクチンは、無脊椎動物の神経・筋細胞に存在するグルタミン酸作動性Cl-チャンネルに選択的かつ高い親和性を持って結合します。これにより、Cl-に対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極が生じ、その結果、寄生虫が麻痺を起こして死に至る。同時に、神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)によって活性化される他のリガンド作動性Cl-チャンネルとも弱いながらも相互作用するものと考えられています。
体重15kg以下の幼小児、妊婦、肝障害患者を除いたヒトに使用し、授乳婦に投薬する場合は授乳を中断させます。
空腹時に経口投与し、通常疥癬では1-2回投与します。2回以上投薬する場合の間隔はヒゼンダニの生活環から考えると1週間が適切と考えられます。高齢者では2回投与でも治癒率は75%前後のため、治療後の注意深い経過観察が必要です。また、虫卵には効果なく、爪疥癬にも効果はありません。
イベルメクチン自体の副作用は、掻痒の増強、頭痛、食欲不振、無力症、関節痛、筋肉痛、発熱、好酸球増加、皮疹などが一時的に出現することがあるが、軽微です。

2)安息香酸ベンジル
12.5-35%のローションあるいはアルコール溶液として使用されます。頚部より下の全身に塗布し、24時間後に入浴して洗い落とし、翌日もう一度行います。虫卵には効果が無いので5-7日後にもう一度行います。

3)クロタミトン
10%クロタミトンとして、市販薬としても使用されています。頚部より下の全身に塗布し、24時間後に入浴して洗い落とす。これを連日10-14回行います。妊婦以外の成人や小児への使用が認められています。

4)γ-BHC
1%γ-BHC白色ワセリン軟膏として用います。頚部より下の全身に塗布し、6時間後に入浴して洗い落とす。1週間後に再度同じ処置を行います。口から入らないように厳重に注意する。乳幼児、妊婦、授乳婦には使用しません。

5)チアントール軟膏
有機硫黄剤で刺激性や毒性が少ないので、乳児や妊婦にも使用できます。頚部より下の全身に塗布し、24時間後に入浴して洗い落とし、連日5回行う。これを必要に応じて繰り返します。

6)ペルメトリン
5%ペルメトリンクリームを個人輸入して使用します。頚部より下の全身に塗布し、8-14時間後に入浴して洗い落とす。症状に応じて1週間後に再度繰り返します。比較的高率に接触皮膚炎を生じる可能性があるので注意が必要です。生後2ヶ月以上の乳幼児や小児にも使用でき、妊婦、授乳婦への投与も可能です。

治療後1-2週間間隔で2回連続してヒゼンダニが検出できず、疥癬トンネルが新生しない場合を治癒とします。実際には長期間残存する掻痒や結節あるいは治癒後に発生する小水疱を認めることがあるため、未治癒あるいは再燃としがちですが、残存する掻痒や結節に対しては止痒剤の投与やストロイド外用を行い、注意深く経過観察することも重要です。また、高齢者では3-4ヵ月後に再燃する例も多いので、治癒判定をしても定期的チェックが欠かせません。

注意事項
集団感染(家族、同棲者、介護や看護や医療関係者など)することが多いので、個々人の治療は勿論重要ですが、集団全体を丸ごと治療しなければならないこともあります。

執筆:2010.1

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