コクシジオイデス症

コクシジオイデス症(coccidioidomycosis)

本症はCoccidioides immitisあるいはC. posadasiiを原因とする真菌症で、アメリカ合衆国南西部 (カリフォルニア州~アリゾナ州~ニューメキシコ州など)、メキシコ西部、アルゼンチンのパンパ地域、ベネズエラのファルコン州などの半乾燥地域の風土病で、渓谷熱(valley fever)、砂漠リューマチ(desert rheumatism)あるいは砂漠熱(desert fever)とも呼ばれています。

病因

C. immitisは乾燥時には休眠状態で過ごし、雨が降ると長い菌糸に発育して分断し、その分節型分生子が強風や土木工事などで空中に舞い上がり、これら分生子を吸入することにより肺に感染を生じます。従って、本菌を吸入しやすい農夫、工事現場の作業者、考古学者などに生じやすいです。肺内に吸入された分節型分生子は膨化し、 球状体に成長しその中に多数の内生胞子が充満し、 成熟後壁の一部が破れ、 内生胞子は組織内に放出されて球状体となり、 以後約5日間隔で同じサイクルを繰り返して体内で増殖します。潜伏期は7~30日です。
本症の病原性は強く、健常人でも感染して全身へ播種すると時に死に至る(アメリカ合衆国では致死率0.07%)こともあるため、本邦では4 類感染症全数把握疾患に指定された唯一の真菌症です。
米国の流行地域では5.3-42.6人/10万人の頻度で発症していると推論されており、毎年約25000人の新規患者が治療されています。
本邦では流行地域への海外渡航歴を有する患者が大部分を占める「輸入感染症」として報告されることが多いですが、輸入された綿花に付着した原因菌を吸入したことにより感染したと考えられる症例もあります。

症状

肺への経気道感染初期はほとんど無症状ですが、その後約30-40%において、軽い感冒症状から肺炎様症状を呈します。症状が進行すると、胸痛、関節痛、結節性紅斑や多形紅斑(皮膚過敏反応と考えられています)などが生じることがあります。さらに肺感染が慢性化すると血痰・喀血などを呈し、血行性に全身へ播種して、寝汗、安静時呼吸困難、発熱、体重減少を呈します。
本症による肺感染のうち約5%が結節を生じ、癌や結核などとの鑑別が必要になることもあります。また、この結節の半数程度は薄い壁を有する空洞(コクシジオイデス腫coccidioidoma )が形成され、喀血、気胸を呈することもあります。
稀に皮膚の刺傷あるいは外傷などから直接感染し、疣贅状肉芽腫や肉芽様結節などを形成し、引き続き膿瘍や瘻孔や慢性潰瘍を発症することもあります。特に顔面に皮膚症状が出現した場合は、髄膜炎になる可能性が高いので注意が必要です。また、全身への血行性播種の一症状として、皮膚に同様の症状が出現する事もあります。
骨や関節への播種は約1/3に認められます。骨髄炎、関節炎は1か所のみの病変が多いですが、数か所の病変が生じることもあります。脊椎骨への播種により、骨髄炎による脊髄神経圧迫や髄膜炎を発症する危険性もあります。腱鞘への播種も時に認めます。
この他にも、肝、腎、脾、副腎、腸腰筋、心、甲状腺、前立腺、リンパ節、消化管、眼などにも播種することがあります。
全身へ播種した本症の約50%に、髄膜炎を生じて死に至ることもあるので、頑固で重度の頭痛、嘔気・嘔吐、霧視、羞明、項部硬直などの症状があるときは、精査が必要です。さらに進行すると、頭蓋底、脳実質や脊髄にも病変が波及します。

診断

1.培養

検体から、C.immitis の分離同定を行います。本菌は菌糸状発育しているシャーレの蓋を不用意に開けただけで、分生子が空中に舞い上がり室内を汚染するので、隔離された安全キャビネット内で行う必要があります。本菌の同定には(1)通常使用されている真菌および細菌用培地での、37 ℃における旺盛な発育、(2)1%の割合でブドウ糖を添加したブレインハートインフュージョン斜面寒天培地上での分節型分生子の形成、(3)特定の研究機関に依頼して特殊培養あるいは動物実験による球状体の確認を行います。

2.病理組織学的診断

組織内でC. immitis は、内生胞子を内蔵した球状体、および球状体から放出された内生胞子、各種発達段階にある球状体として観察されます。PAS、HEおよびGMS染色が推奨されています。病理学的特徴は肉芽腫性炎症と化膿性炎症が混在しますが、どちらが主になるかは病型および菌の寄生形態に左右されます。

3.血清学的診断

コクシジオイデス症における血清あるいは髄液の抗体も種々の方法(沈降抗体、補体結合反応、ラテックス凝集反応)で検出できます。
皮内テスト用の免疫反応用抗原(コクシジオイジン(coccidioidin)およびスフェルリン(Spherulin)を使用して、遅延型皮膚反応の検出が行われていましたが、感度と特異性が低いため、最近ではあまり使用されなくなってきました。

4.PCR によるC. immitis 遺伝子の検出

MBP-1 遺伝子(コクシジオイデス属)やAg2/PRA抗原遺伝子やSOW-gp82抗原遺伝子(C posadasii)を使用して、検体(血液、髄液、組織標本)からPCRによる本症の診断が可能になっています。飛散や感染の危険性の高い本菌の培養の危険性を鑑みると、PCRによる本症の同定法の方が、安全で比較的早期に診断できる有力な検査方法と考えられます。

治療

大半の本症感染者は、免疫能が充分あれば無症候のまま治癒することが多く、対症療法で治癒します。しかし、下記のような場合には本症の治療対象になります。

1)1か月以上続く発熱 2)10%以上の体重減少 3)3週間以上の激しい寝汗 4)片肺半分以上あるいは両側肺への浸潤 5)著明な肺門リンパ節腫脹 6)抗コクシジオイド補体結合反応 (IgG):16倍以上 7)仕事不能 8)2か月以上続く症状

また、本症が播種性になる危険性がある下記のような場合にも治療がされるべきです。

1)小児期の初発感染 2)妊娠後期あるいは分娩直後の初発感染 3)免疫抑制(HIV感染症、臓器移植、ステロイド高用量投与、免疫抑制剤内服など) 4)慢性疾患(糖尿病、心肺疾患など) 5)高濃度の接種原に暴露 6)本症に罹患しやすい人種(フィリピン人、黒人、ヒスパニック人) 7)55歳以上

現在、アゾール系の抗真菌剤(ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾールなど)と、古くから使用されているアムフォテリシンB が依然として唯一の確実な治療薬です。アゾール系の抗真菌剤は催奇形性があるため妊娠および授乳女性には使用できません。アムフォテリシンBの抗真菌作用は優れていますが、副作用(腎・肝障害、骨髄毒性)が強く、使用に当たっては十分な注意が必要です。最近では、ポサコナゾール、ボリコナゾール、カスポファンギンなどが試用されることもあります。
治療期間は臨床経過にもよりますが、6-12ヶ月以上必要になることが多いです。免疫能低下や髄膜炎症状を呈した患者は生涯治療が必要になります。
本症による肺感染後に生じた空洞は、症状が無く小さなものであれば内科的治療で自然消退することもありますが、内科的治療に反応せずに喀血、気胸を呈するほど大きくなってくる空洞は外科的切除の適応になることもあります。
骨・関節への播種は、内科的治療が優先しますが、時に慢性骨髄炎に対する腐骨除去や周囲組織のデブリードメンをしたり、関節内の膿瘍、貯留液のドレナージのために外科治療することもあります。
髄膜炎に対しては、フフコナゾールが脳脊髄液を高濃度に移行するため、中等度までの髄膜炎に対して頻用されます。投薬効果があっても、治療を中止すると再燃率が高いので、生涯内服することになります。髄腔内にアムフォテリシンBを注入することもあります。

注意:

本症における国内感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)

届出基準

1)患者(確定例)

医師は、本症の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見からコクシジオイデス症が疑われ、かつ、下記の表に掲げる検査方法により、コクシジオイデス症患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。

2)無症状病原体保有者

医師は、診察した者が本症の臨床的特徴を呈していないが、下表の左欄に掲げる検査方法により、コクシジオイデス症の無症状病原体保有者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。 この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。

3)感染症死亡者の死体

医師は、本症の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、コクシジオイデス症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、コクシジオイデス症により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。 この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。

4)感染症死亡疑い者の死体

医師は、本症の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、コクシジオイデス症により死亡したと疑われる場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

検査方法検査材料
分離・同定による病原体の検出喀痰、気管支洗浄液、肺又は皮膚の病理組織
鏡検による病原体の検出
免疫拡散法による抗体の検出血清、髄液

執筆:2013.10

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