抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群(Anti-phospholipid antibody syndrome; APS)


抗カルジオリピン抗体(aCL)、ループス抗凝固因子(LAC)、ワッセルマン反応(STS)偽陽性などの抗リン脂質抗体(aPL)を有し、臨床的に動・静脈の血栓症、血小板減少症、習慣流産・死産・子宮内胎児死亡などの慢性再発性血栓症を伴う病態を、抗リン脂質抗体症候群(APS)と呼びます。
全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に併発して認められる続発性APSのことが多いですが、基礎疾患の無い原発性APSも存在します。また、短期間に多臓器梗塞を同時にみる予後不良な病態はcatastrophic APSと呼ばれています。原因は末だ不明である。
続発性APSの基礎疾患としては特にSLEに陽性率が高く(81%)、その他の疾患や病態では、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、反復性血栓性静脈炎、心筋梗塞を含む冠動脈疾患、高安病、臓器梗塞、脳神経障害、習慣流産・死産、などに認められます。膠原病や自己免疫疾患以外にも、悪性腫瘍や感染症(梅毒、AlDS、肝炎、伝染性単核症など)、薬剤(クロルプロマジン、プロカインアミド、ヒドララジンなど)、血液疾患などでも本症を見ることが知られています。HLAクラス IIとの関連では、SLEにおいてDR7、 DR4、DR9(DRB1 0901)、DQ7など、原発性においてはDR53、DR5、DR52などが報告されています。
本邦における患者数は続発性APSが5,000人、原発性も同程度の5,000人で合わせて10,000人はいると推定されます。発症平均年齢は約40歳前後、原発性APSにおける男女比は1:4、続発性APSでは1:9であり、いずれも女性に多いとされます。

抗リン脂質抗体(aPL)の特性

aPLは多様性を示し、特定の抗原認識部位に反応する特異性の高いものから陰性荷電を有する幅広い酸性リン脂質に反応するものまで含まれます。更に、抗体を有していても無症候性の症例も存在し、すべてが病因的抗体であるかどうか不明な点も多いです。
(1) 抗カルジオリピン抗体(aCL)
aCLにはβ2-glycoprotein 1(β2‐GP1)依存性の抗体(タイプA) と非依存性の抗体(タイプB)が存在します。前者はリン脂質依存性血液凝固を抑制するが、後者は抑制しません。両者はELlSA法で測定されます。SLEを始めとする自己免疫疾患ではタイプAが多く認められるが、感染症ではタイプBが認められます。認められるaCLの免疫グロブリンクラスはIgG、IgM、IgAであるが、臨床症状と相関するのは多くはIgGです。
(2) ループス抗凝固因子(LAC)
LACは主にIgGに属する自己抗体で、凝固系のカスケードの中で第X因子、第V因子、Ca、リン脂質からなるいわゆるprothrombin activator complexに作用し、活性化部分トランボプラスチン時間(APTT)の延長をもたらすが、生体内では血栓症を引き起こすことが知られています。LACの測定は、APTT又はカオリン凝固條ヤのmixing test、希釈ラッセル蛇毒時間、血小板中和試験、hexagonal testなどで行われます。aCLとLACは必ずしも同一患者血清中に両者が検出されるわけではなく、一般にLAC陽性患者の50~60%はaCLを有するとされます
(3)ワッセルマン反応(STS)
ワッセルマン反応は、抗原としてトレポネーマを用いる方法と、 CL、ホスファチジルコリン、コレステロールの組成を用いる方法がありますが、STS偽陽性の血清は、後者を抗原とした場合に陽性を示し、前者では陰性を示す。β2-GP1依存性のaCL測定系でaCLを測定すると、むしろ抗体価は減少して、自己免疫性疾患でみられるβ2‐GP1依存性aCLと反応性を異にする。しかし、LACと有意の正の相関を示し、APSの臨床病態をみることも多いです。
上記以外の抗リン脂質抗体としては、抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体、抗フォスファチジルセリン(CL)抗体(抗プロトロンビン抗体)、抗アネキシンⅤ抗体などが知られています。

機序

aPLはAPTTの延長をもたらすが、臨床的には凝固亢進し、血栓症 をきたします。その機序は不明であるがいくつかの仮説が出されています。それらは、リン脂質依存性凝固反応を抑制的に制御しているβ2‐GP1を阻害する、プロテインCの活性化を阻害する、血管内皮細胞上のトロンボモジュリンやヘパラン硫酸を阻害ないし障害する、凝固抑制に働く血管内皮細胞からのプロスタサイクリン産生を抑制する、血管内皮細胞からのvon Willebrand因子やプラスミノゲンアクティベータインヒビターの産生放出を増加させる、などであります。

臨床症状

  1. 血栓症
    <静脈系>
    血栓性静脈炎、網状皮斑、下腿潰瘍、網膜静脈血栓症、肺梗塞・塞栓症、血栓性肺高血圧症、Budd-Chiari症候群、肝腫大など。
    <動脈系>
    皮膚潰瘍、四肢壊疸、網膜動脈血栓症、一過性脳虚血発作、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、疣贅性心内膜炎、弁膜機能不全、腎梗塞、腎微小血栓、肝梗塞、腸梗塞、無菌性骨壊死など。
  2. 習慣流産、自然流産、子宮内胎児死亡
  3. 血小板減少症
  4. その他
  5. 自己免疫性溶血性貧血、Evans症候群、頭痛、舞踏病、血管炎様皮疹、アジソン病、虚血性視神経症など

尚、aPLは、動静脈血栓症、自然流産・習慣流産・子宮内胎児死亡、血小板減少症などと相関します。また、クームス抗体陽性をみる自己免疫性溶血性貧血やEvans症候群をみることもあります。これらは、SLEや自己免疫疾患に限らず幅広い疾患にまたがって認められます。急速に多発性の臓器梗塞をきたすcatastrophic APSでは、強度の腎障害、脳血管障害、ARDS様の呼吸障害、心筋梗塞、DlCなどの重篤な症状をみます。 また、抗リン脂質抗体症候群による習慣流産は、胎盤の血管に血栓が起きることによる胎盤梗塞により、胎児に血液が供給されなくなるのが原因と考えられています。

治療

続発性のAPSでは、原疾患に対する治療とともに抗凝固療法を行います。原発性の場合には抗凝固療法が主体となります。抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラントも含む)のみが陽性である場合には、治療を行うかどうかは一定の見解がまだありません。 抗凝固療法は、抗血小板剤(アスピリン少量、塩酸チクロピジン、ジピリダモール、シロスタゾール、PG製剤など)、抗凝固剤(ヘパリン、ワルファリンなど)、線維素溶解剤(ウロキナーゼなど)などを含み、病態に応じ選択されます。ステロイド剤と免疫抑制剤は、基礎疾患にSLEなどの自己免疫疾患がある場合や、catastrophic APSなどに併用されます。これらの免疫抑制療法はaPLの抗体価を低下させますが、ステロイド剤の多量投与は易血栓性をみるため注意が必要です。その他、病態に応じ血漿交換療法やr-グロブリン療法が併用されることもあります。
APSによる不育症・流産予防の治療としては、低用量アスピリン療法(LDA)、ヘパリン療法、両者の併用療法、免疫グロブリン静注が知られている。十分なエビデンスは2008年現在存在しないがヘパリン・アスピリン併用療法が一般的です。尚、これら血栓症の治療は分娩後も病勢に応じて継続します。
予後は、侵される臓器とその臨床病態によりますが、多臓器梗塞をみるcatastrophic APSは予後不良です。また、SLEに本症を合併している患者は、そうでない患者よりも予後が悪いとされます。

*本症は特定疾患の一つではありますが、本症のみでは公費の対象になりません。

執筆:2010.12

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