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von Hippel-Lindau病

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

本症(フォンヒッペル・リンドウ病、VHL)は常染色体優性遺伝疾患で、第3染色体にあるVHL遺伝子(3p26-p25)の変異により生じます。VHLの頻度は36,000出生あたり1名程度と稀です。
病変は、脳・脊髄・網膜の血管芽腫、腎嚢胞や腎癌、褐色細胞腫、内耳内リンパ嚢胞腺腫などを生じます。その重症度は家系ごとに,さらには家系内で同じ変異を有していても患者ごとに差があります。

臨床症状

1)血管芽腫
中枢神経系の血管芽腫はVHLにおける特徴的な病変であり、おおよそ80%が脳に20%が脊髄に発生します。脳では大部分はテント下、特に小脳半球に発生します。同時にあるいは時期を異にした腫瘍の多発はしばしば認められます。脊髄の血管芽腫は通常硬膜内に発生し、頸胸髄領域に多いが時に全領域が冒されます。稀に末梢神経にも血管芽腫が発生することがあります。
臨床症状は腫瘍発生部位に依存し、テント下腫瘍(特に小脳)では頭痛・嘔吐・歩行障害や失調が主症状となります。テント上腫瘍の場合の症状は腫瘍発生部位により異なります。血管芽腫は一般には増殖や緩除ですが、時には急速な増大によって水頭症やうっ血乳頭を引き起こすこともあります。脊髄血管芽腫は通常疼痛を伴いますが、脊髄の圧迫により感覚運動障害も生じることがあります。臨床症状を引き起こすような血管芽腫の大部分は脊髄空洞症を伴っています。
また、血管芽腫の一部は無症状でMRIによってのみ発見されることがあります。中枢神経血管芽腫を胎児超音波検査で同定しえたという報告もあります。
網膜血管芽腫は約70%の患者に発症し、発症時平均年齢は25歳です。このため、初発症状となることも多いです。腫瘍は網膜の耳側部に発生することが多く、流入および流出血管は視神経乳頭から(視神経乳頭へ)達します。時には後極(1%)や視神経乳頭(8%)に発生することもあります。これらは無症状で眼科的検査によって発見されることもありますが、多くは網膜剥離や出血による視野欠損や視力障害を生じて発症に気づきます。病変数が年齢とともに増加する傾向はありませんが、年齢と共に失明の可能性は増大します。網膜血管芽腫がなくても網膜機能で異常を認めることもあります。
2)腎病変
VHLでは多発性腎嚢胞はよく見られます。腎癌、特に淡明細胞癌が嚢胞内や周囲実質から発生します。腎癌の発生は患者の約40%に達し、これがVHLにおける最大の死因となります。
3)褐色細胞腫
褐色細胞腫は持続型あるいは発作型高血圧の原因となりますが、時には全く無症状で腹部画像検査の際に偶然発見されることもあります。褐色細胞腫は通常片側あるいは両側の副腎に発生しますが、時には腹部・胸部・頭頚部の交感神経系に沿ってあらゆる部位から発生することもあります。腫瘍は通常2cm以上の大きさとなります。褐色細胞腫は通常良性ですが、悪性化例も報告されています。
4)内リンパ嚢胞腫瘍
内リンパ嚢胞と内リンパ管は膜迷路が外胚葉性に進展したものです。嚢胞腫瘍は種々の程度の難聴を生じます。頻度は少ないが眩暈や耳鳴を訴えることもあります。腫瘍が大きい場合は他の脳神経も影響を受けます。内リンパ嚢胞腫瘍はVHL患者の約10%に認められ、これによる片側性あるいは両側性の難聴が初発症状となる場合もあります。悪性例は稀です。
5)膵病変
多くの膵病変は単純性嚢胞ですが、しばしば多発します。病変がかなり進展しないと内分泌・外分泌機能障害は生じません。時に膵頭部嚢胞が胆汁うっ滞をひきおこします。稀に膵の神経内分泌腫瘍が発生することもあります。これは通常ホルモン産生はなく増殖もゆっくりですが、特に腫瘍径が3 cmを超えるものでは、より悪性度の高い例も報告されています。
6)精巣上体腫瘍
精巣上体の嚢胞腺腫は男性VHL病患者に比較的よく見られます。通常臨床症状はないが両側に発生した場合は男性不妊の原因となります。女性でこれに対応する病変としては卵巣索の乳頭嚢胞腺腫がありますが、これはより頻度が低いです。

臨床診断の確定

VHL病の臨床診断は以下の場合に確定します。
●散発例の場合は,以下のいずれかにあてはまる場合
1)2つ以上の網膜もしくは中枢神経の血管芽腫の存在
2)網膜あるいは中枢神経の血管芽腫に,腎嚢胞,膵嚢胞,腎癌,褐色細胞腫,さらに低頻度ではあるが内リンパ嚢胞腺腫,精巣上体嚢胞腺腫,膵の神経内分泌腫瘍,のうち少なくとも1病変を合併
●家族歴がある場合は,以下の1病変以上を発症している場合
1)網膜血管腫,中枢神経血管芽腫,褐色細胞腫,多発性膵嚢胞,精巣上体嚢胞腺腫,多発性腎嚢胞,60歳

検査

病変の検出にはCTやMRIが用いられます。超音波検査は精巣上体や腎のスクリーニング法として有用です。尿中カテコラミン代謝産物(VMA,メタネフリン,総カテコラミン)排泄量増加、MIBGシンチグラフィー、18F-DOPA全身PETなどで、褐色細胞腫の検出を行います。
VHL遺伝子はVHL病の原因となる唯一の遺伝子です。分子遺伝学的検査で変異は患者のほぼ100%に検出されます。患者の約80%は罹患した親からの遺伝で、約20%は新生突然変異と考えられています。親のモザイクも報告されていますが,その頻度は明らかではありません。
褐色細胞腫と腎癌の発生しやすさに基づいて、VHLは4病型に分類されている。
VHL type 1
このタイプは褐色細胞腫の発症リスクが低いです。VHL蛋白の折りたたみが障害されると考えられるようなVHL遺伝子のトランケーション変異(欠失、フレームシフト、ナンセンス変異、スプライス変異)を認めます。
VHL type 2
このタイプは褐色細胞腫の発症リスクが高いです。VHL type 2の患者はほぼ全例がミスセンス変異を有しています。一部のミスセンス変異は特徴的な臨床像と関連しているようです。
VHL type 2はさらに以下の3亜型に分類される。
・2A 腎細胞癌のリスクは低い
・2B 腎細胞癌のリスクが高い
・2C 褐色細胞腫のみを発症する
最近、VHL遺伝子の完全欠失では腎細胞癌のリスクが低いことを報告されています。この病型の患者では腎細胞癌と褐色細胞腫のリスクがいずれも低いです。

治療

1)中枢神経系血管芽腫に対する治療
臨床症状の有無にかかわらず早期の手術を提唱する考えから、無症状の腫瘍に対しては毎年の画像診断で経過をみるべきとする考えもあります。多くの中枢神経系病変は最終的には治療が必要となります。
手術前の動脈塞栓術は特に大きな脊髄腫瘍に対して適応となります。
ガンマナイフ治療は手術が困難な部位に生じた小病変に対して有用です。この手法は固形腫瘍を縮小させる効果はありますが、嚢胞性病変を予防することはおそらくできません。手術による死亡率はおおよそ10%であり、脳幹部腫瘍ではより高くなります。
脊髄病変は完全に切除することが推奨されますが、脊髄腫瘍切除に伴う重大な合併症として対麻痺があります。
2)網膜病変の治療(視神経病変は除く)
網膜血管芽腫
たとえ自然消退が認められるとはいえ、多くの眼科医は失明を防ぐために網膜病変に対する早期治療が適切と考えています。ただし視神経病変はこの限りではありません。
網膜血管芽腫の治療法としては、ジアテルミー、キセノン、レーザー、凍結凝固法などがあり、それぞれの治療効果は病変の部位・大きさ・数に依存します。治療から数年経過して再発することも知られていますが、これは同じ部位に生じた新たな病変の可能性もあります。また、標準的な治療が病変の進行を制御できない例に対して、外照射放射線療法の有用性が示されています。
3)腎細胞癌に対する治療(可能であればネフロン温存もしくは腎部分切除)
腎癌に対しては早期の手術が最良の治療法です。腫瘍の大きさと部位によっては予後に影響を与えることなく腎の一部を残存させる部分切除術も可能となります。
小病変や外科手術のリスクが高い例に対して凍結凝固法が用いられる機会が増えています。両側腎摘出術が必要となった患者に対しては、腎移植も有効です。この場合、ドナーとなりうる、かつVHL保因者でない血縁者に対する評価を行うことが必要です。
4)褐色細胞腫に対する治療
褐色細胞腫は手術によって摘除します。腹腔鏡手術も有効です。患者にたとえ高血圧がなくても手術前7-10日はα交感神経遮断薬による治療を行うのが適切です。
5)内耳内リンパ嚢胞腺腫に対する治療
内リンパ嚢胞腫瘍の増殖は遅いので、手術を考慮する際は合併症として聴力を失う可能性について議論しておく必要があります。小腫瘍に対する早期治療は聴力と前庭機能を保護することが示されています。
6)その他の病変に対する治療
精巣上体,卵巣索ののう胞腺腫は通常治療を必要としません。

二次症状の予防

聴覚喪失、失明、神経症状などの二次的障害を予防し最小限にとどめるために、定期検査による病変の早期発見と早期治療が重要です。
定期検査:VHL病と診断されている、もしくはVHL遺伝子変異が確認されている者、あるいはVHL病に罹患するリスクのある患者親族:
  • 毎年の眼科診察を5歳から開始
  • 褐色細胞腫の罹患率が高い家族では毎年の血圧測定と尿中カテコラミン代謝物の定量を5歳から開始
  • 毎年の腹部超音波検査を16歳から開始し、必要に応じてCTやMRIを追加
  • 難聴が疑われる場合には聴力検査:もし聴力低下が確認された場合は側頭骨のT1強調MRI検査
  • リスクのある親族の検査:もし家系内のVHL遺伝子変異が同定されていれば、未発症親族に対する遺伝子検査が可能です。変異を有していない(非保因者)ことが確認できれば、費用のかかる定期検査は不要になります。
  • 遺伝子レベルでの鑑別疾患

    VHL 2C型
    家族性褐色細胞腫あるいは非家族性両側性褐色細胞腫の患者の一部は、眼や中枢神経系の症状を呈さないが、VHL遺伝子変異を有している(VHL type 2C)。散発性かつ片側性の褐色細胞腫でVHL遺伝子変異を認めることは、患者が20歳未満でない限り稀です。
    Chuvash多血症
    Chuvash多血症はロシアのボルガ川中流域に見られる常染色体劣性遺伝性疾患で、高エリスロポエチン血症を呈し、大多数の症例はVHL遺伝子の598C>T(Arg200Trp)変異を有します。ボルガ川流域以外の地域で先天性多血症を呈する患者の一部は、複合へテロとして598C>T変異を有していることが報告されています。Chuvash変異は多彩な人種で同定されています。VHL遺伝子変異は先天性多血症の最大17%の原因になっていると推測されます。ハプロタイプ解析では598C>T変異は二つの人種で別個に発生しています。人種のいかんにかかわらず、先天性多血症患者に対してはVHL遺伝子解析が考慮されるべきです。
    血栓症や出血は多くの患者に発生するものの、Chuvash変異を有する患者のヘテロ接合親族にVHL関連腫瘍が発生したという報告はありません。
    体細胞変異
    VHL遺伝子の体細胞変異は散発性VHL関連腫瘍(腎淡明細胞癌,褐色細胞腫など)で認められます。
    遺伝性平滑筋腫症および腎癌(hereditary leiomyomatosis and renal cell cancer: HLRCC)
    本症は皮膚の平滑筋腫症が特徴です。罹患女性は通常若年で子宮平滑筋腫症(類線維腫)を発症する。一部の家系では腎腫瘍が高率に発生します。大部分の腎腫瘍は"2型"腎乳頭癌に分類され、明瞭な乳頭構造と特徴的な病理像を呈します。他のタイプの腎腫瘍としては,腺管乳頭様腎癌から集合管腎細胞癌まで多彩です。フマル酸ヒドラターゼをコードするFH遺伝子の変異に起因する常染色体優性遺伝性疾患です。
    Birt-Hogg-Dube(BHD)症候群
    Birt-Hogg-Dube(BHD)症候群は特徴的な皮膚所見(線維毛包腫、毛盤腫、線維性疣贅症)を呈します。肺嚢胞や気胸の既往、種々の腎腫瘍が患者や家族で高頻度に見られます。最も高頻度に見られる腫瘍は好酸性顆粒細胞腫と嫌色素性細胞の混合した、いわゆる好酸性顆粒細胞性混合腫瘍(67%)であり、他に嫌色素性腎細胞癌(23%)、腎好酸性顆粒細胞腫(3%)があります。腎好酸性顆粒細胞腫のみが良性です。これまでに報告されたより低頻度の腎腫瘍には淡明細胞癌や腎乳頭癌があります。FLCN(BHD)遺伝子の変異が原因であり、常染色体優性遺伝性です。

    執筆:2011.4