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梅毒

梅毒 (syphilis)

●先天梅毒(胎盤感染)では第1期を欠く
●検査で病原菌検出および血清梅毒反応。治療はペニシリン系抗生物質

本症は、スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ (Treponema pallidum) の感染によって生じます。
感染経路は、性的行為または類似行為による接触感染と、胎児が本症に罹患した母体から胎盤を経由して感染する子宮内感染に大別されます。前者を後天梅毒、後者を先天梅毒と呼びます。稀に医療従事者の感染や輸血感染、産道感染および授乳による母子感染などがあります。全ての感染者が梅毒を発症するわけではなく、潜伏感染で終始する症例も少なからず存在します。
本症は、皮膚や粘膜に病変が生じる顕症梅毒(syphilis resens)と、不顕性の潜伏梅毒(syphilis latens)とを交互に繰り返しながら進行します。
後天梅毒の病期は第1期から第4期までに分けられ、第2期までを早期梅毒、第3期以降を晩期梅毒と呼びます。早期梅毒は感染力が強いですが晩期梅毒では低いです。

1)第1期
感染後約3週間の第1潜伏期を経て,菌の侵入局所に1~2 cmまでの軟骨様の硬結〔初期硬結(initial sclerosis)が出現します。これがやがて潰瘍化して硬性下疳(hard chancre)となります。硬性下疳の表面には多量のトレポネーマが存在し、鏡検にて診断可能です。男性では亀頭・冠状溝・包皮などに、女性では大小陰唇・子宮頚部などに好発します。
初期硬結や硬性下疳の発症から数日遅れて所属リンパ節の硬い腫脹が認められ、これを無痛性横痃(bubo indolenta)と呼びます。いずれの症状も痛みなどの自覚症状を欠き、気付かれないことも多いです。これらの皮疹は3週間程度で自然消退し、第2期疹を生じるまで2~6週間の第2潜伏期に入ります。
2) 第2期
この時期(感染後3か月~3年)は、第1期に所属リンパ節で増殖したトレポネーマが血行性に全身に播種されて、自覚症状を伴わない多彩な皮膚・粘膜の発疹(第2期疹)を生じてきます。この第2期疹は2~3週のうちに消退して、多発性リンパ節腫脹以外に症状をみない潜伏梅毒の状態に戻りますが、その後2-3年にわたって数か月毎に皮疹を繰り返すようになります。皮疹は早期では全身に対称性に生じますが、次第に限局して非対称性となります。尚、この時期は梅毒抗体価が最高値となり、以後は漸減してきます。
第2期疹の多彩な症状を簡潔に列挙します。
1.梅毒性ばら疹(roseola syphilitica)
微熱や全身倦怠感と共に、5mm~2 cmまでの淡紅色斑が全身に多発してきますが、数日で消退します。特に掌蹠で顕著ですが、自覚症状はありません。 2.丘疹性梅毒疹(syphilis papulosa)
ばら疹の2~3週後に、体幹を中心にして5 mm~1 cm程度の鮮紅色から赤褐色の丘疹が多発しますが、自覚症状はありません。 3.梅毒性乾癬(psoriasis syphilitica)
掌蹠に限局して、赤褐色の浸潤性のある乾癬に類似した皮疹を形成し、診断しやすい特徴的な発疹です。 4.扁平コンジローム(condylomata lata)
肛囲・外陰部・液窩・乳房下部などの間擦部好発する、淡紅色から灰白色の湿潤あるいは浸軟性の疣状あるいは扁平隆起性丘疹で、トレポネーマが多量に存在し感染性が高いです。 5.膿疱性梅毒
膿疱の多発であり、丘疹性梅毒から移行することもあります。全身状態の悪い患者や免疫低下の場合に生じやすく、このような皮疹をみた場合はHIVのスクリーニングを行う必要があります。 6.梅毒性白斑
完全に色素の抜けきれていない境界不明瞭な白斑を呈することもあります。 7.梅毒性爪囲炎・爪炎
爪に白斑や不透明化が生じ、爪郭の肥厚も起こります。 8.梅毒性脱毛(alopecia syphilitica)
感染6か月頃から、直径5 mm~2 cmの不完全脱毛斑が多発し、徐々に全頭に拡大します。円形脱毛症との鑑別が重要になります。 9.梅毒性アンギーナ
口腔に生じた扁桃炎を伴う感染性の高い粘膜病変です。
3)第3期
この時期(感染後3~10年まで)は、トレポネーマの検出は困難になります。第3期早期には、数cm大までの赤銅色の結節〔結節性梅毒疹(syphilis nodosa)〕が顔面に多発し、数か月で瘢痕治癒します。また、皮下結節が少数生じて軟化して破れて潰瘍を形成する〔ゴム腫(gumma)〕こともあります。抗生物質による治療が進んだ現在では、これらの皮疹はほとんどみられません。
4)第4期
この時期(感染後10年以上)は、皮疹はみられなくなり、心血管梅毒や神経梅毒などの症状が出現し、変性梅毒(metasyphilis)とも呼ばれます。梅毒性大動脈炎、大動脈瘤,脊髄癆,進行麻痺などが起こることがありますが、近年はほとんどみられません。

先天梅毒 (congenital syphilis)

胎盤を通じて母親から胎児にトレポネーマが感染して生じます。子宮内での感染が妊娠早期の場合では死産あるいは流産となりやすいので、先天梅毒は通常胎盤が完成する妊娠4か月以降の感染で生じることが多いです。全身性かつ血行性に感染するため、第2期症状から始まります。先天梅毒を発症した場合、生後6か月以内に第2期症状が現れます(早期先天梅毒)。その後、学童期以降に第3期症状が出現します(晩期先天梅毒)。
早期先天梅毒では特徴的に老人様顔貌、口囲の放射状瘢痕〔Parrot(パロー)凹溝(Parrot's furrow)〕、梅毒性鼻炎、骨軟骨炎の疼痛による仮性麻痺〔Parrot の仮性麻痺(Parrot's pseudoparalysis)〕がみられます。晩期先天梅毒ではHutchinson(ハッチンソン)3徴候(Hutchinson's triad:永久歯の奇形、実質性角膜炎、内耳神経障害)が顕著となります。 現在では先天梅毒は稀です。

検査

トレポネーマの検出と梅毒血清反応を行うことで確定できます。
トレポネーマは人工培養できないため、初期硬結、硬性下疳、扁平コンジローム、口腔粘膜疹、水疱、膿疱内容などから標本を採取して検出します。パーカーインク法で青黒く染まり、暗視野法では輝いて、墨汁法では透明に抜けてみえます。
梅毒血清反応は、潜伏梅毒の発見、スクリーニングや病勢判定に有用です。但し、梅毒血清反応は感染後4-6週間は反応陰性期であるので、注意が必要です。
血清反応は,脂質抗原(カルジオリピン)を抗原として用いる方法(serologic test for syphilis;STS)と、梅毒トレポネーマを抗原に用いる方法(Treponema pallidumhemagglutination test;TPHA ならびにfluorescent treponemal antibodyabsorption test;FTA-ABS)とに大別されます。
STS 法では感染初期から陽性化し、抗体価が病勢をよく反映するため、スクリーニング検査や治療効果の指標として用いられます。TPHAとFTA-ABSは特異性が高いため、スクリーニング検査で陽性となった者への確定診断に用います。この2種の試験を組み合わせることで,梅毒罹患の有無や病勢などをほぼ判断できます。
STSTPHA考えられる病態対策
非梅毒
梅毒に感染した直後
初期梅毒治癒後
数週間おいて再検査
治療後の梅毒
※梅毒感染後長い年月を経たもの
※非特異反応
FTA-ABSによる確認
梅毒感染の初期
他の疾患によるBFP
一定期間後の再検査とFTA-ABS による確認
自己免疫性疾患などの検査
梅毒(再感染を含む)
梅毒治癒後
※BFPと非特異反応
治療開始
FTA-ABSによる確認

※を付したものはごく稀である。BFP : biologicalfalse positive(生物学的偽陽性)

一方、神経学的症状を認める例、治療の失敗例、非ペニシリン治療例、大動脈炎やゴム腫、虹彩炎などの活動性梅毒を示す症状のある例、HIV 陽性例などでは、神経梅毒の検索のため腰椎穿刺の適応となります。

治療

梅毒トレポネーマに殺菌的に働き、耐性株は出現していないため、現在でも第一選択はペニシリン系抗生物質の内服です。投与期間は第1期では2-4週間、第2期では4-8週間、第3期以降は8-12週間ですが、晩期梅毒では早期梅毒に準じた治療を半年おきに反復するが難治です。神経梅毒に対しては、ペニシリン内服や筋注では髄液への移行が不良のため、水性ペニシリンGの大量静注が推奨されています。
ペニシリン過敏症のある場合は、マクロライドやテトラサイクリン系の薬剤を使用します。早期梅毒に抗生物質投与すると、トレポネーマが急速に大量に死滅するために中毒反応が生じ、投薬後数時間のうちに40℃前後の発熱と皮疹の増悪(Jarisch-Herxheimer 反応)が見られることがあるので、注意が必要です。これに対してはNSAIDsで対処します。また、HIV感染合併例では治療への反応が典型的ではないこともあり、神経梅毒に準じて高容量かつ長期の治療が必要となることもあります。梅毒トレポネーマの再感染も稀ではありません。

合併症・感染予防

梅毒感染者では、HIV等のSTD合併の危険が高いので、これらの検査も必要に応じて行います。
特に、HIVと梅毒の重複感染例では、HIV感染により免疫能が低下しているため、第2期疹の症状が重篤となりやすい。また、通常の治療により治癒させることが困難となり、HIV 感染者における神経梅毒の新たな蔓延の可能性が問題となっています。さらに、HIV 感染者では、梅毒の臨床的所見、血清学的所見、治療への反応が典型的でないこともあり、注意が必要です。
セックスパートナーの感染の有無を確認することも重要です。

執筆:2011.5