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フェニルケトン尿症

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

フェニルケトン尿症(Phenylketonuria; PKU)

フェニルケトン尿症(PKU)はフェニルアラニン水酸化酵素 (Phenylalanine hydroxylase; PAH) 活性の低下もしくは欠損により、フェニルアラニンの代謝が阻害されて高フェニルアラニン血症(Hyperphenylalaninemia; HPA)とその副産物の生成が生じる疾患です。出生後早期に治療されない場合、非可逆性の精神遅滞などの中枢神経障害と赤毛、色白などのメラニン色素欠乏を引き起こします。PKU は常染色体劣性遺伝性疾患(PAH遺伝子は12q22- q24.1に位置します)で、欧米1/10000人、中国で1/16000 人、日本で1/80000 人と地域により発生頻度に大きな差がありますが、先天性アミノ酸代謝異常症の中では比較的頻度の高い疾患です。新生児期では身体的徴候を現さないため、世界各国で早期発見のために新生児マススクリーニングが行われています。血中フェニルアラニン値が20mg/dl 以上を示す古典型PKU から、PAH の部分欠損である軽症型 PKU や軽症型HPA 等種々の重症度が知られており、遺伝的な多様性が推測されています。

代謝経路の詳細

1) フェニルアラニンヒドロキシラーゼ反応
必須アミノ酸であるフェニルアラニンからチロシンを生合成するこの反応は、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)とその補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(Tetrahydrobiopterin;BH4)の活性が必要です。また、このBH4はフェニルアラニンをチロシンにすると、ジヒドロビオプテリン(Dihydrobiopterin; BH2)となります。このBH2は次のフェニルアラニンヒドロキシラーゼ反応を起こすためには還元されBH4とならなければなりません。そのための酵素として、ジヒドロビオプテリンレダクターゼの存在も必要です。 上記のような酵素・補酵素・その他の蛋白質の欠損があると、程度の異なる多様なPKUが生じてきます。即ち、フェニルケトン尿症は下記のタイプに分けることができます。

a)フェニルアラニンヒドロキシラーゼの欠損 b)フェニルアラニンヒドロキシラーゼ輸送体の欠損 c)テトラヒドロビオプテリンシンターゼの欠損 d)テトラヒドロビオプテリンシンターゼ輸送体の欠損 e)ジヒドロビオプテリンレダクターゼ(dihydropteridine reductase)の欠損 このうち、aは古典的フェニルケトン尿症と呼ばれますが、b?eはビオプテリン代謝異常症と呼ばれています。

2)副産物の生成
フェニルアラニンはチロシンとなって消費されないと蓄積し、通常活性の無いフェニルアラニントランスアミナーゼ活性が高まり、フェニルピルビン酸となります。フェニルピルビン酸はさらに代謝されてフェニル乳酸やフェニル酢酸、フェニルグルタミン酸となります。これらが血液脳関門の発達の悪い乳幼児期に蓄積すると、アミノ酸の細胞内へ輸送が阻害されるために、特に大脳の神経細胞が正常に成長できなくなります。これが致命的となり、治療が行われないと精神遅滞を引き起こします。

診断

フェニルアラニン誘導体を大量に含む尿となるので、ネズミの尿のような臭いがします。 現在の日本では、血液を用いた新生児マススクリーニングで血中フェニルアラニンの高値が認められた場合、精密検査となり、BH4負荷テストによってビオプテリン代謝異常症と鑑別します。BH4負荷テストは、BH4を大量に与えたときに血中のフェニルアラニンが一定量以上減少するかどうかをみるもので、古典的フェニルケトン尿症では減少がみられないが、ビオプテリン代謝異常症では減少します。

治療

フェニルアラニンの血中濃度が低いまま維持されれば、精神遅滞などは起こさずに正常に発育して健常者と同様な生活を送ることができます。
1)古典的フェニルケトン尿症
現在、根治する方法はありません。しかし、原因が判明しているので低フェニルアラニン食を血中濃度と照らし合わせながら続ける食事制限療法が行われます。具体的には、栄養士の指導下にフェニルアラニンを含まない特殊な栄養ミルクと、フェニルアラニンのもととなる蛋白質を含む一般の食事とを、厳密な計算のもと過不足なく摂取します(フェニルアラニンは必須アミノ酸であるため、一般の食事蛋白をゼロにはせず、コントロール下であれば、母乳も摂取可能です)。子供の成長や活動性に合わせて、食事は栄養状態に障害を与えないように,フェニルアラニンもしくはチロシンの欠乏が生じないように、注意深く血中のフェニルアラニンとチロシン濃度を定期的にモニターする必要があります。治療は生後できるだけ早期に開始し、特に、脳が発達中の乳児期から小児期は厳密にコントロールする。さらに、フェニルアラニン制限食を中止した成人では、注意時間の減少、情報処理能力の低下、運動反応時間の低下が報告されています。また,脳波検査での波形の変化、筋緊張と振戦の増加、骨塩量の減少、精神障害が報告されているため、最近では、脳の発達が終わった後も、生涯治療を継続することが望ましいとされています。
2)ビオプテリン代謝異常症
これも古典的フェニルケトン尿症と同じく対症療法しかなく、BH4補充を行って血中のフェニルアラニンを低下維持させます。軽症もしくは中等症PKUの大多数はBH4に反応する可能性がありますが、古典的PKUでは多くて10%までしか反応がないとされています。BH4を補充し続けることで、BH4は生体内でのフェニルアラニン水酸化酵素活性と,酵素活性を反映する酸化反応を増強し,血漿フェニルアラニン濃度を低下させ,フェニルアラニン摂取許容量を改善します。

執筆:2011.7