分子標的治療薬による皮膚障害

本症は、分子標的治療薬によって生じる副反応で、従来の治療薬とは異なる多種多様な皮疹を生じます。
分子標的治療薬のうち、低分子薬(キナーゼ阻害薬など)は細胞内で、高分子薬(モノクロナール抗体化合物)は細胞外もしくは細胞膜の特定の分子を標的にして、その特定分子とシグナル伝達機構に直接的に作用します。そのため、当該分子を強く発現している正常皮膚とその付属器にも分子標的治療薬による障害が生じますが、その発症機序は完全には解明されていません。
高頻度に出現する下記のような皮疹は、腫瘍に対する奏功率に正相関することが報告されているため、出来る限り分子標的治療薬の継続ができるようにしていくことが重要と考えられています。

高頻度に認められる皮膚障害

1)痤瘡様皮疹

本症による痤瘡様皮疹は、本来は細菌感染が主病態ではないと考えられていますが、二次的な感染を引き起こす可能性も示唆されています。
軽症の場合は、クリンダマイシンなどの抗生剤軟膏と保湿剤で対応して改善します。しかし、炎症が強い場合は、顔面でも強力なステロイド外用が推奨されています。
1-2週間の外用で症状が改善しないときは、抗炎症効果のあるテトラサイクリン系の内服薬の併用を行います。

2)脂漏性皮膚炎

中等度のステロイド外用薬やビタミンB群製剤の内服が効果的です。抗真菌薬の外用は無効なことが多いです。

3)乾皮症(皮脂欠乏性皮膚炎)

十分な保湿剤の外用を行い、必要があればステロイド外用も併用します。

4)爪囲炎、陥入爪

軽症の場合は、洗浄とガーゼ保護、テーピングなどで改善することもありますが、再発を繰り返しやすいです。炎症が強ければ、ステロイド外用、液体窒素療法、部分抜爪も行われることがあります。二次感染が併発した場合、抗生剤の内服や外用処置が必要になります。

5)手足症候群 (hand-foot skin reaction; HFSR)

マルチキナーゼ阻害薬によるHFSRは、角化傾向が強いため、投与開始時から予防的に尿素軟膏やサリチル酸ワセリンなどの保湿剤で対処します。また、日常生活での物理的刺激や熱刺激を避け、清潔を保つことも必要です。それでも症状が悪化する場合は、ステロイド外用追加、あるいはマルチキナーゼ阻害薬の減量をして様子を見ることも必要になることがあります。重症になった場合は投薬中止して、ステロイド内服を考慮します。ときに大量のビタミンB6内服が有効なことがあります。

*最近では、分子標的治療薬による皮膚障害を未然に防ぐために、投与開始前後からステロイド外用、保湿剤とテトラサイクリン内服併用で、重症の皮膚障害を起こすことが有意に減少するとの報告もあります。

高頻度に皮膚障害を生じる代表的な分子標的治療薬

種類 一般名 商品名 標的分子 高頻度に見られる皮膚障害


ゲフィチニブ イレッサ FGFR-TK 痤瘡様皮疹、乾燥、爪囲炎
エルロチニブ塩酸塩 タルセバ FGFR-TK 痤瘡様皮疹、爪囲炎
ラバチニブトシル酸水和物 タイケルブ FGFR-TK, HER2 体幹の痤瘡様皮疹、乾燥、爪囲炎、手足症候群
スニチニブリンゴ酸塩 スーテント PDGFR, VEGFR, KIT, Flt3 手足症候群
ソラフェニブトシル酸塩 ネクサバール PDGFR, VEGFR, KIT, Raf 手足症候群
イマチニブメシル酸塩 グリベック Bcr-Abl, KIT, RDGFR 痤瘡様皮疹、顔面浮腫、苔癬、多形滲出性紅斑など


セツキシマブ アービタックス EGFR (mAbマウスキメラ型) 痤瘡様皮疹、乾燥、爪囲炎
パニツムバブ ベクティビックス EGFR (mAbヒト型) 痤瘡様皮疹、乾燥、爪囲炎

一方で、頻度は低いものの、分子標的治療薬中止を余儀なくされるスティーブンス・ジョンソン症候群 (SJS)や中毒性表皮壊死症 (TEN)、重症多形滲出性紅斑などの重症薬疹も報告されており、注意が必要です。これらの反応は、分子標的治療薬に対するアレルギー機序から生じると考えられています。
この他にも、ループス様症候群(皮膚炎、腎炎など)や血管炎が生じることもあり、分子標的治療薬投与後に惹起される免疫異常が関与しているのではないかと考えられています。

重症薬疹の報告のある分子標的治療薬(2002-2011)

原因薬剤 病型と報告数 発症までの期間 転帰・皮膚症状改善後の再開の有無
イマチニブメシル酸塩
(グリベック)
SJS 7例 5-14日 3例は少量から開始して再燃無し
ソラフェニブトシル酸塩
(ネクサバール)
重症多形滲出性紅斑 20例
SJS 2例 
8-15日 2例で再開し、皮疹再燃して中止
ボルテゾミブ
(ベルケイド)
TEN 1例 約240日後 発症6日後に死亡
アダリムマブ
(ヒュミラ)
SJS 2例 2週間 インフリキシマブ変更にて再燃無し
リツキシマブ
(リツキサン)
SJS 1例 3か月 再開せず
セツキシマブ
(アービタックス)
パニツムバブ
(ベクティビックス)
SJS 1例
同一症例が、両薬剤で同症発症
9週間 再開せず

執筆:2012.10

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