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肥満細胞症

肥満細胞症 (mastocytosis;類義語:色素性蕁麻疹)

本症は肥満細胞が皮膚または他の組織および器官へ増殖ならびに浸潤する比較的稀な疾患群で、その症状は肥満細胞からの様々なメディエーターの放出に起因し、物理的接触、運動、アルコール、虫刺創、NSAIDs、オピオイド、造影剤、または食物、全身麻酔などにより、その放出が誘発されます。また、諸臓器への著明な浸潤は臓器機能不全を生じます。

分類

WHOによる本症の分類では
1)皮膚肥満細胞症(色素性蕁麻疹、斑丘疹状肥満細胞症、瀰漫性皮膚性肥満細胞症、肥満細胞腫)
2)全身性肥満細胞症    *下記診断基準を参照
3)腫瘍性血球異常を伴う全身性肥満細胞症
4)侵襲性全身性肥満細胞症
5)肥満細胞白血病
6)肥満細胞肉腫
7)皮膚以外の肥満細胞腫
があります。

診断基準(*全身性肥満細胞症では、大項目と小項目1個、あるいは3小項目を満たす必要があります。)

大項目

1)周密な肥満細胞の浸潤を伴う多発病巣が骨髄あるいは皮膚以外の組織に認められること

小項目

1)骨髄や浸潤臓器の肥満細胞のうち、25%以上に形態学的異形成を認める
2)肥満細胞の通常マーカー(CD117)陽性に加えて、CD2あるいはCD25マーカーが陽性
3)血清トリプターゼ値が20 ng/mL以上
4)c-kit点突然変異(コドン816)が、血中、骨髄、浸潤臓器に認められること

本稿では皮膚肥満細胞症と関連する全身性肥満細胞症について概説します。

原因

原因不明ですが、肥満細胞のC-KIT遺伝子のD816V変異などが関与している可能性があります。また、可溶性肥満細胞増殖因子の増加、アポトーシス阻害蛋白であるBCL-2の発現増加、IL-6の増加なども関連していると考えられています。
全身症状が出現する理由は、肥満細胞由来のメディエーター(ヒスタミン、プロスタグランジン、へパリン、中性プロテアーゼ、酸性ヒドロラーゼなど)が放出されるためと考えられます。

1)皮膚肥満細胞症

症状

典型的には色素性蕁麻疹型として乳児から小児に多く発症(約75%)し、顔面や体幹に掻痒を伴う膨疹を繰り返すうちに、肥満細胞の集塊である、1cm大までの円~紡錘形の褐色斑ないし小結節が多発します。皮疹部に機械的刺激を加えると、肥満細胞から種々のメディエーターが放出されて容易に膨疹を形成(Darier徴候)し、入浴時や全身皮膚をタオルで拭くなどの刺激で、容易に全身皮膚に膨疹を伴う紅潮が出現します。尚、限局性病変を伴わない皮膚浸潤である瀰漫性皮膚肥満細胞症や、稀に数cm大の孤立性結節を呈する肥満細胞腫は、比較的稀ですが、前者は全身性肥満細胞症状が頻繁に出現します。
時に思春期以降(30―49歳)に発症する成人型もありますが、一般に皮疹や全身症状は軽く、Darier徴候も顕著ではありません。小児型は数年から思春期頃には自然軽快することが多いため、皮疹が少数で重篤な発作が無ければ経過観察しますが、成人型は治癒傾向を示さず、難治で、全身性肥満細胞症や悪性変化することもしばしばあります。
過量のメディエーター放出により全身症状が出現することがあり、頭痛、眩暈、悪心・嘔吐、食欲不振、下痢・腹痛、体重減少、関節痛、骨痛、骨折、精神神経的変化(神経過敏、抑うつ、情緒不安定、認知障害など)、血圧低下、失神、心悸亢進、鼻漏、喘鳴、呼吸困難、アナフィラキシー様ショックなどを生じることがあります。

検査所見

確定診断するには、皮膚生検して病理検索します。
皮膚肥満細胞症では血算や血清トリプターゼ値は正常範囲です。全身性肥満細胞症に移行すると異常値になります(詳細は全身肥満細胞症の検査所見参照)。 全身性肥満細胞症の有無をチェックする為に、放射線学的精査(CTや骨シンチなど)や腹部消化管検査(内視鏡やエコー検査など)も行うべきです。全身性肥満細胞症の併発が疑われるときは骨髄生検も必要になります。

病理所見

トルイジンブルーあるいはギムザ染色で、真皮上層に大小不同の多角形で異型性を示す肥満細胞が異常増殖しています。また、また、色素斑部の有棘層~基底層でメラニン顆粒の増加を認めます。
増殖形態から、島嶼状の増殖巣が多数存在するUnna型と、血管周囲に少数分布するRona型に分類され、後者は成人型に多く、細胞浸潤に乏しいためDarier徴候がはっきりしないことも多いです。

治療

皮膚肥満細胞症では、大多数の患者の予後は良好のため、保存的治療を行います。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬およびH2受容体拮抗薬で、紅潮と搔痒、消化器症状は減少します。また、クロモリン(インタールTM)は肥満細胞の脱顆粒を抑制することで、紅潮と搔痒、消化器症状、骨痛、頭痛、認知機能障害を軽減します。
病変が限局している場合は、ステロイドの局所外用や局所注射などで軽快することもあります。ステロイド全身投与は重症の皮膚症状、腹水、消化管吸収不良等がある場合に用いられることがあります。
ソラレンと紫外線の併用(PUVA)療法も有効ですが、200回以上の治療では皮膚癌になりうる可能性も考慮しなければならないため、治療反応の悪い患者に限定して使用されています。
クラドリビン、イマチニブ、マスチニブ、抗免疫グロブリンE抗体、ピメクロリムスなども試用され始めています。

2)全身性肥満細胞症

肥満細胞由来の骨髄増殖性腫瘍が多巣性病変を形成し、しばしば皮膚、リンパ節、消化器、肝臓および脾臓などにも浸潤する、極めて稀な疾患です。症状の重篤度は、病変の皮膚浸潤とは関係なく、骨髄内の肥満細胞の増加数と分布に関連すると考えられています。

症状

貧血、凝固障害、腹痛、下痢、嘔気&嘔吐、胃食道逆流症(GERD)、皮膚掻痒と紅潮、アナフィラキシー様反応(昆虫刺され、全身麻酔、造影剤、薬剤、食物などによる)、肝脾腫、リンパ節腫大、蕁麻疹、骨溶解、病的骨折などを認めます。肝臓および脾臓への病巣浸潤は、臓器肥大を生じ、門脈圧亢進とその結果生じる腹水の原因となりえます。
成人(平均55歳)になって診断されることが多く、多くは緩徐な経過をとり臓器不全を伴わず予後がよい進行の遅い肥満細胞症ですが、他の血液疾患(骨髄増殖性疾患、骨髄異形成、非リンパ性白血病、悪性リンパ腫、慢性好中球減少症)と関連する肥満細胞症、骨髄中の肥満細胞が20%以上で,皮膚病変はみられず,多臓器不全を伴い予後が悪い肥満細胞白血病(mast cell leukemia)、急速進行性のリンパ節症に好酸球増多を伴う肥満細胞症があります。

検査所見

貧血、血小板減少や増加、白血球増多、時に好酸球増多、好塩基球増多、単球増加を伴うこともあります。過度の骨髄芽球を末血に認める場合は予後が悪いです。
血清トリプターゼ値が20 ng/mL(全トリプターゼ/βトリプターゼが20以上)であることが診断基準の小項目にありますが、最近の調査では血清トリプターゼ値が11.5 ng/mL以上の患者が50%以上との報告もあります。尚、低血圧症状を伴うアナフィラキキシー症状を呈する場合は、血清βトリプターゼ高値になります。
病変の浸潤や進展を確認するために、腹部症状(消化性潰瘍や蠕動運動障害など)を伴う患者では、消化管検査(バリウムや内視鏡)、肝脾腫精査(エコー、CTなど)を行い、骨病変が疑われるときは、骨シンチやCTも行います。
確定診断するためには。骨髄生検は必須で、皮膚症状があれば皮膚生検も薦められます。肝肥大があれば肝生検も考慮します。
最終的診断は、上述した診断基準により確定します。

病理所見

トルイジンブルーあるいはギムザ染色などで、骨髄や浸潤臓器内に巣状肥満細胞病巣が目立ち、また、好酸球増多を認めることが多いです。本症の症状が進行すると、骨髄では骨形成低下と骨髄線維化が目立ちます。

治療

アナフィラキシー症状対策、皮膚掻痒&紅潮対策、消化管吸収不良対策を行いますが、肥満細胞の数を減らせる治療はないため、現在のところ根治的治療はありません。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬およびH2受容体拮抗薬でアナフィラキシー症状を抑制するために使用されますが、急性アナフィラキシーが発症した場合はエピネフリンが使用されます。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬は皮膚掻痒&紅潮に対して効果を発揮し、また、抗ロイコトリエン拮抗薬も使用されることがあります。
H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬は胃液過剰分泌抑制と胃潰瘍に有効です。
ステロイド内服は消化管吸収不良、腹水、骨痛、アナフィラキシーを制御するために使用されることがあります。
クロモリン(インタールTM)は肥満細胞の脱顆粒を抑制することで、骨痛や頭痛を軽減し、皮膚症状を改善します。
インターフェロンα2bは骨質減少している場合に骨病変の退縮を促す目的で試用されることがあります。
ソラレン+UVA治療(PUVA)が皮膚症状に有効なことがあります。
下痢症状に抗コリン薬なども使用されます。
化学療法(インターフェロンα、クラドリビン、サリドマイド、イマチニブなど)も試用されていますが、効果は証明されていません。

日常の注意点

本症の患者は、身体的刺激(情動性ストレス、極高低温、過労、細菌毒素、虫刺されによる毒物注入など)を避け、肥満細胞からメディエーターを放出を誘発する食事(サリチル酸、ザリガニ、ロブスター、アルコール、辛い食べ物、熱い飲み物、チーズなど)を避けるよう注意が必要です。
突然の症状出現に対処する為に、エピネフリン自己注射が出来るよう訓練していることが好ましいです。

投薬の注意

肥満細胞内のメディエーター放出を促進する下記の薬剤を控える。
アスピリン、NSAIDs、コデイン、モルヒネ、アヘン製剤、アルコール、チアミン、キニン、ガラミン、デカメトニウム、プロカイン、造影剤、デキストラン、ポリミキシンB、スコポラミン、D-ツボクラリンなど。
尚、全身麻酔が必要な本症候群患者では問題が生じやすい為、血液内科専門医と麻酔科専門医が共同して治療することが望ましいです。

執筆:2013.11