Hansen病

Hansen病 (leprosy)

本症は、らい菌 (Mycobacterium leprae) による細菌感染症で、主に末梢神経障害と皮膚症状を呈する疾患です。知覚障害を伴う皮疹、末梢神経の肥厚と神経障害などがある場合は、本症を疑います。一般に、皮疹よりも神経症状が先行する傾向にあります。
らい菌は、霊長類とココノオビアルマジロのみに感染し、特にアルマジロは正常体温が30~35度と低体温であり、らい菌に対し極めて高い感受性があるとされています。
感染源は、主に本菌を大量に排出する未治療のハンセン病患者(特に多菌型、LL型)からの飛沫感染ですが、傷からの接触感染もありえます。しかし、感染源が不明なことも多いです。
本菌の病原性はきわめて弱く、感染しても大部分は自然免疫で駆逐され、発症するのはわずかです。また、感染時期は小児が多く、大人から大人への感染発病は極めて稀です。
感染してから発症するまでの潜伏期間は3-5年と長いですが、10年に及ぶ例や現在の日本では数十年に及ぶ例もあります。

疫学

本症は全世界中にみられるが分布は一様でなく、また度々流行も生じます。貧困層に発症しやすいとの報告や、本症患者では亜鉛、カルシウム、マグネシウムが正常の人に比べて著しく低値だったとの報告もありますが、その原因は明確ではありません。その大半はアジア、アフリカや南米などに集中しており、全世界で1200 万人の患者がいると推定されています。世界的には本症の新規患者数は減少しており、日本でも新規患者は10人前後で、その殆どが在日外国人です。

病型分類と症状

最近ではWHOによる簡便な病型分類法 [MB型(多菌型,multibacillary)、PB型(少菌型,paucilbacillary)]が用いられることが多いですが、1962年提唱された、らい菌に対する宿主の細胞性免疫の強弱に基づくRidley & Joplingの病型分類法 [L型(らい腫型、lepromatous type)、T型(類結核型、tuberculoid type)、B群(境界群、boderline group)、I群(未定型群、indeterminate group)に分け、さらにB群はL型に近いBL型(borderline lepromatous type)、T型に近いBT型(borderline tuberculoid type)、中間のBB型(mid-borderline type)に細分類している] は、現在でも使用されることが多いです。
1)WHOの病型分類法
MB型(多菌型):BI陽性・皮疹6個以上 (概ねL型、BL型、BB型及び一部のBT型に相当する) PB型(少菌型):BI陰性・皮疹5個以下 (概ねI群、T型及び大部分のBT型に相当する) *BI (bacterial index) : 皮膚を切開して組織の塗抹をスライドガラスに載せてZiehl-Neelsen染色を行って菌数を調べる検査
2)Ridley & Joplingの分類
L型(らい腫型、lepromatous type):宿主の細胞性免疫が低下しているため、菌が全身で増殖します。末梢神経・眼・リンパ節などに、菌を多数含んだ組織球が集合した"らい腫"を形成します。また、皮膚では結節・丘疹が左右対称に多発し、皮膚の病巣から菌が検出されます。進行すると視力障害、神経痛、顔面や四肢の変形〔獅子面(facies leontina)〕などをきたします。病理組織検査では、らい菌が多数検出できますがリンパ球の浸潤は少ないです。
T型(類結核型、tuberculoid type):宿主の細胞性免疫は保持されているため、強い組織傷害を起こすサイトカインが出現して症状を呈しますが、比較的軽症です。 境界鮮明な隆起性の斑状紅斑や丘疹、脱色素斑が限局して非対称性に単発あるいは少数生じます。早期から皮疹に一致した知覚障害、発汗の低下や脱毛を認めます。神経肥厚も限局性に生じます。皮膚から菌は検出されず、病理組織検査でも、らい菌は検出されませんが末梢神経周囲にリンパ球の強い浸潤像を認めます。
B 群(borderline group):L型とT 型の中間の病態で、種々の程度に細胞性免疫が低下しています。L 型やT 型の病変が混在した複雑な症状を呈し、どちらに近いかによって、BL 型(L 型に近い)、BB型(2 型の中間)、BT 型(T 型に近い)の3 型に分けられます。最近はこの群に属する患者が多いです。病理組織像も両者の特徴が共存しています。
I 群(indeterminate group):発病初期でまだ病型が定まっていない時期に相当します。境界不明瞭で平坦な淡紅色斑が2~3 個出現し、末梢神経障害はあっても軽微で、神経肥厚は認めません。生検でHansen 病特有の所見を認めません。

二次症状
本症では神経障害や皮膚症状が悪化して、二次的に多様な症状を引き起こします。
i)眼症状
顔面神経麻痺による兎眼、三叉神経麻痺による角膜知覚障害・角膜炎・失明、鼻粘膜障害による鼻涙管閉塞、結膜炎
ii)神経因性疼痛
様々な神経痛(だるい神経痛、電撃痛、知覚過敏など)が生じる。
iii)脱毛
L型では頭髪や眉毛なども脱毛し、治癒後も再生しない。
iv)筋萎縮・運動障害・変形
未治療のまま進行すると、神経麻痺による感覚低下で外傷を何度も繰り返して様々な変形を生じます。
顔面神経麻痺による外鼻変形や耳介変形を生じる。 尺骨神経麻痺による鷲手、正中神経麻痺による猿手、外傷や廃用症候群による四肢の筋萎縮・運動障害や手指の欠損なども生じる。また、骨萎縮も伴う。
咽頭運動障害による誤飲や嚥下障害を生じる。
v)その他の皮膚症状
末梢神経障害は自律神経にも障害を引き起こすため、発汗作用が障害されて乾皮症になります。また、皮膚防御力の低下や創傷治癒の遷延を生じます。 足底の感覚障害により、難治性皮膚潰瘍を生じ、その後に有棘細胞癌の母床となることがあります。

らい反応
らい反応は本症の治療過程において症状が急激に増悪する反応を指し、この急性反応はI型とII型らい反応に大別されます。
I型らい反応:BB・BT・T型の治療開始後に生じる反応で、IV型アレルギーとされています。境界反応 (borderline reaction) あるいはリバーサル反応 (reversal reaction) と呼ばれます。急に皮膚の発赤が増強したり腫れたりする症状や、末梢神経障害に急激な増悪反応を生じます。入院して、ステロイド大量内服を行います。
II型らい反応:L型・BL型で治療開始から約半年後に生じる急激な反応で、治療中に大量に菌が死滅し、それに対するIII型アレルギーと考えられています。この際に生じる皮疹をらい性結節性紅斑(Erythema nodosum leprosum)と呼び、皮膚に有痛性の結節を生じるのが特徴で、40度前後の発熱や関節痛を伴います。サリドマイドやステロイド療法で治療を行います。

確定診断

i)知覚障害に伴う皮疹
多菌型 (MB型) では検出率が低いので注意する。T型の皮疹に一致した神経障害の検出は非常に有用。
ii) 末梢神経の肥厚・運動障害
尺骨、橈骨、腓骨、大耳介神経などを触診で触れると肥厚が分かる。知覚障害だけでなく運動障害も伴うことも多いため、歩行や各種の運動の状態を調べることも重要である。
iii) 病理組織検査
発疹の一部の組織を採取し、標本にして顕微鏡でみる検査。Ridley & Joplingの分類に基づき病型分類される。
らい腫型(L型)では、らい菌が多数検出できるがリンパ球の浸潤は少ない。組織球性肉芽腫で組織球の泡沫状変化が特徴的である。
類結核型(T型)では、らい菌は検出されない。類上皮細胞肉芽腫が特徴的である。またリンパ球の強い浸潤像がみられ、リンパ球が末梢神経の周囲に入ることは、他の疾患ではみられないので有用な鑑別点になる。
iv) らい菌の検出
検出には皮膚スメア検査、病理組織から検出する方法、PCR(Polymerase Chain Reaction)から検出する方法の3点が挙げられる。遺伝子増幅法であるPCRを用いたらい菌の検出は、らい菌の持つ熱ショックタンパク質の内、他の抗酸菌と交差しない部位のDNA配列を検出するもので、培養のできないらい菌を迅速に検出する方法として重要である。

尚、らい菌特異的抗原の一つであるフェノール糖脂質 (PGL-1,phenolic glycolipid I)抗体を血液検査で測定すると診断の参考になります。L型で陽性であるが、T型では検出されません。

鑑別診断

サルコイドージス、全身性エリテマトーデス(SLE)、環状肉芽腫、皮膚結核、非結核性抗酸菌症、梅毒、皮膚真菌症、末梢神経障害を伴う疾患(糖尿病、脊髄空洞症など)、菌状息肉症などとの鑑別が重要です。

治療

らい菌に対する治療ならびに、本症により生ずる合併症と後遺症の予防が重要になります。
ジアフェニルスルホン(DDS)(レクチゾールR・プロトゲンR)、クロファジミン(CLF)(ランプレンR、B663)、リファンピシン(RFP)(リマクタンR・リファジンRなど)の3者を併用する多剤併用療法 (MDT,Multi-drug therapy) が治療の主体です。この多剤併用療法は、薬剤耐性菌を予防する意味もあります。尚、WHOでは菌数による病型分類を採用しており、MB(multibacillary, 多菌型)とPB(paucibacillary, 少菌型)の2種類に分けて投与量・治療期間を決定します(MBのほとんどはL型・B群、PBのほとんどはT型・I群に相当する)。WHOの基準ではMBで1年間、PBで6ヶ月間の治療を終了した時点で菌検査の有無を問わず完治とします。また、患者としても除外されます。 上記治療薬が使用できない症例などでは、オフロキサシン (OFLX)、クラリスロマイシン (CAM)、ミノサイクリン (MINO) などを併用することもあります。
尚、日本における保険適応薬はジアフェニルスルホン、クロファジミン、リファンピシン、オフロキサシンです。
日本でもWHOの基準を採用していますが、治療後の状態についても言及しており、MB型なら菌陰性化するまで、PB型なら活動病変が消失するまでは完治とせず、治療を継続することになります。
因みに、ハンセン病治療薬の1つであるリファンピシンで治療されている患者は、感染源にはならないとされています。

障害予防

ハンセン病に罹患すると、らい菌の生体免疫反応によっていろいろな障害を引き起こします。そのため、適切な治療を行い、できるかぎりの障害を予防することが重要です。ハンセン病罹患中に生じるらい反応の治療もこれにあたります。

合併症と後遺症の予防と治療

ハンセン病に起因する神経障害による後遺症に対して、2次的に悪化しようにすることが肝要であるため、早期発見・早期治療を行う必要があります。
治療にもかかわらず障害や変形が生じた場合には、形成外科的手術を用いて機能・整容的改善を行い、症状の軽減を図ります。
急性の神経炎に対しては、ステロイドの投与などの治療により回復する場合も多いです。手術療法として神経減圧術を行うこともあります。
知覚麻痺による熱傷や外傷は通常の治療法に準じますが、神経障害に起因する易感染性や瘢痕形成を生じるため、通常の場合より難治であることに注意すべきです。知覚麻痺から生じうる熱傷や外傷を予防するために、日常生活の改善や、外傷予防用の装具使用などを行い、本人自身にも十分な注意喚起を行うことが重要です。また、関節拘縮も必発するため、リハビリテーションを継続的に取り組むことも肝要です。
足底の難治性潰瘍発生の予防に関しては、足浴を行う施設が多いです。また、神経痛のあるハンセン病の場合は、暖まってその後冷える際に神経痛が増悪することに注意が必要です。

*ハンセン病に有効なワクチンは未だ開発されておらず、現時点ではハンセン病の発症を予防することは困難とされています。

執筆:2011.6

▲PageTop

ページトップに戻る