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フッ化水素酸による化学熱傷

当院で掲載している希少難治性疾患に関する説明は、患者さん並びにご家族の皆様に参考となる情報提供であり、その検査や治療は当院では行っておりません
また、紹介すべき病院に関しても適切な情報を持ち合わせておりません。
尚、当院では希少難治性疾患に対する医療相談は行っておりませんので、ご理解のほど宜しくお願いします。

品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック > フッ化水素酸による化学熱傷

フッ化水素酸による化学熱傷(hydrofluoric acid-induced chemical burn)

フッ化水素(hydrogen fluoride, HF)は水素とフッ素とからなる無機化合物で、無色の気体または液体で、その水溶液はフッ化水素酸 (hydrofluoric acid、HFA) と呼ばれる毒物です。ガラス、金属や石材のエッチング(食刻)を行う際に、珪素を溶解できる唯一の無機酸として使用されています。また、商業や家庭で、金属のさび、しみ、湯垢等の除去・洗浄剤の共通した成分として使用されています。工業的にも半導体産業、電子工学で広く使用され、フッ化物の製造原料、フッ素樹脂の中間原料としても使用されています。

症状

HFAは電離度が低く弱酸ですが、その速やかな透過性、浸透性及び高度の腐食性のために、皮膚・粘膜に接触すると深達性の局所障害を呈します。即ち、皮膚は肉眼的範囲よりかなり広範囲に障害され、深部組織~骨に至り、予想以上の皮膚壊死と深部組織損傷を生じることが多いです。
HFAは弱酸なので、刺激が少ないために皮膚に付着しても気付かないことも多く、低濃度のHFAでは症状が数時間を経過してようやく疼くような痛みで出現することもあります。

病態機序

HFAが正常皮膚に浸透すると、遊離水素イオンと遊離フッ素イオンに分離し、水素イオンは酸として多少の組織障害を引き起こす程度で済みます。一方、遊離フッ素イオンは組織障害性が強く、組織破壊の大半はこのイオンに起因します。フッ素イオンは、特にカルシウムやマグネシウムの2価陽イオンと結合して安定なフッ化塩となり、様々な細胞の酵素系を阻害して細胞障害あるいは細胞死を生じさせます。また、それ以外の不安定なフッ化塩は再びイオン化して、組織壊死が進行します。HFAが体表の数%以上の面積に浸透すると、血液中のカルシウムイオンがフッ化水素によって急速に消費されるために、血中カルシウム濃度が低下し、重篤な低カルシウム血症を引き起こして心室細動を起こし死亡することもあります。

治療

本症が生じた場合は、出来る限り早急に治療することが重要です。
患部を流水で十分洗浄後、10%グルコン酸カルシウムの局所注入(0.5ml/cm2)が重要で、3時間以内に治療開始すると効果を認めますが、それ以降の治療になるとその効果が急減します。また、グルコン酸カルシウム含有ゲルを作成して塗布する方法も考案されています。それでも疼痛が改善しない場合は、グルコン酸カルシウムを動脈内持続注入することも考慮します。
症状が進行して皮膚壊死になった場合は、病変およびその周囲の深部組織と骨組織の障害を確認して同時にデブリードメンして、植皮や再建術を行います。

執筆:2013.5