Wiskott-Aldrich症候群

本症(WAS)は、血小板減少、難治性湿疹、易感染性を3主徴とし、通常男児に発症するX染色体連鎖性劣性原発性免疫不全症です。その原因遺伝子はX染色体上(Xp11.22)に存在するWASP遺伝子変異です。変異はWASP遺伝子のどこにも生じ得るが、N末端の1-4エクソンに集中している点が特徴であり、その多くがミスセンス変異です。易感染性の程度はWASP蛋白の発現量が少ないほど強いため、下記のように分類されています。

重症度分類

クラス1(XLT)血小板減少のみ
クラス2(XLT)血小板減少+軽症一過性の湿疹±軽症感染症
クラス3(WAS)血小板減少+持続性の湿疹and/or反復性感染症
クラス4(WAS)血小板減少+持続性難治性湿疹+反復性重症感染症
クラス5(WAS)血小板減少+湿疹and/or反復性感染症+自己免疫疾患あるいは悪性腫瘍の合併

X連鎖性血小板減少症(X-linked thrombocytopenia; XLT)

臨床症状

1)血小板減少

ほぼ全例で見られ、出生直後から見られることが多く、初発症状の約8割を占めます。血便や皮下出血が多く、頭蓋内出血はITPより高頻度です。血小板のサイズは減少しており、平均血小板容積は3.8-5.0fl(正常7.1-10.5fl)です。

2)易感染性

易感染性の程度は症例により異なるのが特徴です。XLTを除き、古典的WASは乳幼児期から中耳炎、肺炎、副鼻腔炎、皮膚感染症、髄膜炎などを反復します。起炎菌としては肺炎球菌やブドウ球菌が多く、真菌感染ではカンジダ、アスペルギルスが、原虫ではカリニ肺炎が少数で見られます。ウイルス感染では、ヘルペス属ウイルス感染症(HSV、VZV、CMV、EBV)が多いのが特徴です。
T細胞の反応性は低下例が26%で、正常例は46%である。また、WASPの異常によりTh1細胞への分化を司る転写因子の発現が低下します。NK活性は半数で正常だが、低下例が多いとの報告もあります。
B細胞では免疫グロブリンは従来から、IgG正常、IgM低下、IgA上昇、IgE上昇とされるが、症例や年齢、感染の合併により異なってきます。
抗多糖類抗体、同種血球凝集素価などの特異抗体産生は低下し、補体価は正常とされるが、好中球および単球の遊走能は低下する例が多いです。

3)湿疹

湿疹はアトピー性湿疹様で、難治です。湿疹の原因についてはまだ推測の域を出ないが、皮膚の常在菌に反応するT細胞からのサイトカイン分泌異常が示唆されています。

4)自己免疫疾患

古典的WASの約40%に見られ、自己免疫性溶血性貧血、血管炎、腎炎(IgA腎症など)、関節炎、炎症性腸疾患の合併が報告されています。

5)悪性腫瘍の合併

ほとんどが悪性リンパ腫ですが、稀に脳腫瘍の報告もあります。EBV関連を含むB細胞性腫瘍が多いのが特徴的で、クラス3以上の古典的WASでの合併率は13%とされます。

診断

現在、フローサイトメトリーによる細胞内WASP蛋白検出が、末梢血単核球(リンパ球、単球、NK細胞)にて行う方法が確立しており、もっとも迅速であり、スクリーニングとして有用です。また、Western blot法によるWASP蛋白発現の検討も有用です。確定診断にはWASP遺伝子異常を同定することが必須です。

鑑別診断

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や他の先天性血小板減少症との鑑別が必要になることがあります。

治療

根治的治療としては造血幹細胞移植が行われますが、WASP蛋白発現を認めず、感染を繰り返す重症例では早期に移植を考慮すべきです。5歳以下の症例は約80%の移植後長期生存率であるが、5歳以上では様々な合併症により成功率が低くなります。しかし、重症度は様々あるため、最適な時期の造血幹細胞移植に関する治療指針は明確ではありません。最近は臍帯血移植や骨髄非破壊的前処置法による移植の成功例も報告されています。血小板減少に対する摘脾については、多くの症例で血小板増加が得られるが、経過とともに減少することもありますが、摘脾による感染症のリスクが増加することから適応は慎重に考慮する必要があり、推奨はされていません。
γグロブリン大量療法やステロイド剤は通常効果に乏しく、血小板輸血は、重大出血、手術時はやむを得ないが、血小板不応性に至る例もあります。重大出血の頻度はITPと比較し有意に高いと考えられています。
湿疹の治療に難渋しますが、一般的なアトピー性皮膚炎治療に準じた治療を行い、食物アレルギーが明らかであれば除去食を考慮します。
感染対策としては化膿菌、ヘルペス属ウイルス群、真菌が多いため、臨床経過に応じて、ST合剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤投与を考慮します。γグロブリンの定期的補充は、IgG<500mg/dlの症例や重症感染時には考慮します。
ヘルペス属ウイルス感染症のリスクが高いため、EBVとCMVのモニタリングも重要です。

予後

本邦における免疫不全合併例の平均長期生存年齢は11歳で、感染症、出血、悪性腫瘍が主な死因であり、10歳までの死因のほとんどは感染症と出血です。
易感染性を伴わないXLTでの予後は古典的WASよりも良好ですが、経過とともに出血、IgA腎症からの腎不全、自己免疫疾患や悪性腫瘍の合併率が増加します。

執筆:2013.8

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