ウイルス性疣贅(尋常性疣贅、扁平疣贅、尖圭コンジローマなど)

"イボ"は皮膚から盛り上がっている小さなできもの一般を指す俗語です。そのため、"イボ"といっても多種類の異なる皮膚疾患が含まれています。ウィルスが感染してできるイボ(ウィルス性疣贅)が最も一般的ですが、これ以外にもミズイボ(伝染性軟属腫)、中年イボ(スキンタッグ)、老人性イボ(脂漏性角化症)、ウオノメ(鶏眼)、タコ(胼胝)、良性および悪性皮膚腫瘍などもありますので、的確な診断と治療が必要になります。勝手な自己判断で取り返しのつかない結末にならないよう十分な注意が必要です。

皮膚科医が"イボ"と言う場合、通常はウイルス性疣贅を指しますので、以下、ウイルス性疣贅の概説をします。

原因

ウイルス性疣贅はヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus;HPV)が皮膚や粘膜(口や外陰部)に感染して生じます。このウイルスは正常の健康な皮膚や粘膜には感染できないと考えられていますが、ごく微小な傷などによって皮膚バリアに破綻が生じるとそこから侵入して、皮膚基底細胞に感染して増殖を繰り返して疣贅をつくると考えられています。実際、臨床的にも外傷を受けることの多い手足や外陰部に、あるいはアトピー性皮膚炎などで特に引掻くことの多い肘・膝窩などに疣贅ができ易いことは、皮膚科医であれば周知の事実です。

HPVはウイルスを構成するDNAの違いにより、現在のところ110種類以上の遺伝子型が確認されており、HPVの感染しやすい部位、臨床症状と病理組織像の特徴は、HPV遺伝子型とある程度相関することがわかってきています。通常の疣贅をつくるHPVはもちろん良性ですのでまず癌化することはありませんが、ある種の遺伝子型(普通の疣贅をつくるものとは異なります)が、尖圭コンジローマ(性感染症の一つ)や子宮頸癌や疣贅状表皮発育異常症に生じる皮膚癌などの原因になっていることも分かってきています。

HPVの遺伝子型の違いによって形状の異なる疣贅ができますが、日常診療で頻繁に遭遇する尋常性疣贅は主としてHPV2/27/57型の感染、扁平疣贅はHPV3/10/28/29/77/78/94型の感染、尖圭コンジローマはHPV6/11/44/55型などの感染によって生じます。

この他の非定型的な疣贅であるミルメシアはHPV1感染、色素性疣贅はHPV4/65/95型の感染、ブッチャー疣贅はHPV7型の感染、Ridged wartはHPV60型の感染、点状疣贅はHPV63型の感染、白色小型疣贅はHPV88 型の感染、ボーエン様丘疹症がHPV16型の感染で生じます。

上述のように、ウイルス性疣贅はHPVが感染してできる皮膚や粘膜の疾患なので、自分自身の他部位や他人へ「うつる」可能性を秘めています。しかし、通常の皮膚や粘膜には解剖学的な構造や免疫機能などの様々のバリア機構があるため、ウイルスや細菌などによる感染が成立しにくく、容易には感染しないと考えられます。

但し、皮膚や粘膜に小さい傷ができてバリア機構が破綻してウイルスの侵入を許したり、免疫力が何らかの理由で低下すると、疣贅ができ易かったり、ひどくなったり、治りにくくなることが知られています。従って、免疫力低下を引き起こすような疾患や、免疫抑制療法の治療時やアトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が低下している時には、感染の危険性や増悪する注意が必要です。また、特別な場合ではなくても、手あれや髭剃りなどに伴う眼に見えないくらいの小さな傷からも侵入しますので要注意です。また、尖圭コンジローマやボーエン様丘疹症は性行為によってうつる性感染症であることも忘れないで下さい。特にボーエン様丘疹症は、子宮癌とだいたい同じ型のHPVが感染して生じますので、この点からも性パートナーを含めた感染予防や治療が必要です。


子宮頸癌予防ワクチン

子宮頸癌を引き起こすハイリスクHPVは、16/18/31/33/35/39/45/51/52/56/58/59/68/73/82型 の15種類が現在分類されています。特にHPV16 /18型は、世界的に子宮頸癌から見つかるタイプの約70%を占めており、さらに25%は他の発癌性HPVに起因するものと考えられています。発癌性HPVは約8割の女性が一生のうちに1度は感染するありふれたウイルスですが、ほとんどの場合は感染してもウイルスが自然に排除されるため、子宮頸癌を発症するのは感染した女性の1%未満と考えられています。しかし、自然感染しても十分に抗体価が上昇しないため、同じ型のウイルスに何度も感染する発癌性HPVの持続感染は、子宮頸部細胞の異形成、子宮頸部前癌病変を経て子宮頸癌に至ることがあります。そこで発癌性HPVに対して高い抗体価を維持するワクチン開発が進められ、Cervarix(HPV16 /18型;2009年日本で承認済)と尖圭コンジローマにも有効なGardasil(HPV6/11/16 /18型;2009年日本でも承認申請中)が世界の多数の国々で承認されています。


治療

ウイルス性疣贅の治療は未だ特効薬や特効的治療法は無く、多くの場合1回の治療で治すことは難しく再発もしやすいので、疣贅の治療には時間と労力がかかります。疣贅の種類や発生部位などが患者さんごとに異なるので、各種治療法に良く反応する場合となかなか効果が出ない場合があります。だからといって放置していると疣贅が拡大してしまうので、治ることを信じて、神経質にならず、焦らず、定期的な治療を継続することが大切です。

尋常性疣贅の治療は液体窒素を用いた冷凍凝固療法(保険適応)、スピール膏貼付(保険適応)、ヨクイニンエキス内服(保険適応)、電気焼灼法(保険適応)、活性化ビタミンD3軟膏塗布、5-FU 軟膏、モノクロル酢酸や液状フェノールの外用、炭酸ガスレーザー療法、ブレオマイシン局所注射などがあります。これらの治療法の中から、最も適していると思われるものを選択して行いますが、効果が認められないときには適宜治療方法を変更していきます。

扁平疣贅は顔面や上肢や手背などに長期にわたって出現することが多いですが、自然消退することも多く、治療はヨクイニンエキス(保険適応)やシメチジン内服療法、2-5%サリチル酸製剤の外用(保険適応)が有効のことがあります。顔面に症状がある場合、液体窒素凍結療法(保険適応)や電気焼灼法や炭酸ガスレーザー療法は色素沈着や瘢痕を残す可能性があるので、患者さんへの説明と施術における細心の注意が必要です。

尖圭コンジローマの治療は、液体窒素凍結療法(保険適応)、イミキモドクリーム(ベセルナクリームR)外用(保険適応)、三塩化(あるいは二塩化)酢酸の外用、電気焼灼法、レーザー蒸散、インターフェロン局所注射などが行われます。

尚、子宮頸癌予防のHPVワクチン接種が可能になってその実績が証明されてきているので、将来的には尋常性疣贅に対する予防ワクチンの開発が期待されています。

執筆:2009.11

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