悪性黒色腫

悪性黒色腫(malignant melanoma)

本症は、皮膚・眼窩内組織・口腔粘膜上皮などに発生するメラノサイトあるいは母斑細胞(黒子の細胞)由来の悪性腫瘍と考えられています。皮膚癌の中でも最も悪性度が高く、日本人の年間推定発生患者数は1.5~2人/10万人程度とされており、欧米人の15~20人/10万人と比べ少ないが、近年は増加傾向にあります。年齢別にみた悪性黒色腫の死亡率は、男性で60歳代、女性では70歳代から増加します。

原因

正確な発生原因は不明ですが、皮膚に発生する悪性黒色腫は紫外線曝露と、足底に発生するものは機械的刺激との関連性が深いと考えられています。また、近年の世界的な増加は、人口の高齢化や衣服などの生活様式の変化,オゾン層破壊などによることが考えられています。
本症が皮膚に発生する場合、多くは扁平上皮基底層に存在するメラノサイトが前癌病変である母斑を形成し、その後、水平増殖期、垂直増殖期を経て転移を起こすという多段階的な悪性化仮説モデルが考えられています。また、各段階においてある特定の遺伝子が関与している可能性も示唆されています。

前駆症および早期症状

黒子の細胞(母斑細胞)またはメラノサイトが悪性化し、悪性黒色腫になる一歩手前の状態(悪性黒色腫前駆症)には、比較的短期間(約1~2年以内)に下記のような変化があります。これらの前駆症の状態ないしは早期の悪性黒色腫の状態で発見して、早期治療することが最も重要です。
(1)色調の変化(色調不均一)
一般に薄い褐色が濃い黒色に変化する場合が多くあります。また、色調に濃淡が生じて混在したり、一部色が抜けてまだらになることもあります。
(2)大きさの変化
1~2年以内の経過で、直径2~3mm程度の色素斑が5~6mm以上になった時は注意すべきです。短期間に目立って大きくなるものは要注意です。
(3)形の変化(境界不明瞭、いびつな形)
色素斑の辺縁が、ぎざぎざに不整になったり、しみ出しが出現したりすることがあります。色素斑の一部に硬結や隆起が出現した場合は要注意です。
(4)硬さの変化
一般に、黒子は一様に均一な硬さを呈しますが、その一部または全体が硬くなってくることがある場合は要注意です。
(5)爪の変化
爪にできる場合は他の皮膚と違い、爪に黒褐色の色素線条が出現し、半年~1年くらいの短期間に色調が濃くなって、線条の幅が拡大してきます。進行すると爪が割れたり、色素のしみ出しが出現することがある場合は要注意です。

悪性黒色腫の病型とその症状

悪性黒色腫の臨床症状は非常に複雑で多彩ですが、放置すると、早期に所属リンパ節(最初に発生した部位から一番近いリンパ節)転移することが多く、さらには肺、肝臓、脳などあらゆる臓器に転移します。現在、臨床症状から4つの病型に分けられていますが、どれにも当てはまらない中間型や分類不能型が少なからず存在します。
(1)悪性黒子型黒色腫
顔面、頸部、手背などの日光露出部位に発生します。初期には褐色~黒褐色の色素斑が出現し、この時は悪性黒子(lentigo maligna)と呼ばれる前駆症の状態であり、経過は緩やかで数年以上存在することがあります。やがて色調は濃黒色を混じ、次第に拡大し、さらに一部に硬結や腫瘤が出現してきて悪性黒色腫になります。一般に60歳以上の高齢者に発生することが多く、緩徐に増大するため、治療により治癒する確率が4病型のうちで最も高いといわれています。この病型の占める割合は9.5%で4病型のうちで最も少ないのですが、以前に比べ割合は増加傾向にあります。
(2)表在拡大型黒色腫
黒子の細胞(母斑細胞)から発生すると考えられ、前駆症の状態を経て、全身どこにでも発生します。わずかに隆起した色素斑が徐々に拡大することから始まることが多く、やがて表面が隆起し、表面および辺縁ともに不整となり、色調も褐色~黒褐色より一部濃黒色となり濃淡相混ずることが多くなります。一般に50歳代に発生することが最も多いのですが、子供~高齢者まで広い年齢層で発生します。比較的腫瘍の成長は緩やかですが、悪性黒子型黒色腫より治癒する確率が低くなっています。この病型の占める割合は15.7%で、4病型のうちで2番目に少ないのですが、この病型も以前に比べ割合は増加傾向にあります。特に、この型は紫外線の影響が大きいと考えられており、日本人では表在拡大型は17%であるのに対し、白色人種では58%と有意に発生率が高いです。
(3)結節型黒色腫
全身どこにでも発生し、ほとんど前駆症の状態をあらわさないで、はじめから急速に成長することが多い病型です。症状としては、はじめから立体構造をしていることが多く、ドーム状~半球状、有茎状などの結節性病変を呈し、潰瘍を伴うことも多いです。初期には色調は褐色~黒褐色ですが、徐々に全体的に濃黒色となったり、あるいは濃淡色が混在することになります。一般に40~50歳代に最も多く発生しますが、どの年齢層にも生じます。腫瘍の増大は速く、早期に深部に進行して転移することが多く、最も悪性度が高い病型です。この病型の占める割合は30.0%で、4病型のうちで2番目に多いのですが、この病型は以前に比べ割合はやや減少傾向にあります。
(4)末端黒子型黒色腫
我国に最頻度の病型であり、主に足底、手掌、手足の爪部に発生し、そのうちで足底に最も多い病型です。足底および手掌では、初期には前駆症として褐色~黒褐色の色素斑が出現し、次第に色素斑の中央部を中心として黒色調が強くなり、その中央部に結節や腫瘤ができたり、潰瘍ができたりしてきます。爪部では、はじめ前駆症として爪に黒褐色の色素線条が出現し、半年~1年くらいの短期間に色調が濃くなって、線条の幅が拡大し、爪全体に拡がってきます。次に爪が割れたり、褐色~黒褐色の色素のしみ出しが爪の周辺の皮膚に出現することがあります。さらに進行すると爪がとれ、爪の部位に結節や腫瘤ができたり、潰瘍ができたりします。いろいろな年齢層に発生しますが、一般に40~50歳代に最も多く発生します。腫瘍の成長は結節型黒色腫より緩やかで、前駆症や早期の状態で発見されることが可能であり、一般に結節型黒色腫より治癒する確率が高く、表在拡大型黒色腫より低いと考えられています。この病型の占める割合は44.8%で、4病型のうち最も多く、以前に比べ割合はあまり変わっていません。
※その他、悪性黒色腫は皮膚だけでなく、頻度はあまり多くありませんが、粘膜(食道、直腸、鼻腔粘膜など)にも発生することがあります。

診断

診断は視診に加えて、ダーマスコピーによる診察を行い、これらでおおよその診断は出来ます。
しかし、鑑別が困難な例もあるので、確定診断するためには腫瘍標本の検査(病理組織検査)が必要ですが、病変の一部を採取する皮膚生検は、転移を誘発する可能性もあると考えられるため、やむをえない場合を除いて通常行われません。即ち、臨床症状により診断が困難な場合は、手術で腫瘍周囲から5mm程度離して腫瘍全体を拡大切除(全摘生検)し、手術中に腫瘍の厚さも含めて迅速病理組織検査を行います。悪性と診断された場合には、さらに大きく追加切除することになります。
リンパ節転移や多臓器転移などの検索のために、X線、CT、超音波、シンチグラム、MRI、PETなどの画像診断検査を行います。また、血液中の腫瘍マーカー(5-S-シスチニルドーパ)の検査値も参考になります。

以上のような検査を行って本症の進行程度(I-IV病期)を決定し、各病期にあった治療を行います。
0期:上皮内癌のみ。
I期:初発部位にのみ腫瘍を認め、転移を認めないもので、初発部位における腫瘍自体の厚さが1mm以下のもの、または厚さが1mmを超えていても腫瘍表面の潰瘍がなくて2mm以下のもの。 II期:初発部位にのみ腫瘍を認め、転移を認めないもので、初発部位における腫瘍自体の厚さが1mmを超えていて2mm以下であり、潰瘍を伴うもの、または潰瘍のあるなしにかかわらず、2mmを超えるもの。この中でも特に厚さ4mmを超えるものは要注意。
III期:次のいずれかが認められる場合
  1. 所属リンパ節(初発部位から最も近いリンパ節)に転移を認めるもの。
  2. 初発部位の周囲(衛星病巣と呼ぶ)、または初発部位から所属リンパ節までの間に皮膚転移や皮下転移を認めるもの。
IV期:所属リンパ節を越えた領域に皮膚転移、皮下転移、リンパ節転移を認めるもの、または内臓に転移を認めるもの。

治療

皮膚は誰でも観察することができる部位なので、上述のように前駆症や早期症状が疑われる場合には、自己判断せずに皮膚科専門医に受診して診断を仰ぐ必要があります。それが早期発見、早期治療につながります。
本症の治療は早期に発見して、手術による拡大切除することが原則です。なぜなら、初発病巣の周囲には既に皮膚転移(衛星病巣)が数ヶ所発生することが多いという特徴があるため、初発病巣のみを小切除して放置した場合、その周囲にかなり高い確率で腫瘍が再発したり、リンパ節転移を生じるためです。やむを得ず外来で腫瘍のみを小切除術後、本症と診断確定された場合は、可及的速やか(前回の手術から2週間以内)に広範囲切除を行う再手術したほうが良いとされています。
また、病期に応じて所属リンパ節郭清(最近は郭清範囲や手術範囲をより狭めるためにsentinel node biopsyが行われることが多い)や指趾や四肢切断なども必要に応じて行ないます。
進行した悪性黒色腫に対しては、外科療法の他、抗がん剤による化学療法、リンパ球などを使った免疫療法、および放射線療法などいろいろな手段を組み合わせた治療(集学的治療)が行われます。
本症における化学療法には、ダカルバジン、ニムスチン、ビンクリスチンとインターフェロンβを併用するDAV feron療法などが用いられていますが、その奏功率は30%程度です。
本症に対する放射線療法は、一般に行われる放射線では効果が少ないことが多く、速中性子線や重粒子線といわれる特別な放射線では効果を示すことがありますが、限られた施設でしか行うことができません。また、放射線治療に温熱療法(腫瘍細胞を42℃以上に暖めて殺す治療)を併用すると皮膚転移にある程度の効果があります。
その他、免疫療法(NK細胞療法や活性化リンパ球療法などの非特異的免疫細胞療法、がん樹状細胞療法など)やインターフェロン療法なども行われることがあります。

予後

0期やI期であれば5年生存率は95%以上であり、II期でも70?80%ですが、III期では50%程度、IV期では10%未満と予後は悪くなります。また、陰部など特殊な部位に発生した悪性黒色腫は他の部位のものと比べ予後は悪いです。

執筆:2011.1

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