老化細胞は加齢性疾患の原因か?

動物のからだを構成する細胞は限られた回数しか分裂・増殖することができません。細胞分裂の限界(分裂寿命)を1961年に発見したLeonard Hayflickの名にちなんで「ヘイフリック限界」と呼ばれていますが、その限界は細胞が由来する組織、生物の種類によって異なります。例えば、ヒトの正常体細胞を培養しても無限には分裂できず、50~70回分裂すればもはや分裂できなくなります。細胞の分裂寿命を決める要因として、染色体末端にあるテロメアが強く関与していることも明らかになっており、別項の「テロメアと寿命」にも記述済みですので、ご参照下さい。 さて、限界まで分裂した細胞は「老化細胞」と呼ばれる状態に達し、死滅もしませんが増殖もしません。このような状態になるのは、細胞の異常分裂を抑制し、癌の発生を予防する生体の防御機構の一つだと考えられています。勿論、このような機能不全にある細胞は健常な免疫系の排除システムにより適宜除去されますが、加齢と共にその効率が低下すると、徐々に老化細胞が蓄積していきます。高齢者では全細胞の10-15%が老化細胞になるとされています。

この老化細胞が分泌するある種の化学物質により、隣接する正常組織や機能を撹乱させて、加齢性疾患の原因になっているのではないかと仮説を立てている研究者もいます。

ごく最近、巧妙に企画された遺伝子組み換えマウス動物実験で,加齢に伴い蓄積される老化細胞を除去することにより、加齢性疾患(白内障)や生理機能の低下(筋力低下、脂肪組織減少)の発生を予防あるいは遅延できる可能性を報告しています( Baker DJ et al. Clearance of p16Ink4a-positive senescent cells delays ageing-associated disorders. Nature 479: 232-236, 2011)。

この研究結果は、加齢プロセスにおける老化細胞の関与を明瞭に示しており、大変評価されるべきだと思います。今後、加齢性疾患あるいは生活習慣病などで、この老化細胞を排除したり、あるいはその影響を阻害する治療方法あるいは薬剤が開発されれば、現在の治療方法を根本的に変える可能性も秘めているのではないかと思います。さらには、加齢プロセスと心疾患・脳卒中・癌・認知症などの疾患素因との関連性を絶つことができるかもしれません。

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