エイコサペンタエン酸

エイコサペンタエン酸 [Eicosapentaenoic acid (EPA)]

多価不飽和脂肪酸はヒト体内では生合成されないため、食事によって摂取する必要があります。多価不飽和脂肪酸はメチル基から二重結合の位置が6番目にあるn-6(ω-6)と3番目にあるn-3(ω-3)に大別され、前者はリノール酸からアラキドン酸に変換され、後者はα-リノレン酸からエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)に変換される合成経路を有するが、両者間では変換できません。これら生体内で合成できないリノール酸とα-リノレン酸は必須脂肪酸と呼ばれています。
アラキドン酸を多く含む食事でアラキドン酸が過剰となっている細胞膜も、EPAを1200-1800mg/日摂取することで、EPA 豊富な細胞膜になってきます。これら必須脂肪酸は共にアラキドン酸カスケードにおいて同一酵素で変換されますが、両者の代謝産物の生理活性はアラキドン酸由来に比べてEPA由来が弱いとされています(→抗炎症作用の項目参照)。従って、アラキドン酸アナログとしてEPAが作用することで、細胞膜は流動性や透過性が変化して、血小板凝集能の低下、白血球での抗炎症作用・粘着能低下・赤血球の変形能亢進、血管内皮細胞および平滑筋細胞の内膜肥厚抑制、心筋細胞での抗不整脈作用などの多彩な作用を示すようになると考えられています。

1)高トリグリセリド(TG)低下作用

EPAは肝臓で脂肪合成酵素群の発現を制御する転写因子SREBP-1cと結合して、脂肪酸合成を抑制し、肝臓におけるTG合成を抑制します。また、PPARα活性を促進して脂肪酸異化を亢進します。また、動物実験ではn-3多価不飽和脂肪酸摂取で、内臓脂肪の蓄積を抑制することが報告されています。

2)動脈硬化の進展抑制

a) 内皮傷害改善作用

EPAは血管内皮細胞に直接作用してNO産生低下を防止すると共に、内皮上皮細胞上の接着因子(ICAM、VCAMなど)の発現を抑制することにより、単球やT細胞などの炎症性細胞の内皮下への侵入を抑制します。また、引き続き起こる慢性炎症反応を抑制することにより、動脈硬化の進展を予防します。

b) 内膜肥厚抑制作用

EPAは血管平滑筋細胞の無制限な増殖を抑制することにより血管内膜肥厚を抑制します。

c) 血管弾性保持作用

動脈硬化が進展すると血管は硬化して弾力が減少してきますが、EPAは血管中膜の物性を改善することによって血管弾性を保持する作用を有し、これにより動脈硬化の進展を抑制しています。

d) 抗炎症作用

酸化ストレスや炎症反応などが生じると、n-6系多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸が多い細胞膜のリン脂質では、アラキドン酸がシクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼの基質として利用されて、強力な生理活性を有するロイコトリエン4類やプロスタグランディン2類が産生されます。一方、EPA摂取により細胞膜のリン脂質にEPAが増えると、アラキドン酸とEPAは競合的に同様の酵素の基質となるため、EPAから産生される生理活性の弱いロイコトリエン5類やプロスタグランディン3類が相対的に増加して、総じて炎症誘起物質の活性を低下させます。更にホスホリパーゼA2の阻害作用を有することも報告されているため、ロイコトリエン類やプロスタグランディン類の産生よりも上流で抑制している可能性が報告されています。また、最近ではEPAを基質として5-リポキシゲナーゼ様の酵素が産生するresolvin E-1が強力な抗炎症作用を有することが明らかになり、EPAの代謝産物が炎症を抑制している可能性が示唆されています。
更に、多価不飽和脂肪酸は遺伝子発現にも影響を及ぼしていることがわかり、特にEPAはNF-κBの発現を抑制して、炎症性サイトカイン産生を制御していると考えられています。また、EPAはNF-κB の活性を制御しているPPARSのリガンドとされていることは大変興味深いところです。

3)冠動脈イベント抑制作用

a) プラーク安定化作用

EPAは抗炎症作用を有するため、動脈硬化の進展を抑制するばかりでなく、生じたプラークを厚い繊維性皮膜で安定化させることに貢献しています。

b) 抗血小板作用

EPAはアラキドン酸に拮抗して抗血小板作用を有することは古くから知られており、アラキドン酸から産生されるTXA2(強力な血小板凝集作用と血管収縮作用)に対するEPAから産生されるTXA3(無作用)の拮抗作用として理解されています。この血小板凝集抑制作用により、プラーク破綻に引き続く血栓形成を抑制することにより、冠動脈イベント抑制作用を発揮すると考えられます。

c) 冠動脈攣縮抑制作用

血管内皮細胞障害によりNO産生が低下して血管が収縮する機序以外に、Rhoキナーゼのミオシンリン酸化を介した平滑筋収縮機序があります。EPAはリン酸化酵素Fynを脱シアル化して不活性型に変えて、Rhoキナーゼ活性を低下させることで血管を弛緩させます。 Ca非依存性の血管異常収縮に対する薬剤は未だ存在せず、EPAは冠動脈攣縮を抑制することにより、心筋の虚血を防止・軽減しています。

d) 抗不整脈作用

海外で実施された大規模臨床試験や疫学研究で、EPAは不整脈を抑制して突然死を減少させることが報告されています。その作用機序としては、Na & Caチャンネルを修飾して心筋の活動電位を起こす閾値を高めて相対不応期を延長する、あるいは、細胞内Ca蓄積を阻害して心室細動の発生を抑制することが考えられています。

4)その他の効果

ヒトの臨床試験の結果により、経口摂取あるいは経管摂取で有効性が示唆されている疾患は、1)潰瘍性大腸炎、2)再発性の単極性うつ症状に対する抗うつ治療の補助剤、3)境界性人格障害、4)L-アルギニンとRNAの組み合わせで手術後の回復時間を短縮、5)重篤な合併症の予防、6)免疫能の向上、7)リウマチの改善、8)中等度の肥満・高血圧患者の体重減少、がある。

適性摂取量
虚血性心疾患一次予防ガイドライン(2006年度版)では栄養管理目標として脂肪エネルギー比20-25%、脂肪酸摂取バランスとしては、飽和脂肪酸:一価不飽和脂肪酸:多価不飽和脂肪酸=3:4:3、更にn-6脂肪酸:n-3脂肪酸=4:1を推奨しており、日本人の食事摂取基準(2005年度版)でも、n-6脂肪酸(男性11g/日、女性9.5g/日)、n-6脂肪酸(男性2.6g/日以上、女性2.2g/日以上)が推奨されています。
EPAの供給源は魚油・青魚ですが、酸化されやすいので鮮度に注意し、植物油に含まれるα-リノレン酸も体内で代謝されてEPAになるので、摂取が勧められます。
尚、適切な経口摂取であれば安全と思われますが、1日3g以上の摂取で、凝血能が低下し出血しやすくなる可能性があります。EPAを含む魚油では、副作用としてげっぷ、吐き気、鼻血、軟便が知られている。妊娠中、授乳中の安全性については十分なデータがないので、魚などの食品や特別用途食品として摂取する以外の使用は控えるべきです。

▲PageTop

ページトップに戻る