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mammalian Target of Rapamycin (mTOR)

品川シーサイド皮膚・形成外科クリニック > mammalian Target of Rapamycin (mTOR)

細胞は常に細胞内ならびに細胞外の栄養環境やストレスを感知して、細胞の成長や増殖を完遂するための十分な栄養があるかどうか、蛋白質合成を行うことが可能かどうかを判断している。また、細胞内のエネルギー枯渇状態や細胞内ストレスの増加あるいは細胞外の栄養やストレス環境が悪化している場合は、細胞は速やかに蛋白質合成を抑制して増殖を停止する。このような栄養やエネルギー源(アミノ酸やグルコース、ATP, AMPなど)やストレスを感知すると考えられている細胞内情報伝達因子が、ラパマイシン(Rapamycin)の細胞内標的蛋白質であるmammalian Target of Rapamycin (mTOR)で、分子量289kDaの巨大なセリン・スレオニン蛋白質リン酸化酵素である。
最近の研究では、mTORは細胞内で独立な2つの異なる複合体(mTORC1, mTORC2)内に存在していることがわかり、各々異なる機能を果たしながら多彩な役割を演じていると考えられている。

mTORC1

mTOR、Raptor、GβL(mLST8)、PRAS40からなる mTOR 複合体1(mTORC1)は、栄養・エネルギー・レドックスセンサーとして働き、蛋白質合成を統合・制御している。mTORC1活性は、ラパマイシン・栄養飢餓・ATP減少・成長因子やホルモン減少(インシュリンなど)・ストレス減少・カフェイン・クルクミンなどで阻害され、富栄養・アミノ酸増加・成長因子やホルモン増加・酸化ストレスなどで促進される。尚、アミノ酸感知はRag蛋白を介してmTORC1に伝達されるが、その詳細機序についてはまだ解明されていない。
活性化mTORC1はシグナル伝達下流経路に多くの生物学的効果をもたらす。その効果には、下流標的(4E-BP1やp70-S6K1)のリン酸化を介する mRNA の翻訳、オートファジーの抑制(ATG)、リボゾームの生合成(p70-S6K1)、ミトコンドリア代謝(PGC-1α)や脂肪産生(PPARγ)や血管新生(HIF-1)を導く転写の活性化などがある。
この他にも脳の発達や学習・記憶形成に関与していることが示唆されている。

mTORC2

mTOR、Rictor、GβL、mSin1からなる mTOR 複合体2(mTORC2)は、Akt を活性化することで細胞の生存を促進し、F-アクチンストレス線維・パキシリン・Rac1・Cdc42・PKCαやRho GTPaseなどを活性化して細胞骨格動態を制御している。また、ラパマイシンの急性暴露ではmTORC2に影響を及ぼさないが、慢性暴露では新しいmTORC2形成を阻害することがわかってきた。しかし、まだまだ未解明な部分が多く、今後の展開が期待される。

ラパマイシンによるmTOR活性を抑制すると、老化を抑制できることが線虫・出芽酵母・キイロショウジョウバエやマウスで証明されている。カロリー制限による寿命延長は、mTOR活性の抑制によって生じている可能性が高い。
また、異常な mTOR シグナルは、癌・心血管系疾患・糖尿病を含む代謝異常・肥満・免疫異常疾患・神経疾患などの多くの疾病に関連すると示唆されているため、ラパマイシン類似のmTOR活性阻害剤が開発され、抗癌剤、免疫抑制剤などに使用され始めている。

ラパマイシン(Rapamycin;別名Sirolimus)

ラパマイシンは、イースター島(原住民の言葉でRapa Nui)の土壌中の放線菌(Streptomyces hygroscopicus)から産生されるマクロライドラクトンで、1970年代に元々抗真菌剤として発見された。1990年代になると、ラパマイシンがリンパ球内の重要な制御キナーゼを阻害して免疫抑制効果を持つことから、免疫抑制剤として再認識されるようになり、最近では癌細胞のアポトーシスを誘起することわかり、抗癌剤としても脚光を浴びるようになってきた。その作用機序は、ラパマイシンがFKBP12と結合して複合体を形成し、それがmTOR複合体(mTORC1)に結合してシグナル伝達経路を抑制すると考えられている。
ラパマイシンはタクロリムスの構造類似体ではあるが、異なる作用機序を持つため第3の免疫抑制剤として注目されている。即ち、カルシニューリン阻害作用を有するタクロリムスはインターロイキン2(IL-2)の産生を阻害するが、ラパマイシンは細胞内シグナル伝達と細胞増殖を抑制して、IL-2に対するリンパ球の応答を阻害してTリンパ球の活性化を抑止し、同様にB細胞の抗体産生を阻害する。従って、ラパマイシンは機序の異なる免疫抑制剤を組み合わせることで相乗的に作用し且つ副作用も少なくなることが期待される。
また、ラパマイシンは腎毒性が低いため、臓器移植患者が長期にわたって免疫抑制剤治療による腎機能低下や腎不全が危惧される場合は良い適応になる。副作用には,高脂血症および創傷治癒障害,ならびに白血球減少や血小板減少,貧血を伴う骨髄抑制などがある。尚、ラパマイシンを含めた免疫抑制剤は、一般に内在する自身の抗癌活性を減弱させ、正常よりも発癌率を10-100倍程度上昇させるので留意するべきである。
ラパマイシン並びに類似mTOR阻害剤(temsirolimus, everolimusなど)が、様々な癌(腎癌、多形性膠芽腫、マントル型細胞悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群など)に対する抗癌剤として治験中で、他の抗癌剤との組み合わせの検討もなされている。
この他にも、結節性硬化症(知能低下、癲癇発作及び顔面の血管線維腫を主徴とし、皮膚・中枢神経系・眼・腎・心・肺などほぼ全身に種々の過誤腫を形成)の脳腫瘍や腎腫瘍など、あるいは常染色体優性多発性嚢胞腎にもラパマイシンは効果あることが報告されている。