減塩摂取と高血圧

最近の研究論文(Kirsten BD et al. N Engl J Med.2010; 362:650-2)によると、塩分摂取量を減少させると心血管疾患や医療費を大幅に抑制できると報告されています。
3g/日の減塩による心血管疾患への効果と費用対効果をコンピュータシュミレーションで予測した結果、3g/日の減塩で心血管疾患(冠動脈疾患、脳卒中、心筋梗塞)発生率が減少し、減塩量とそのイベント発症数の間には直線関係が成り立つため、その効果は1g/日の減塩でも期待できると予測されました。また、減塩効果は性別・年齢・人種にかかわらず得られると予測されています。次に、3g/日の減塩の費用対効果はQuality-Adjusted Life Year(質調整生存率)が全米で年間19.4-39.2万年得られ、年100-240億ドルの医療費削減が期待できるとされています。さらに、1g/日の減塩でも10年間達成できたとすると、高血圧患者すべてに降圧剤を投与するより大きい費用対効果が得られると予測されました。結論として、少量の減塩対策によって心血管疾患や医療費の大幅な削減が期待できるので、減塩を公衆衛生の目標にするべきだとしています。

ところで、心血管疾患の元凶である高血圧対策の基本は、一に減塩、二に運動、三に薬物治療ですが、この認識が広く社会一般に周知されているとは言いがたいと思われます。日本を含む各国の高血圧治療ガイドラインでは、食塩摂取量を6g/日にすることを推奨していますが、日本人の平均食塩摂取量はこの数年間11g/日前後で推移していることからも、このハードルをクリアするには大変な努力が必要であることことが容易に予想されます。

人間の味覚は食塩の濃度差が10%以下であれば識別ができないとされているため、時間をかけて味覚を慣らしていくと、6g/日の減塩は不可能ではないとされています。しかし、個人的にこのような努力をしても巷に溢れる外食や加工食品には多量の食塩を含むものが多いので、その誘惑に負けてしまって味覚がまた元に戻ってしまうことも想像にかたくありません。行政機関や食品産業が一体になって全社会的な減塩キャンペーンの啓蒙と実践が必要と考えられます。

現在の日本人は11g/日の食塩摂取であることを踏まえると、現実的には8-9g/日の塩分摂取量をまず目標にするのが妥当ではないでしょうか? また、果物・生野菜・低脂肪食(カリウムやカルシウムの豊富な食物)を摂取するようにすると、より血圧は低下することが既に疫学調査で解明されているので、腎機能低下患者以外は積極的に減塩プラス果物・生野菜・低脂肪食を摂取することが勧められます。

テレビなどではグルメ食番組が盛況ですが、このような番組の中で減塩をしても美味しく食べられるグルメ料理の作り方やコツなどを積極的に提供すればよいと思うのだが、如何なものであろうか? 但し、減塩をすることができても、コレステロールやカロリーの多い洋風料理の献立になってはメタボリック症候群の助長になりかねないので、注意が必要だと思います。

閑話休題。小生は以前栃木県に勤務していたことがあるので、着任時にこの地方の食事の味付けがかなり濃かった(塩分が濃厚)ことを記憶しています。その当時、秋田での脳卒中発症率が漸減してその効果を発揮していたのに対し、栃木では脳卒中が以前減少せずワースト組に挙がっていたことを思い出します。しかし、在任期間中にその食生活に舌が慣れてしまうと、別に違和感がなくなってしまうのが人間の性です。減塩摂取は個人の努力ではなかなか困難で、その地方や国あるいは文化や食環境によって大いに左右されることを、自分自身で強く実感した次第です。

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