歯周病と老化

ヒトが老化を感じ始める部位の一つに口腔の機能低下(歯の喪失、歯周病、味覚障害、口臭、口腔乾燥症など)があります。とりわけ、歯周病は歯周組織において歯周病菌の感染と生体免疫との間で発生する慢性炎症ですが、出血や痛みなどの症状が軽いために治療を受けないまま進行することが多く、高齢になるほど歯周病に罹りやすくなることが分かっています。口の中には、500種類以上の細菌やスピロヘータが常在していますが、このうち歯周病を起こす菌は9種類前後とされます。歯周病の怖さは、知らず知らずのうちに歯を支える歯槽骨が溶け、結果として歯の喪失時期を早めてしまうことにあります。また、口臭の原因となることもあります。
最近になり、歯周病は歯周組織のみの局所慢性感染と炎症に留まらず、加齢と共に免疫力が低下するために歯周病菌が血液や血管を介して、さまざまな全身の臓器へ影響を及ぼすことが分かってきました。心脳血管障害(動脈硬化)、バージャー病(Buerger's disease)、糖尿病、妊娠異常、呼吸器感染症、誤嚥性肺炎、感染性心内膜炎、敗血症、認知症、骨粗鬆症などの病態の成立機序にも歯周病は関与していることが報告されてきています。

歯周病と動脈硬化

歯周病菌自体あるいはこれらの菌から産生される内毒素や炎症性サイトカイン産生の促進が、血管の炎症や内皮傷害を惹起して動脈硬化を促進すると考えられています。実際、動脈硬化病巣やバージャー病巣で、歯周病原因菌であるPorphyromonas gingivalisやTreponema denticolaなどが検出され、これらの菌は血管内皮細胞に侵入でき、さらには血小板の凝集を促進し、血栓形成を助長することも報告されています。また、歯周病治療によって、血管拡張による血流の改善、好中球レベルと血中可溶型Eセレクチン濃度の減少を認め、血管内皮機能の改善を示した報告もあります。

歯周病と糖尿病

臨床的に糖尿病になると歯周病に罹患しやすくなることは分かっていましたが、最近、歯周病が糖尿病の危険因子であることがわかってきました。歯周病菌の一つであるPorphyromonas gingivalisが腫瘍壊死因子(TNF-α)分泌を促進することにより細胞のインスリン抵抗性が高まって糖尿病が増悪し、この糖尿病によって歯周病がさらに増悪するという悪循環(歯周病菌連鎖)が生じます。実際、歯周病治療により、2型糖尿病患者の血糖値や血中TNFα濃度、HbA1c値が低下したとの報告があります。

歯周病と妊婦

最近の疫学調査によると、歯周病にかかっている妊婦は、早産や低体重児を出産するリスクが高いという報告があります。歯周病菌が増えると炎症性サイトカイン(特にインターロイキン1など)が過剰分泌されるため、妊婦の身体が出産の準備が整ったと判断し、陣痛や子宮の収縮が起こって切迫早産や早産を引き起こすと考えられています。歯周病の妊婦は正常妊婦に比べ、約5倍も早産のリスクが高いことが確認されています。

歯周病と感染症

歯周ポケット内の歯垢(バイオフィルムで覆われた細菌の塊)のほとんどはグラム陰性桿菌とスピロヘータです。歯周病になって歯周ポケットが深くなるほど、歯垢にいる細菌が歯肉の上皮を通り抜け血管内に入り込みやすくなります。免疫作用の正常な健常人では、これらの細菌が多少血液中に入り込んでも速やかに駆逐されてしまうので問題はありませんが、高齢・糖尿病・癌などで免疫が低下している状態や体内に異物が留置されている時には、より強い病原性を発揮して致死的な感染症を引き起こすこともあります。

唾液と老化

唾液は毎日1.5Lほど分泌されて消化・潤滑・緩衝作用などを行っています。一方では,唾液の中には種々の成長因子・抗菌物質・抗活性酸素成分が存在するため、口腔内粘膜の修復や歯のエナメル質の修復だけでなく、う蝕・歯周病をはじめとする歯科疾患に対する生体防御機構や老化予防にも重要な役割を果たしています。
老化に伴い唾液分泌量が減少すると、上述の成長因子・抗菌物質・抗活性酸素成分の分泌量も低下するため、外傷・感染などの慢性的侵襲に対する防御能が低下すると共に老化を促進するものと考えられます。このことからも唾液が十分に分泌されていることが老化防止に重要です。

このように、歯周病は老化促進因子の一つと考えられるため、若い頃からう蝕(虫歯)や歯周病にならないように正しい歯磨きを励行して機械的に歯垢を取り除き、歯周病原性細菌の温床となる歯周ポケットを極力なくして、歯周病の予防と治療をすることが大切です。更に、喫煙、ストレス、食生活、栄養状態なども歯周病を悪化させるので注意して下さい。

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