カルパイン(calpain;CPN)

CPNはほとんどの真核生物と一部の原核生物に見られる細胞質内プロテアーゼで、Ca2+依存的に基質を限定分解(プロセシング)する。種々の細胞内蛋白質、特に細胞膜や細胞骨格に近接して存在する蛋白質やシグナル伝達に関連する蛋白質などを限定分解して、その性質を変化させるバイオモジュレータとして働くと考えられている。また、この活性を阻害する蛋白質がカルパスタチン(calpastatin)であり、CPNの反応を制御しているが詳細の機構はまだ不明である。
組織普遍的に存在するμ-カルパイン(CAPN1)及びm-カルパイン(CAPN2)は1960年半ばから研究されており、これらは生命にとって必要不可欠な機能を有し、細胞質内の基質に直接作用してその機能・活性・構造を変換する細胞内モジュレータープロテアーゼである。
組織普遍的に存在するCPN1&2の他に、最近では組織特異的に発現するCPNホモログ、CPNと相同なプロテアーゼドメインを持つがカルシウム結合ドメインを持たない非典型的なCPNホモログなど多くの類縁蛋白質が発見されている。即ち、CPNは活性ドメインの構造は広く保存されつつも、他のドメインには多様な構造を有していくつかのサブファミリーに分類される、スーパーファミリーを構成している。

現在までに哺乳類には13の遺伝子(CAPN1~3, 5,7~15)が存在し、CAPN2の遺伝子破壊は胚性致死をもたらす一方、骨格筋特異的CPN(p94をコードするCAPN3)は、病原性変異によってp94のプロテアーゼ活性不全を生じると、肢帯型筋ジストロフィー2A型(LGMD2A)を生じる。この他、CPN10もII型糖尿病の責任遺伝子の一分子種である可能性があると考えられている。CPN5は多嚢胞卵巣症候群への関与が報告されている。
各組織に特異的に発現するCPNには、p94の他にも、胃特異的nCL-2/CPN8、消化管特異的nCL-4/CPN9などが存在する。特に、CPN9は胃癌発症の抑制に関与していると考えられており、CPNは生命に必須な酵素であると同時に、各組織特異的機能にも重要な役割を果たしていることが示唆されるが、組織での生理機能の分子メカニズムは未解明な部分が多い。
逆に、細胞内Caが増加するような病態(例えばアルツハイマー病、白内障、心筋梗塞や脳血管障害後の急性細胞ストレス、急性外傷性脳損傷や脊髄損傷など)が生じると、カルパイン活性が異常亢進して細胞内蛋白質を過剰分解して非可逆的細胞損傷を与え、さらにNaなどのチャンネル機構を破綻させて細胞崩壊を助長し、一方ではカスパーゼ経路を亢進させてアポトーシスを誘導し、最終的には細胞ならびに組織を壊死させてしまう。従って、このような病態のカルパインの活性異常を制御するために、カルパイン特異的阻害剤の開発も進められている。

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